少年の覚悟

 ビビと別れてから数十秒ほど経ったか、もう既に少女の姿は見えなくなっていた。


「は……ハハ……何やってんだよ………」


 果たしてその言葉は誰に向けて突き刺した言葉なのか、知りたくはなかった。


 情けなかった。


 自分より小さくて、口下手なくせして誰かと話をしたかった少女すら守ることが出来ない事に。

 竜が少女に気を取られて、森のある方向へ飛び去った事実に安堵すら覚えた事に。


 分かっていた。


 俺が行く、そんな言葉が脳裏に浮かび上がっていた事に。

 一人は寂しいっていう事くらい。


 分かっている。


 今更、手を掴みに行ったところで少女を死から救うことが出来ない事は。


 知っている。


 ビビは大切な存在である事くらい。

 さっきの言葉は、自分自身に突き刺した言葉ナイフである事に。


 動けなかった。


 自分が可愛くて仕方がないから。

 ビビなんて本当はきっとどうでもいいから。


 知っていた。


 そんな虚言を吐いていれば救えなかった事実から逃げられる事に。


 動けなかった。


 もう救う救えないなんてどうでもいいから。


 知っていた。


 本当は動きたい事くらい。

 今すぐに助けに行かなきゃいけない事くらい。


 動けなかった。


 どうせ死んでしまうのなら一人でも生きているべきだ。


 知っていた。


 例え独りにしてしまったとしても、それでも守りたい存在がある事に。

 絶望に塗れて死んでしまう人がいることが、どうしようも無く嫌な少年がまだ生きている事に。


 動きたくなかった。


 少年が助けに行く行為が、少女の最期の想いを捨ててしまう事になるから。





 ――――知っていた。





 もう自分に嘘なんてつけない事に。

 覚悟も何もあったものでは無い事を、実力なんて伴っていない事を。




 だけど………それでも―――――


 動いていた。


 とっくに足は動いていた。

 きっと今から助けに行ったところでビビは死ぬ、ビビが助けようとしたリアムも死ぬ。


 だけど、独りで絶望しながら死なせたくはない。


 少年に宿る一度きりの決意。それが少年が無力に抗う力となった。


 さぁ、もう動かない箇所はない。

 これより始まるは十一年に一度の英雄譚、

 貧弱で無能で破滅的、

 救える者など誰一人存在し得ない夢物語をとくとご照覧あれ。

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