第7話

……今にも死にそうなジジイと裏腹に元気いっぱいの糞ガキの首根っこを掴み、止めた。

目の前で死なれたら敵わない。


「はなせー! はなせー! バカヂカラババアー! 」


バタバタと往生際の悪い糞ガキをぶら下げたまま、流石に持ち上げられない村長は手を離した。


「黙れ、糞ガキ」


睨みつけると二の句が継げずに黙り込む。


「……ある程度は想定出来るけど、残酷でも話してくれますよね? 村長」


凄味を利かせ、村長にも睨んだ。

村長はこの世の終わり顔で蒼白を通り越して、真っ白に成りかけながら、必死に頷く。


「……お、お分かりだとは思いますが、わたくしどもは……孫のラカルトに手を焼いておりました……。さ、最初は可愛かったんです! 孫ですからね! しかし、甘やかせ過ぎたために……わたくしどもでは手に負えない状態になり……」


今にも死ぬんじゃないかってくらい、((((;゚;Д;゚;))))カタカタカタカタカタカタカタしながら。

そういや名前、ラカルトって言うのか。この糞ガキ。


「……私なら他人だし、容赦なく言えるから押し付けたと? 」

「は、はい! 申し訳ない! ラカルトを真っ当にしてやってください! 」


地面に頭を擦りつけながら必死に懇願する老耄おいぼれ

私は頭を抱えるしかなかった。


散々オヤジの悪態をついておきながら、何だかんだ自分も収拾つかない事態になったと。

頼んだ相手は奇しくも悪態をついた相手の娘であり、10年以上引き籠もり生活を経た女。

真っ当に育ってないヤツに真っ当にしてくれと哀願する元剣士。

幸先不安でしかない。オヤジよりは常識があるからという認識はこわい。

あの村もダメ人間の集落でしかないのか。

他の世襲メンバーも期待できない。

もしかしたら全員変なヤツらばかりか。


神様がいるならば、勇者以外の選択肢をくれ。

魔王がいる限り、勇者は必要だ。

勇者の子ども、はたまた孫が勇者なんて理不尽にもほどがある。

女勇者なんてもう新しくも斬新でもない。

やりたいヤツにやってもらってくれ。

勇者なんかやめたい。腹括ったけどやっぱり嫌だ。


心ではそう思ってはいても、口には出せなかった。


「……何があっても責任が取れる保証はない。万が一 棺桶で戻ってきても受け入れろ。コイツが勝手なことしなければすぐにそうはならないだろうけどな」


私は自分だけで手一杯だ。

お守りなんてする余裕はない。


村長は口を1度開いたがつぐんだ後。


「……無理を言ってすみません。孫の同行を許して下さり、ありがとうございます」


それだけ言うと、可哀想なくらいしおしおと帰って行った。

だからと言って私がすべて背負うには余りあること。



━━そう、私は知らなかった。私が向かわなければいけない理由を……。

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