1999.08 BR 他人の中のわたし
他人の中のわたし 中沢正夫 ちくま文庫 1995年
REVIEW
精神科医中沢正夫氏の仕事で触れた患者の記録。中沢さんの目を通して患者さんの人生を見ていくのですが、その視線が優しく暖かいのですね。患者のことを自分のことのように共感している。登場する人々の人生の哀しみは深く、老人医療の欠点や障害者の母親を騙して金を巻き上げる宗教団体の話など、考えさせられることも多いです。
私が面白いと思ったエピソードは、「早すぎた思秋期」という女性のエピソードでした(これも元ネタに小説を書いたことがあります)。
蝶々さんは若いときに絵の先生と結婚した、三児の母親。でも見た目には中学生にしか見えない。心臓の発作があるが身体に異常はなく、明るい美人でとても病人には見えなかった。
が、夫が脚光を浴びていた創作集団から抜けたころに、蝶々さんの心と身体の異常が始まる。蝶々さんが愛していたのは夫の才能で、夫自身ではなかったんですね。それまであまりに従順だった蝶々さんの反動が、心臓発作として現れるようになる。夫は蝶々さんの病気が直ったら夫婦の仲も回復すると思っているが、夫婦の仲が良かったころのほうが異常だということに気づいていない。
夫婦間のすれ違いや溝をごまかすことができなくなった、盲目的な蝶々さんの恋愛の結末が哀しいですが面白いんですね。けっこう下世話かも。私が気になったのは蝶々さんの三人の子供さんでした。蝶々さんが子供には関心を持っていないようなので、この子たちは一体どうなったんだろうと思っています。
読み返すと微妙に面白いと思う話がずれていきます。以前は「左手の翼」という、原爆被災者の話が好きだったのですが、今はのぞき屋の男の手記の話が好きです。
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