勇者は必要ですか?

姫宮未調

第1話

──あなたなら、勇者と引きこもり、どちらを選択しますか?


私はもちろん、後者を選択した。

しかし、現実は残酷なもので、三十路間近になっても結婚出来ずにいた。

引きこもりを嫁にしたいと思う奴なんかいないだろうが、腐っても勇者の家系である。

多少の話くらいあって良いはず……だった。


「もうおまえしかいないんだ、頼むよ」


オヤジがドアの隙間から覗いている。


「ふざけんな、だったら兄貴と姉貴呼び戻せよ」


そう、私には兄と姉がいる。結婚してうちを出ているが。


「勇者は独身にしか譲れないんだよ、フラン」


……私はフランチェスカ、という。勇者にするには長すぎる名前だ。


「だったら兄貴が結婚する前に押し付けちまえば良かったろ」

「だってあの時は現役だったんだもん」


兄貴とは20も離れている。従って、このオヤジは70オーバーのじいさんだ。


「きめえよ! やだかんな、やんねぇぞ」


……ドアの向こうが一瞬静かになる。


「? 」



次の瞬間、私は外にいた。

小さなリュックと木の剣と木の盾という、オーソドックスで酷いイデダチで。


「おい! オヤジ、どういうことだ?! 」


ひょこっと窓から顔を出すオヤジ。小さな金貨袋を投げて寄こす。


「途切れさせるわけにはいかんのだよ、分かってくれ」


私はオヤジに無声転移魔法をされたことを察した。


「テメー! オヤジだけ魔王倒さずに引退とかざけたこと言ってんじゃねえぞ! 」


……歴代の世襲勇者たち、じいさんまでは魔王まで世襲な世襲魔王を倒してノルマを果たして引退してきた。

このオヤジだけはそれが出来ないまま20歳で隠居し、今正に引退しようとしているのだ。


「母さん! 母さん! このバカオヤジどうにかしてくれ! 」


しかし、返事がない。


「はーっはっはっはっはー! 母さんのいない隙に決まってるだろうが! 」


私は一瞬で殺意が沸いた。

母さんならオヤジを叱ってくれるはずだ。


「母さんどこだよ?! 」

「隣村まで里帰りだ! 」

「三行半と変わらねえよ! 」


もう母さんは帰ってこないかもしれない。


「……お、おまえが行かなきゃならないんだ! 」


動揺したのか、やや間が開いた。

そのまま窓をガタンと閉めて黙りを決められてしまった。

くそ、こんな端金でどうしろと……。

魔王倒したら絶対、バカオヤジも倒してやる。

そう決意して立ち上がった。

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