第2話
世襲勇者制度、それはこのダレングルニアとかいう1回聞いただけでは忘れそうな国の初代国王が設置した制度だ。
各村で選ばれた家系が代々役職を受け継ぐ。
私の村は奇しくも勇者で、私の家系が選ばれた。
要するに、お膳立てされたパーティで在り来りな魔王退治をする、実にシンプルな掟なわけだ。
しかし、事もあろうにうちのオヤジはそれを投げ出した。20歳で!
子作りに励み、3人の子宝に恵まれた。
役目も果たさずに。
私はモテた。自画自賛ではなく。
姉貴には誰も言い寄らなかった。オヤジに似てたから。
自慢にしたくはないが、私には毎日のように男が群がった。
「大きくなったら結婚しようね(はーと」と約束までしたのもいた。
だが、アイツは私と目を合わせることなく、……姉貴と結婚した。
姉貴はアイツのことが好きだったから。アイツは私を好き、そう言っていたけど。
オヤジがやかましくなったのは、兄貴がお腹のデカい嫁さん連れてきてからか。
次の日からパッタリと誰も寄りつかなくなったんだっけ。それから逃げて引き篭もって10余年。
誰も信じたくなくなった。
このまま王都に殴り込みにでも行こうか。こんなクソ下らない制度なんて無くしちまえ、と直談判しに。
そう思いながら、足は隣村に向かっていた。
□■□■□■□■
徒歩でおおよそ1時間たらず。似たような風景の隣村。そこが剣士に指定された村だ。
周りは2メートルない針葉樹に囲まれ、凹凸のすくないクリーム色の土畳。柔らかそうな材質の石で作った道。等間隔にある何の変哲もない家屋。
モンスター1匹すら出会わず辿り着いた私に待っていたのは、驚愕の事実だった。
「すまないな。次代はこの孫なのだよ」
隣村の村長がモフモフの髭をわちゃわちゃされながら言う。言わずもがな、その絶賛モフモフしている子どもこそが世襲剣士殿らしい。10歳に満たない少年だ。
話を聞いたらしい、息子さんがややあってやってくる。
「ごめんね? 10年前ならまだカミさんに出会ってなかったんだけど」
同年代か少し若いくらいの、ムカつくほど爽やかな青年が悪びれずに頭をかきながら笑っている。
この村は村長の家系だったのか。
「掟とは言え、……連れていくのかい? 」
不安そうな顔をされた。まだ小さいのにと目で訴えている。
待て、こんな小さな子どもを連れ歩いたら私が不審者に思われるだろ。
「……10年早ければなぁ」
その頃には押しつけが始まっていた。罪悪感に苛まれるが、私は悪くない。
「これもお宅のオヤジさんが原因だ。あんたは悪くないよ」
憐れみの視線があちらこちらから感じる。
やめてくれ、早くここから抜けだしたい。
「私が強く言ってやれていればよかったんだがね。アヤツは変にプライドばかりが強くて……」
「へ? 」
オヤジを知っている?
「前パーティの剣士は私だったのだよ。お父上が22で魔王討伐を果たした。『だったら、自分はそれより早く討伐する』と息巻いていたよ。……しかし、やめた20歳のときヤツは言った。『あと2年じゃオヤジに勝てない。勝てないならやめるわ』と」
あんのクソオヤジぃ!
「勇者がいないパーティでは魔王討伐をしても意味が無い。情けない話だが、解散してしまった」
すべてクソオヤジの下らない見栄の所為だった。
「うちのクソオヤジがすみませんでした! 」
頭なんか下げたくないが下げなければ気がすまなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます