1999.08 BR 愛はさだめ、さだめは死

愛はさだめ、さだめは死 ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

伊藤典夫 浅倉久志訳 早川書房 1987年


REVIEW


 SFの短編集。ジェイムズ・ティプトリー・ジュニアは最初男性の作家だと思われていたがのちに女性の作家と判明する。本作はティプトリーが男性と思われていたころの作品集。目を惹くのは「接続された女」と「男たちの知らない女」、「愛はさだめ、さだめは死」。 ティプトリーはその描写や内容から男性の作家だと言われていたが、それに反してティプトリーの主要な作品が女性の自立や母性の問題を扱っているところが面白いと思う。


 「男たちの知らない女」はフェミニズムの論争を起こした作品だが、ティプトリーが女性だと判った時点で評価が下がったという話を聞いたことがある。

 男に与えられたもの以外は女に権利はない、というのは皮肉ではなく単なる事実を言っているような気がする。男は争いあうのが生きがいだが、女は戦場の一部である。世界を変えるために女は宇宙人に自分たちを見知らぬ世界へ連れていくように頼む。良識ある白人(?)の男を置き去りにして。女として社会の機構に取り込まれるのが怖い人間なので、私はこの置き去りにした女性の気持ちがなんとなく判る。男性の立場から書いたら傑作で、女性の立場から書いたら当然の作品、という見方がされているような気がして、だから「男たちの知らない女」が増えるのだと皮肉な気分になる。

 「愛はさだめ、さだめは死」は自分を育ててくれた母親と自分が育てたものに殺される異星生物の話。母親の愛情と子離れ、そして新たに母となる存在に自分が取り込まれる生物のライフサイクルが語られている。

 モッガディートに父親はない。仲間のじじは、冬の寒さが来ると冬穴にはいった二匹は一匹が一匹を食らうことで冬を越すという。モッガディートはじじを食べないと誓うが、じじはさだめには逆らえないという。じじは黙ってモッガディートに食われて命を落とす。

 新たにリーリッルウの母になったモッガディートは絶対にリーリッルウを食べないと誓う。が、次に冬が来たときにリーリッルウはモッガディートを食べる。モッガディートは最後に自分の母親にいわれた言葉を残す。冬たちが大きくなる、と。

 自分を育てるために何者かが死に、やがて自分が他の生き物を育てるために犠牲になるという過程が暗喩のように描かれている。現実の法則性の暗喩であるところがSFの面白いところだと思う。

 「接続された女」はサイバーパンクの先駆的存在。恐ろしくブスな女P・バークが商品の宣伝のために生まれた美少女のデルフィに意識を接続される。宣伝が禁止されている世界において、デルフィのようなカリスマ的存在が使う商品はそのまま宣伝になる。やがてデルフィに善意の恋人ポールができ、ポールはデルフィを解放しようとする。このP・バークの書き方の容赦のなさが面白い。P・バークが子供のときに男に強姦されて、避妊注射薬を買いに行った。薬屋の主人は彼女の顔を見て信じられないというように大笑いした、というくだりが印象に残っている。

 デルフィの意識はP・バークが操作しているので、ポールに恋をしているのはP・バークなのだが、最後にデルフィの意識を解放しようとしたポールがP・バークを拒絶するところが痛ましい。女性を見た目で選別する残酷さをここまでうまく書いた作品はないと思う。

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