1999.08 BR 熱愛

熱愛 『鍋の中』収録 村田喜代子 文春文庫 1990年


REVIEW


 この話は恋愛物ではないのですが、なんとなくJUNEのテイストが漂うお話です。

 表題作の『鍋の中』は、黒沢明の『八月の狂詩曲(ラプソディー)』の原作です。映画はうろ覚えですが、映画に出てきた原爆の話は原作には出てきません。

 『熱愛』は幼なじみの二人がバイクで岬に出かける、ツーリングの話です。私はバイクには乗れないので細かい部分がわからないのですが、バイクで走る疾走感、二人がスピードで繋がれている感覚がよく出ています。

 冒頭の文章がかれらの関係を端的にあらわしています。

 子供が無意味な行為にとりつかれる、そのときの狂騒を村田喜代子は書いています。同時に収録された『盟友』は、便所掃除に血道をあげるふたりの男の子の話です(これもちょっとJUNEっぽい)。

 私は小学生のころ、友人といっしょに誰も知らない道をひたすら自転車で走っていったことがあります。迷うかもしれないというスリルと、どこよりも遠くへという欲求と。

 この話は子供のころの冒険の記憶を共有した二人が、バイクでひたすら冒険の終わりへ走っていく、そんな話です。私の冒険の記録はうやむやに終わりましたが、この話には記憶の果て、冒険の終わりがあります。だからひどく切ない余韻を持っている。

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