1999.09 BR 家族依存症

家族依存症 斎藤学 新潮文庫 1999年


REVIEW


 斎藤学氏はアルコール中毒や児童虐待、拒食症などの治療の分野で活躍している精神科医で、著作も沢山出版されています。栗本薫が注目している心理学者のひとりでもあります。


 この本は家族のさまざまな問題や共依存症(コゥ・ディペンデンス)をわかりやすく書いた本で、ナバや家族機能研究所などの、患者の自助グループの住所が沢山文中に挙げられています。アルコール中毒や拒食症などの専門書をひもとく道案内のような本です。


 大きく分けて二つの問題が取り上げられています。


1 父親不在の家庭と、母子のカプセル化

2 依存症に依存する人々と、依存症の患者に依存する人々


1 父親不在の家庭と、母子のカプセル化


 斎藤氏は日本の会社重視の社会を学童的社会と呼んでいます。押しつけられた規律のもとに押しつけられた作業をこなし、成績だけで評価されている。そしてそれが「大人の世界」として通用している。父親たちは、ワーカホリックであることが家族を幸せにできる条件だと信じこまされている。


 会社の人間と疑似家族になって、家庭を顧みることのない父親。精神的な父親不在の家庭において、核家族化でほかに頼るもののない母親は、子供に依存して子供の自立を阻むようになる。


 母親の不幸を子供は敏感に感じ取り、母親を支えようとする。その子供は幼児期に必要な安心感を与えられずに大人になり、拒食症や家庭内暴力などを起こすようになる。このような症状を起こす子供は一般的に良い子であることが多い。大人の期待に過剰に反応して、疲れ切ってしまうのですね。

 子供時代に無条件の愛情や安心感を与えられなかった子供は、自分を肯定することや、相手に共感することができなくなってしまう。そのような大人が子供を持つと、不幸な親子関係がまた繰り返されることになる。


2 依存症に依存する人々 依存症の患者に依存する人々


 依存症――拒食症やアルコール中毒、ギャンブル狂、買い物依存症などが挙げられます。そしてアルコール中毒患者の家族なども、アル中の夫に依存する人々、共依存症として問題とされています。

 共依存症は、他人に頼られていないと不安になる人と、人に頼ることで、その人をコントロールしようとする人とのあいだに成立する依存・被依存の関係のことです。

 アル中の親を持つ子供がアル中の人間と結婚しやすい、あるいは結婚した人間がアル中になってしまう、というのが共依存症の典型的な症状です。

 アル中の妻は「夫と子供の人生は私がいなければ成り立たない」という誇大妄想を抱いていて、夫と子供をコントロールすることで精神的に安定しています。妻がその考えを捨てないかぎりは、アル中の夫も回復しないのです。


 依存症の人間は、自分のパワーを確認するためにアルコールやギャンブルに溺れます。パワーによって自己を律し、他者を屈服させる、近代西欧社会の自我理想は、成功や名声への依存症でもある。アル中はそれが得られなかった人々の代償行為であるわけです。

 なのでAA(アルコホリック・アノニマス=無名のアル中たちの会。アル中患者の自助グループ)では、自分がアルコールに負けた、無力な存在であることを認めるよう、治療項目に挙げています。そして自分のパワー信仰を捨て、より大きな流れに身を任せることが、治療につながるということです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る