1999.09 BR 家畜人ヤプー 第二巻
家畜人ヤプー 第二巻
沼正三 幻冬社アウトロー文庫 1999年
REVIEW
二千年後の未来に連れ去られたクララと麟一郎は、飼い主と奴隷として新たな関係を築くようになる。
クララの家畜(ヤプー)として改造された麟一郎は、家畜適正検査を受ける。そして新畜登録され、畜人洗礼儀式を受ける。クララはイースの貴族として正式に認められ、優雅な日常に慣れつつあった。そして自分たちが抜け出した20世紀末の歴史を脳波書見器(ブレイン・リーダー)で振り返るが……。
「戦後最大の奇書」、第二巻。
どんどん哀れな奴隷と化していく麟一郎と、傲慢な貴族になっていくクララの対比が面白いです。今回グロテスクなシーンは赤クリーム馴致のくだりくらいでしたが、やはりこれも慣れかもしれません。
この話は物の名前にさまざまな趣向(パロディ)があるのですが、今回ヤバいと思った名前はヤソクマ・ヤスクニでした。これはヤプーの墓地の名前です。最初読んだときは、「ブラックだなあ」と苦笑したのですが、解説を読んで思い直しました。
この小説が書かれたのは、敗戦してから十年ほど経った頃です。それが戦争時に青春時代を迎えた著者たちにどれほどのトラウマを与えたか、ということを解説の前田宗男氏は書いています。そう思うと、ただ「ブラックだ」と片づけられない暗部がこの言葉にはある。世代の差とはいえ、それに気づかない私も問題だと思ったのでした。
名前の一例を本文から挙げると。
同じ形態が、白人には尿瓶を、黒奴には酒ジョッキを、ヤプーには聖水瓶(みきどくり)をそれぞれ意味するのである。(P156)
中身は全部同じです。人種によって中身の価値が違ってくることを表しています。
一巻の解説で書き忘れていますが、イースの白人の世界では女性が主権を持っています。男性がスカートを穿き、童貞性が重要視される、古い日本の夫婦観を裏返しにしたような道徳観を持っています。これをフェミニズムの見地から語る気になれないのは、イースの道徳観があまりにも倒錯的だからでしょうか。一度フェミニズム的なヤプーの考察を見てみたいと思います。私が知らないだけかもしれません。
荒唐無稽な話を語っていながらも、核心のほうでは現実世界の鋭い批評になっているところがこの話の面白い点ですが、「労働量(アザーズ・レイバー 他人の筋肉の疲労度)に応じて快適さ(アメニティ)が増加する」(P42)という言葉など、実際の世界にも当てはまるんじゃないかと思って嫌な感じがしました。時々ヤプーの描写を見ていると実際の日本人に重なるような気がして嫌な気分になります。隷属すること(仕事)に価値とプライドを持たせる、という白人のやり方は、今の日本の会社の方針によく似ている。排泄物を喰うことはないけれど。
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