第20話 弟子
弟子は動き出した。墓から這い上がり、生前に残っていたひとつの思い、タヌキんど一世と一緒に暮らすという願いを元に。
弟子は崖に手を掛け、這い上がる。一歩一歩着実に上へと上がっていく。
「師匠。師匠の元へ」
その願いを胸に、上へと上がっていく。
師匠と会い、修行を就けてもらい、ゆくゆくは師匠の相棒になるのが夢だった。しかし、その願いはもうかなわない。でも、それでも、師匠と一緒にいたい。
それだけが生前に残っていた願いだ。今はそれも過去の残物(さんぶつ)でしかない。でも、それでも一緒にいたい。
それだけが彼女を突き動かしていた。
師匠と一緒に戦場を駆けたいという一途の願いの元。
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「ごめんくださーい。誰かいませんかー」
師匠は、その声を聞き、ドアを前へと押しあけ、私を見てくれた。
師匠は私をずっと男の子と思ってたかもしれない。そう、そう思わせていたのだ。でも、師匠はたぶん気づいていた。でも、気づいていながら、そのことについては聴こうとはされなかった。だって毎日触れ合っていたのだから。
私は、ここより南方の村。アルミナで生まれた。
アルミナとは、とある港という意味で、港がある漁業のさかんな村だった。
でも、海がしけってるときは、漁にはでられない。そんなときに活躍するのがうちの家。狩りの家。狩りを専門としてるから狩りの家。
雨降りや台風。魚が獲れなかった時期。などに借りだされる。
でも、うちんとこは、その中でも、下のほうで、あまり狩りの手もうもうなかった。
だから、その狩りをちょっとでも助けたいと思って、父には、
「ちょっと出かけてくる」
とだけいって、必要な荷物だけ持ち、家をでて、村でも有名なタヌキんど一世に会いに行き、修行を就けてもらうために旅にでた。
といってもタヌキんど一世は、村に住んでいるわけではなく、村で有名になっているだけで、どんな人かは知らない。
「でもきっとすてきな人なんだろうなー。
きっと、ハンサムでおひげがあって、こう、瞳(ひとみ)に赤い闘志を宿し、ってわかんないかー。でもきっといいひとだ。きっと」
そういうと笑顔になり、顔の両側に手のひらをつけ、真っ赤な顔をしながら乙女みたいに笑うのだった。
「でもぉー。堅物の人だったらどうしよう。男しか雇わないとか言われたらどうしよう。だから、会うときは男で行こう、男で」
今度は右手を胸のところまで肘を曲げたかっこうで挙げ、手を握り、ガッツのポーズをとります。
「っよっしゃあー。いっちょっやってみまっかー。気合い入れてふっあいおー」
右手を握ったまま胸から上へあげ、勢いよく天をつきさすように、気合いいれてふっあいおーと言いながらジャンプし、天へと高く手を突き挙げたのでした。
ここから一人の少女の長い長い旅という名の冒険が始まるのでした。
「でも、声が高くてばれたらどうしよう。でも、それは私がちっさいてことでわかるかー。まだ声がわりしてないだけで。でも、女の子もいずれは声変わりするんだし、どうしよう。それと名前はどうしよう。うーん、なやむなやむ」
なやむなやむといいながら、両側から両方の手を握ったまま頭を叩きまくるのでした。
「乙女ってつらいですねー」
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少女は歩いていました。少女といっても人間ではありませんけどね。
「えっ、もうわかってますって。はいそうですか。失礼しました」
少女は村を出て、一つ目の試練、瞳(め)の森(もり)に来ていました。
村の門を出て、北のはずれにある深い森。それが瞳の森です。試練といっても、少女にはその試練が何個あるのかも一つだけで終わるのかもしりませんでした。父に問いかけても、そのことについては何も教えてくれなかったからです。
瞳とは、読んで字の如く、瞳(ひとみ)のことです。瞳とはすなわち双眸。人間でいうめん玉のことです。
この森の木は動き続けています。まるで木に瞳がついているみたいに、ずっとみつめられているような感覚に囚われるのです。この森に入ったら最後、ここから村に帰ってきたものはいないといわれています。
「村に帰ってきたやつがいないだけで、他の所からでられるかも。なんてことは作者は知らないですけどね。
はい、答えいってますよね。まーこれを信じる生物なんていませんよね。
ねーいないって答えてください。お願いします」
「だーかーらー、うーるーさーいってーのぉーー」
うーるーさーいーってーのぉーーののぉーーのところで左拳を少女は握りしめ、天高く作者の顎に向かって突きあげました。
作者はその一撃を喰らい、失神していました。
天高く吹っ飛び、床にしたたかに頭をぶちつけ、髄液をぶちまけ、そのまま失神してしまいました。
「はあー、すっきりしたー。それにしてもぶきみだねーこの森は。木にまるで瞳がついているみたいに思うよ。このゾクゾクする感覚は、なんていえばいいんだろう?寒気がするね」
胸を両手で覆い隠すように×印に腕を組みます。
「うーさむー。そんなこといってたらほんとに寒くなってきたわ」
一本の木に近づき、よく木を観察します。するとどうしたことでしょうか?木の幹の一部が突然開いたような気がするような音が近くでしたかと思うと一勢(いっせい)に、(一斉よりも勢いよく一緒に一瞬で開いた音がしたという意味で、一勢と書きました。)
「ぱちぱちぱち」
地球でいうと木の実がはじけるような音が際限なく轟きはじめたのです。
少女はこわくなって、頭を両手で抱え込むようなかっこうでその場にしゃがみこみました。
「こわいよー。こわいよー。だれかたすけてー」
少女の声がむなしく森に響きわたります。
現実はそうあまくはありません。ここには彼女一人しかいないのです。誰も助けにはきません。くるはずもありません。
少女はその驚愕の事実に耐えられるはずもなく、一人むなしく倒れ込み、夢の中へと引きずり込まれてしまうのでした。
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夢は狭間。狭間は夢。夢が現実と同化するとき世界は変革する。
しかし、夢の狭間はつながっていない。つながるはずがない。そのため、世界は変革されない。狭間から敵が出てくることもあるが、出てきた敵は弱いのが普通。強い敵はそれ相応の狭間のつながりがなければ現実へとでてくることはできない。
狭間から出てきた敵によって夢へと引きずりこまれた少女は、敵、すなわち、瞳(め)木(ぎ)。瞳(ひとみ)をもった赤いうろこを纏いし木。
少女は気絶していた。眼の前に瞳木がいることなど知らずに。瞳木は、触手をはわせ、彼女の体を包んでゆく。
包まれた彼女の体は宙にもちあげられ、勢いよく地に叩きつけられた。その衝撃によって彼女は起きた。
「ゲホッゲホッ」
血を地面に吐きながら彼女は応える。
「ここはどこなの?」
あたりをみまわしながら、敵を探す。すると、眼下に赤い触手をみつけ、
「あんたが敵ってわけね。ゲホッゲホッ」
口からの血は止まらない。しかし、彼女は臆することなく眼の前の触手を掴む。
敵はその機会をねらっていたのか、その掴まれた触手を天へと彼女ごと持ち上げ、勢いよくふりおろす。
彼女は地面に叩きつけられ、その衝撃によって掴んでた手が離れ、地面にバウンドしながら転がっていく。
それでも彼女は立ちあがる。地面に血を吐きながら。
「ゲホッゲホッ。」
彼女は、地面に両手をつき、手の平に力を込め、上体を起こしながらいう。
「いいねえ、そういう殺気。わたしゃあ、こういう死期っていうのが好きでねー」
彼女の眼は血走り、瞳全体が赤くなっている。まるで瞳に悪魔を宿したみたいに。
彼女は地に足をつけ、立ち上がった。体はふらふらしているため、腕はだらーんとしているが、眼は死んでない。
この呪縛から逃れるため彼女は戦う。敵はまた触手を伸ばしてくる。
だが、同じ手が彼女にまた通じるわけもなく、彼女は相手の触手という刃をさけながら走り、敵の懐へと入りこむ。
敵は大きな口をあけ、口全体にあるキバをむきだしにしながらせせら笑う。
「ガハハハハ」
その声を最期に敵は末路を迎えた。
彼女が右手拳を赤いうろこをもいとわず、握りしめたままいったん後ろにひき、力をため、勢いよく相手の口の中に叩きこんだからだ。
敵の黒い口の中に拳が入り、そのまま奥にある壁。細胞の塊に拳があたる。
その瞬間、敵が吹っ飛び、空から血の雨が降ってくる。
彼女は体を後ろにむけ、二本の腕を降ろし、異端の黒いオーラを身に纏ったようなどす黒い感情を外にさらけだしながらこう叫んだ。
「うせろ」
そういうと、彼女はそこに前から倒れ込み、そのまま気を失ったのだった。
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眼が醒めた彼女は夢の中で起きたできごとをひとつも覚えていなかった。
「あーあ、またやっちまったか」
そして、たてひざをたてたまましゃがみこんでいた彼女はこういう。
「でっ、ここはどこなんだ。眼の前には草原しかねーじゃんか。森は、木は、瞳の森はどこへいったんだ」
そう、彼女の眼の前にはもう森などなかったのだ。瞳の森など最初から存在していなかったのかもしれない。それは幻だったのかもしれない。
でも、彼女はそんなことなど気にもとめていないかのように立ち上がり、ゆっくりと歩を進めていく。タヌキんど一世に会うため。弟子としてもらうため。今この瞬間も歩みを止めることはなかったのだった。
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草原はただっ広(ぴろ)かった。そこには何もなかった。彼女を狙う者はなにもなかった。
そのように見えたのかもしれない。だが、彼女は狙われていた。村から一度でたものは死ぬまで追いかけられる運命なのだ。彼女がこの呪縛から逃げるには、本当に死ぬか、相手に自分が死んだということを思い込ませるしか逃げ道はない。
それが村の道理であり法なのだ。村にはこんな掟があった。
昔村から逃げ出した者がいた。そいつは旅に出ると言い、村を出ていった。村人は本当に旅に出たんだと思い込んでいた。
それから一カ月後。誰もが彼が旅に出たことなど知らず、もう忘れ去られていた。
彼は戻ってきたのだ、故郷に。しかし、彼は親に見捨てられていたのだ。才能のないばかりに。
彼は漁業の家に生まれた。両親を愛し、漁業を愛していた。本当に心の底から。
しかし、彼の思いは彼の両親には届いていなかった。彼が船長となって乗った船は、ことごとく漁に出ても、魚を獲って帰ってくることがなかったのである。
彼は呪われていると思った、海に呪われているのだと。実際彼は呪われてなどいなかった。
両親は、そんな彼を追い出した。村から追い出したのだ。しかし、一方的に追い出したのでは、両親が村の皆になにされるかわからない。だから彼の字で村にことづてを出させたのだ。旅に出たいと。
案の定彼は旅に出、そして帰ってきた。しかし、彼は単なる里帰りに来たのではなく、村に奇襲をかけた。その後、彼がどこに行ってしまったのか知る者はいない。
生き残った人々は掟を作った。しかし、本当に旅に出たいという者が現れるともかぎらないため、条件を設けた。村の長の前で夢の刻印を見せることだ。
体に刻まれた夢の刻印。この世の者とは違うという夢の刻印。それはこの村が生まれたころからこの村の生物全員の体に刻まれている。夢の狭間に送り込まれ、夢で気を失ったとき、絶大な力を発揮できると謂われている体に刻まれた刻印。それが夢の刻印なのだ。なぜそんなものが体に刻まれているのかは誰も知らない。
作者とてそれを知らない。誰もが生まれたときから体に刻まれている刻印それが夢の刻印。
それを村の長の前で見せ、私は旅に出て、帰ってきても今後二度と村を攻撃しないと誓うこと。それが村から旅に出る条件だった。彼女はそれを行わずして村から出ていったのだ。だからその追手から逃げるためには自分が死んだようにみせかけることしかできなかったのだ。
彼女はただっ広い草原にうつぶせの状態で倒れていた。それから一週間動かなかった。そう追手に死んだと思わせるためにずっと、体勢も変えず、動かなかったのだ。そう彼女は死んだのだった。もう村には戻れない。村には戻りたくない。村を出る前に思ったことを破ってしまったかもしれないが、旅に出たあとに彼女の考えは変わったのだ。死にたくないと。
彼女は村の掟を知らなかった。両親も彼女には教えなかった。そのため、彼女は追われるはめになり、彼女は知った。両親は謀ったのだと。私が村から出ていくようにしむけるため。しかし、それでも彼女は村に彼のように復讐したいとは思わなかった。両親を心の底から憎むことができなかったからである。
これは彼女の思いではなく、追手の思い込みであった。だって彼女は死んだのだから。死んだようにみえたのだから。追手の者は、本当に死んだのか?それともそう彼女が思って死んだように見せかけたのか?どっちか追手にはわからなかった。
しかし、彼女は一週間も起きなかったのである。追手はそう思い込むしかなかったのである。彼女が本当は夢の中に引きずり込まれただけということを知らずに。
眼が醒めた彼女は夢の中で起きたできごとをひとつも覚えていなかった。
「あーあ、またやっちまったか」
そして、たてひざをたてたまましゃがみこんでいた彼女はこういう。
「でっ、ここはどこなんだ。眼の前には草原しかねーじゃんか。森は、木は、瞳の森はどこへいったんだ」
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「うーん、本当にここは?瞳の森は?それとも幻想?見えているもの全部まぼろし?まー細かいことは置いとくとしてー」
「って置いとくなー」
「あんたはだまっとれー」
と言いながら顎をしたから右ストレートの拳で強打され、ふっとぶ作者だった。
「うーん、ここはどこだろー?右見ても草。左見ても草。後ろを振り返ってみてもやっぱり草。草、草、草。草しかねー。あーもうなんでー」
頭を両手で掻きむしる。
「相手目線ではないので、ここからは彼女から少女に戻ります」
「そんな解説はいいからー。この状況の説明をしろー」
「無―理―。作者もー知らーなーいー」
「おまえが書いてるんだろー」
「それはそうだが正確には違う」
「んっ。どっいうこと?」
首をかしげながら立ったまま左手拳の上に顎を載せたまま問う少女。
「それはねー。書いてるのは私だが、頭に浮かんだものを書いているのではなくー。今ここでこの中の登場人物に聴いて書いてるだけだからー、作者自体もーこの次どうなるかーっていう展開は知らん。ってことだよ」
「途中で男口調にもどるなー」
「てへっ」
とかわいく頭の上に握った左手拳をあげながらポーズをとる少女?
「少女?っておまえはどっちだー。」
「地の文がつっこむなー。まーそんな細かいことは置いといて」
「って置いとくなー」
顔をつきあわせて睨み合う両者。嫌悪感たっぷりです。
「それをいうなら険悪ムードたっぷりでしょ」
「そうともいうー」
「そうとしかいわねーよ」
と言いながら作者とは違う方を向きながらふんっというポーズを決める少女。
では、話しを戻してー。
「って戻すなー」
といって両者に、両側から、一緒に、一勢に、鉄拳を、喰らわせられる、作者なのでした。
「って変なところできらないでね。地―ちゃん?」
「地―ちゃん?」
「地の文だから地―ちゃんだけど?」
「ふーん」
赤い眼をした地の文によって腹にまた鉄拳を喰らわせられる作者なのであった。
「って部位が違うからまたではないけどねー」
おしまい。
「ってまたかってに終わらすなー」
今度は作者が地の文をふっとばす番なのでした。
「ほんとは終わってないですよー」
「そんな解説いらん」
ふっとばされ、頭の後ろを掻きながら左足は伸ばし、右足は膝の部分でまげた地の文とは反対の方向を向きながら、腕を胸の下の所で、女性でいったら胸を持ち上げるようにしながら言う作者なのでした。
▲
ここで一つ、夢の刻印について、今わかっていることを述べておこう。
夢の刻印、夢の中で自分が意識を失っているとき、ようするに気絶しているときに自分の意識とは関係なく発生してしまう制御できない力。それが夢の刻印の力である。
しかし、それは夢の刻印の力であるだけで、夢の刻印ではない。夢の刻印とは、体のどこに描かれているのかというと、それは背中に描かれている。背中といっても、一部部分に描かれているのではなく、全体に描かれている。そして、それは一人一人個人によって違っており、体の成長によって夢の刻印自体も一緒に成長するため、村長や誰かから意図的に刻まれてた物ではないということ。
この村で生きている生物の体に生まれつき刻まれている物体。それが夢の刻印である。でも、夢の中で気絶したからといって、絶対に発動するわけではなく、夢の刻印自体が、体の宿主が窮地に立たされていると判断しないかぎり発動しない。それが夢の刻印である。
ここで読者にも疑問が浮かんできたことだろう。じゃあいったい夢の刻印とはなんなのか?なぜ夢の刻印などというものが、体に刻まれているのか?という疑問が。
でも、作者とてそれはわからない。あとでわかるかもしれないし、この本の登場人物自身が語ってくれるのかもしれない。ただし、この先そのことについて触れられることがあるのかは誰にも、決してわからないのである。
次に、彼女の刻印ついて説明しよう。
読者も気になっていたし、作者も気にはなっていたんだが、登場人物自身がそれを語ってくれないと、作者とてそれを知りようがないのが現状である。
だから、ここからは、少女自身がそれについて語ってくれるのである。
少女の夢の刻印は、背中に刻まれている。背中全体に。そして、流れ星みたいなものが体に刻まれている。といってもそれは普通の流れ星ではない。
流れ星のおっぽの部分は、星のかたまりみたいに輝いている。それは天の川みたく荘厳な情景を彷彿とさせている。そのため、とても綺麗で美しい。
少女はそれも気に入っているが、もっと気に入っているものが他にある。
それは、流れ星のおっぽの先にある星自体である。ひときわ輝く大きな黄色い星。少女はそれを輝く星とかいて輝(き)星(せき)と呼んでいる。
少女は輝星を気に入っているため、星に名前を付けたのである。
「えっ、他にどんなのがあるのかって?」
じゃあそれは作者が答えるとしよう。この作品に登場している作者自体が。
マグマや森、火山。そんなものが体に刻まれている生物もいる。ちなみに村を襲った彼の背中には、大きな剣のような夢の刻印が刻まれていたそうです。
村で生き残った村人がそういっていたらしいです。作者とてそれが本当かはわかりませんが、これが一葉答えにはなっているのではないでしょうか。
これで夢の刻印について今わかっている事柄はすべて説明しました。
「これ以上語れといっても、何もでてこないんですからね。出てくるわけがないんですからね」
といって、かわいく作者は右手の人差し指を小さな閉じている口の前に添えるのでした。
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草原に少女は一人佇んでいました。ここはいったいどこなのでしょう?少女にはここがどこだかわからないので、とりあえず目印になるような今見える風景と違うところを探し始めました。
「うーん、ここはどこだ?下は」
地面の土なるものを触りながら、
「これは土だな。茶色ではないな。こげ茶といったほうが正しいかな」
こげ茶色の土をぱらぱらと指で揉みくだしながら、
「うーん、水分はあまり含んでないようだな?さらさらしてるからな。まるで砂のようだ」
『砂?土なのに?なぜ感触は砂なんだ?』
と頭の上ではてなを浮かべながら、右手を曲げた恰好で顎の下に添えます。
『まだ夢の中なのか?てっきり外へ出たと思ったんだが?』
そう頭の中で思い、少女はその恰好のまま一人考えこみます。
少女にとってここは未知の世界です。右も左もわかりません。周囲には誰もいません。しかも見えるところには草しかありません。
いったいどこの世界に迷いこんだのでしょうか?もう次の関門に移っているのでしょうか?
少女は両手で頭を抱えます。頭をふりながら考えます。今自分の抱えている問題について。
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赤龍はまだオニオオハシに会えないでいます。空の上をゆっくりゆっくりと優雅に飛んでいます。
「旅はまだ長い。そうあせらずともよい」
「ってあせっとらん」
背後をふりむきざまにいいます。
冒頭にも書いたとおり、赤龍は決してあせってなどいません。
ただ単に、ゲーテが遅いだけです。
「あのー、はっきりと言わないでいただけます、そこ」
今度は前を向きながら、
「んっ、怒っておるのかゲーテ。それともはずかしいのか?」
「そっそんなかっ感情はもっもっちろんもりあわせておらん」
「あっかんだ」
「かんでなどおらん」
「あっ、もどった」
赤くなるゲーテを見た周りの雲達が、とっさにゲーテの顔なる部分を隠したため、友にはずかしめを見せずに済んだゲーテですが。内心はどうなってることやら。
「なあゲーテ」
「んっ。なんじゃ」
「おまえは今おれに語っておきたいことはあるか」
「んっ。こんな人前でか」
「それって読者のことをいってるのか?それとも単にはずかしいだけか」
ゲーテは他の雲を使い、指のようなものを顔の前に作り、それを上下に交互にださせるように器用にまわしながらもじもじしています。
「こんなゲーテを見るのもいいものじゃのー。いっつもわしのこころを見透かされておったらおれもたまったもんではないじゃけんのー」
「まーこころは見透かしたくなくても見えるもんじゃから。あんたにとってわしの存在は別に気にすることでもない」
「おー断言してきおったか。話はおいといて」
「あたりまえじゃ。わしは話なんぞはせん主義じゃ」
『話さねばならぬとき以外はな』
といってゲーテはきらりと雷雲を光らせ、赤龍に飛びつきます。
「ぎゃーーーー」
二人って本当(ほんと)に仲よしですね。
▲
世界はオニオオハシで包まれている。
オニオオハシ達はそう思っていました。ここにはオニオオハシしか見えない。
「えっ。ほかに生物はいないのかって?植物ならいます。木ですけどね」
そんなことは置いておいて、オニオオハシ達ははしゃいでいました。
木から木へ乗り移り、自分達のなわばりで遊んでいます。子供らしくはしゃいでいます。
「って、子供か大人かは本当は知りませんが、子供のようにはしゃいでいるのは事実なので、子供らしくといっておきます」
世界は子供であふれています。
「んっ・・・なんか変わってないか?」
「気のせいだよ。気のせい」
おまえはだれだ?
「世界は木であふれている」
「また変わったーーーー」
あのー二人ともそんなことは置いといて早く本編進めてくれませんかねー。
「・・・はいはいわかりましたよ」
オニオオハシ達ははしゃいでいた。
「あー今日もお空はいい天気だなー」
オニオオハシ達全員が、オレンジのくちばしをお空にむかってあげながら呟きます。
ほんとにいい天気です。快晴です。満天の星空です。
「ねーなんか間違ってませんー」
「間違ってません」
ほんとにいい天気です。快晴です。空には一点の曇りもありません。
「あっいいなおした」
そして周りには、オニオオハシ達しか存(みえ)在(なか)ったのです。
▲
少女は窮地にたたされていました。ここがどこだかわからないのです。どこだかわからないということは、めざす場所にどう行ったらたどりつけるのかわからないということです。
でも、狸の少女には進むしか道は残されていなかったのです。
少女は左腕を黄昏に浮かぶ六陽にむかってのばし、六陽を指さすポーズをしながら、かっこよく応えます。
「たとえここがどこかわからなくても私のめざす場所はただひとつ。タヌキんど一世に会うという想い。そうそれひとつなのだ」
あーなんてかっこいいんでしょう。六陽に祝福されているようです。
黄昏の中に影が一筋だけあります。それが彼女です。
もう可憐でかっこよくて涙がでてしまいそうです。
「ひっくっひっく・・うっ・うっ・」
「それじゃー行くとするかー」
作者はスルーされました。
「あっ。その前に腹ごしらえ。腹ごしらえ」
少女はそう言い、背中にかけたかわいらしい黄色く光った星型のリュックからおにぎりを取り出しました。
用意だけはしっかりしているようです。
ご飯の米は六陽の光りを受け、赤く光っています。まるで血の色です。怖いですねー。これじゃあご飯がすすみません。すすみませんたらすすみません。
少女はそんなこと気にせず、緑の海藻を縦に縦断させたところを持ち、その物体を口に運びます。
「あーうまい。肉しそおにぎり」
肉としそが入ってるようですね。おにぎりの中にしそが入っていて、そのしそに肉が包まれているみたいですね。
中をのぞいてみると、赤紫のしそ?中には肉を包んだ赤紫の葉っぱが見えます。この世界ではこの赤紫の葉っぱなる物体をしそというのでしょうか?
それとも作者がしそは緑だとかんちがいしているだけでしょうか?
んっ、このしそなんか花の花びらに似てねーか?
こうぎざぎざってゆう感じじゃなくてまるーくなっていて、先がとんがってないからこれは何だ?
「あーこれ?これをこの世界ではしそっていうんだよ」
と右手で持たれながらひらひらと風にゆさぶられるしそなのでした。
「あーそよかぜってきもちいい!」
▲
ここで、置いてきぼりにされた肉について紹介をしよう。
肉はこんがり焼かれ、きつね色になっている。とてもこうばしい匂いをはなっている。この世界でも稀にみない香りだ。
「あのーそんなに香しいんですかー?」
そうだ。この世界でも稀にみない香しさだ。
「あのー繰り返さなくてもいいですから」
大事なことだから二回いった。
肉は充分に炒まれており、堅くて美味しそうだ。これこそyummy(ヤミー)(おいしい)という感じだ。
肉の表面からは肉汁が染み出しており、ほっぺたがおちそうな程yummyだ。
なお赤い汁はひとつもでていないので、けっして生ではなく、岩のように堅くロック(rock)に焼けている。
「この堅い感じがなんともいえないんだよなー」
肉にしゃぶりつきながらしゃべります。
「やっぱし、肉はこんだけ堅くないと喰(た)べごたえがないっていうか。うにゃうなうにゃ」
食べながらなので、最後の所が何いってるか正直いってわかりません。
「あーえっーとねー。うんにゃくにゃってんにゃんっていったんだよ」
全然説明になってません。ますます意味がわかりません。
美味しいのだけはわかりますが。
「って地の文にもくれるのー?うん、ありがと。じゃあいっただきまーす」
といって肉を少女からうけとりつつ、しゃべりながら、しゃぶりつきます。
「うっまー」
「そうだろ、そうだろ。うまいだろ」
背中を左手の平手で叩かれます。
地の文の顔からは涙が滲みだしています。もう顔面涙のしずくでいっぱいです。
「泣くほど美味しいのか。よかったよかった」
また背中を叩かれます。(一回目はそうだろ、そうだろのところ、二回目はよかったよかったの所で少女に背中を叩かれています。)
えっこんな解説いらないって。まーいいじゃん。
「どべぼー」
といって、自分で自分の顔に向かって左ストレートでつっこみを決め、壁に頭から激突する解説者なのでした。
誰もつっこんでくれないので、自分でつっこんだだけです。
「んっ。なんか大事なこと忘れてるよーな?う~~ん、まーいっかー」
といって頭の上にはてなを浮かべる作者なのでした。
▲
少女はおにぎりを食べ終わりました。もう腹もいっぱいで動けない程に。
「あのー、おにぎりはそんだけでっかかったんですか」
つっこみは置いといて次いきましょう次。
少女はおにぎりを食べ終わり、草の上に体を預け、頭の後ろに両手の手の平を置く恰好で、
『眠りに入らないと戦はできん』
と思い、眠りに入ったのでした。
「案外眠るの速いんですね。こちらの世界でいうとまだ夕方くらいですね。
えっ、この世界にも時間はあるのかって?それはこの世界の登場人物が夜とか昼とか朝とか夕方とか設定してるだけで、正確な時間なんてものはまだないから、答えはないです。というのが正しいです」
まー読者はそこんとこ聞きたそうですが、登場人物がないと言っているものに関しては、私は口答えする権限など持たないのですからないとしか応えようがないです。
それでは、ここで彼女の今の眠りについて説明しておこう。
今の彼女は眠っている。それは誰もがわかっていることだと思う。
眠っているとき、人は暗闇を見ているか夢を見ているのか、それとも夢を見せられているのかのどれかである。この世界ではこれのどれかしかないと今のところこの世界の作者はそう思っている。
この世界の作者がそう思っているということはくどいかもしれないが、読者にわかりやすくするためにこう書いただけである。
それでは話しを戻そう。
今の彼女は夢を見せられているのでも夢を見ているのでもない。
なぜかというと、まだ完全には眠りについていないからである。
この世界では、夢は完全に生物が眠ているか、気絶している(内面上眠ていると判断されている)状態を夢という。
それを判断しているのは、夢に堕ちた生物か、夢に堕とした生物かはわからないが、そのどちらかであると作者は考えている。
ただし、この堕ちているという定義自体が存外ひとことで説明できないのである。
それがなぜかというと、作者にもわからないからである。
夢の中に生物がいるのか?はたまた夢でしか活動できない生物がいるのか?それともそのどちらにも存在する生物がいるのか?それが一概にこうだとは今の段階では答えることができないので、いまのところははてなという見解で一時停止して置く。
では、本題に入ろう。
彼女は今暗闇(くらやみ)を見ている。それは、夢の中で暗闇を見せられているのではなく、ただ単に彼女の脳が暗闇を見せているだけである。だから彼女は今夢に堕ちる狭間の暗闇を見ているのである。
ただし、その彼女の意思が弱ければ、今までわかっている夢の生物と考えられている存在に夢をのっとられ、夢を見せられるかもしれないのである。
「えっ、もうちょっと補足説明してほしいってー。今のところ夢を見せると考えられている存在か、夢の中にしかいなくて、その生物自体が夢の弱みを糧としているのかは前のページで、登場人物達が説明してくれたかとは思うが、作者の考えもこのページで説明しているので、今のところは補足説明はない。ないったらないのである。
えっ。ちょっと間違ってるって?それは作者の考えとこの世界の登場人物達の考えが違ってるだけだろう。さして問題はない。そのため、この補足説明でこんがらがっているのは作者であるということだけ説明しておこう?
たぶん、間違っているのは、夢の中に生物がいるのか?はたまた夢でしか活動できない生物がいるのか?それともそのどちらにも存在する生物がいるのか?それが一概にこうだとは今の段階では答えることができないので、いまのところははてなという見解で一時停止して置く。
というところだろう。ただし、そこで作者はわからないと最初に断言しているため、作者自体がわかっていないだけで、この作品の今の段階の中でその夢のことについて説明されている部分があれば、たぶんそちらのほうが正しいので、そちらのほうを信じてくれたらいいと作者は考えているのである。たぶん」
「だったらこの補足説明自体いらんだろ」
と言われ、地の文に頭をボコられそうになるところを間一髪で避ける作者なのであった。
▲
「えっ。じゃあどこがあってるのかって?たぶん彼女が今眠ているというところだけだろうね」
と地の文は答えるのだった。
▲
「あー、よく眠たー」
ひとついっておきますが、寝たを眠たと書いているのは、この本の登場人物(少女)がそうだと信じこんでるからです。そう、それだけです。
理由?あとで語るかもしれませんが、ここでのことは、この眠たにしか関係しないので、あしからず。
少女は起きました。
両手を天高くのばし、のびをするかのように起き、体をぽきぽきならしています。体が痛い痛いと悲鳴をあげているようです。
これは比喩ですよ。比喩。えっ?そんなこといわなくてもわかってるって。はいはい。
次に少女は首を二周ずつ左右に回しました。
まるでストレッチですね。彼女の日課なのでしょう。
上半身を起こしたまま、右の手を天高くのばし、肘にもう一方の手の平をあて、体を左右に傾けます。いわゆる柔軟運動ですね。んっ?いいかえただけですって。いいじゃないですかそんなこと。
今度は反対の手を天高くのばし、肘にもう一方の手の平をあて、体を左右に傾けます。
次に両腕を左右に大きく広げてから眼の前にかたいっぽの手を持ってきて、そのまま体ごと左にそらし、左腕の肘の部分を右腕の肘の部分で前から隠すように添えます。
これもストレッチですね。
今度は両腕を左右に大きく広げてから眼の前に、さっきとは反対の腕をそのまま体ごと右にそらし、右腕の肘の部分を左腕で前から隠すように添えます。
足を左右に大きく広げた少女は、背中を後ろの地面にそのまま倒し、ねころびます。体を左に傾け、上のほうにある足を上下に上げ下げします。まるでバレリーナの体操みたいですね。
これは作者がただ単にそう思ってるだけですので、間違ってたらごめんなさいね。
今度は体を右に傾け、上のほうにある足を上下に上げ下げします。
一通りストレッチは終わったのでしょうか。少女は立ち上がり、腕立て伏せのような恰好をし、手を両方とも地面から離し、足のつま先だけで体を支えたまま立ち上がったり、地面につかないようにすれすれに体をさげたりしています。もうすでに人間業じゃないです。人間じゃないので、そんなことは通用しないか。ましてや地球でもないので、地球の常識も通用しないか。だからまーいっかー。
それを何回か上下に繰り返したあと。少女は立ったままの姿勢で停止し、
「朝のストレッチ終わりーっと」
作者に今までのが全部ストレッチだったのとつっこむ暇もあたえず、立ったまま足を前と後ろに開き、全速力で駆けだしました。と思ったら、今度は途中で振り返り、全速力で戻ってきました。と思ったら、私の前でいきなり体を回転させ、また駆けていきました。どうやら彼女はダッシュをしているだけのようです。元気ですねー。やっぱ若いっていいですねー。
「あんたも若いだろー」
作者は恐怖の顔を浮かべながら知らないと答えるしかありませんでした。
この物語に登場する作者は若いようですね。
少女はそんなことなど気にせず、まだ走りつづけていました。
「すっごい体力」
それに
「えっへん」
と鼻の下に右手の人差し指を添えながら答えたため、なにもないところで、そのまま前のめりにこけ、漫画みたいにぐるぐるまわる少女。でも、周囲には草しかないため、そのまままわりつづけ、勢いがなくなったところで、草の上に眼をまわしながら大の字に仰向けの恰好で倒れるしかなかったのでした。(自分で意図してない仕方で眼を回すような行動をしてしまったため、少女の眼が回ってしまうという堕算が起こったのである。自分でまねいた不始末なのである。)
▲
少女は、草の上に仰向けに倒れたまま目を回していた。彼女の眼を見ていると私も目を回してしまいそうである。
案の定、私の目も回り、その場に倒れ込んでしまうという不始末を起こすのであった。
二人は暗雲の世界に引きずり込まれた。そこには暗い黒雲(くろぐも)しか存在していなかった。周囲を黒い雲に覆われ、視界には黒しか映らず、何もみえない。まるで黒い霧の中にいるようである。
一瞬の間にどうやってここに引きずり込まれたのかは、彼女にも作者にも知るよしもなかった。
暗雲の中、黒い雲状の手が二人を両手で包みこんだ。救いの手をさしのべたのではなく、悪の道に誘い込もうと企んでいるようである。それは黒雲自体が意識してやっていることなのだろうか?それとも?
たぶん、この世界には、人間世界でいう、悪を企む存在がいたとしてもそれを裏で操る存在というのは、存在しないと思う。なぜなら、それをできるものがこの世界には、存在しないからである。存在しえないものが存在しているものを操るなどできるはずがないのである。例えそれがこの世界と隔絶された存在だったとしても。
ここでゴーレムについて少しふれておく。
ゴーレムとは、あやつる(自分の精神を維持されたまま相手の行動を自分の意のままに動かすこと。)ではなく、のっとり、ようするにのりうつり(自分の意識を相手によって覆い尽くされ、精神と体がそいつに奪われた状態を指す。でも、自我の精神も相手に支配されているため、その時の状態を覚えていることはなく、一度その状態に堕とされたら、自分ではけっして精神を目覚めることができないのである。なぜなら、自我の精神自体が存在しないからである。)を行う存在であるということだけを覚えておいてほしい。
それでは話しを元に戻そう。
二人は暗雲に包まれたまま目を覚ますことはない。それは、目を覚ましてしまったら、この暗雲自体が消えてしまうからである。それは、この夢の中にいる物体がそれほど強い物体でないからである。
彼は彼女らを起こさぬよう、そっと両手で彼女らを包みこんだ。左右から砂をこぼさないように柔らかく包みこむように。それでいて音をたてないように。
この世界は、その一瞬の迷いや綻びやくるいで壊れてしまうほど儚い存在だからである。
彼の作りだしたこの世界は、誰ものにも操られておらず、この世界にもそれを操れる存在が存在していないのは、先程説明した通りである。
彼は、自分自身を強い存在にするため、彼女ら、とりわけ、少女の夢の刻印の力を欲している。それを自分の身に宿すことができれば、今の倍以上に強くなれると思っている。しかし、彼の想いは儚くちった。それは、彼女の中にいる夢の刻印の力を自分自身に取り込んだとしても、それを制御するほどの大きな精神力が欠落していたからである。
彼はミスを侵したのである。関係ないものまで自分の中に取り込んでしまうというミスを侵したのである。彼は、そいつが何者も体に宿していないことを知らなかったのである。
それは、彼にとっては当然のことだったのだ。彼は、少女が目を回している場面を見てはいたが、それと一緒に勝手に入り込んできた存在が何ももっていないはずがないと決め込んでいたからである。入り込んでこれたのだから、それなりの力を宿しているはずと決め込んだのである。彼女の体を調べていなかったことが彼の敗因だった。そのため、彼女らは、夢の中に堕ちたという事実をも知り得ないまま黒雲に解放され、黒雲も自分の精神を自分で操ることができなくなったため、彼女が夢から覚めるという現象が起こってしまったのである。
それを起こした当の物体自体が消えるか、精神を崩壊させてしまったら、それをとりこむために無理やりこの世界にねじ込んだ存在が、この世界に存在できなくなってしまうのは、世界の理というものである。
ただし、この場合は、その物体自体が消えてしまったわけではないので、その物体によってねじ込まれた物体が、この世界を成形したものから解放されたため、夢の世界からでてきて、目が覚めたということだけである。
そのため、二つの世界自体が存在しているのか、はたまた、それを作りだす存在がいないとこの世界自体が存在しないのか、それとも、そのどちらでもないというハテナな存在なのかは、作者にも彼女にも知るよしはなかったのである。だって、夢に堕ちていたこと自体知りえなかったのだから。
「んっ?ここはどこ?私は誰?あっ上にはお空がある。」
解説。記憶が飛んだのに、言葉が消えていないということは、彼女の記憶は消えていないということですね。単に今の状況が飲み込めなくてぼけてるだけですね。
「んっ?ここはどこー?あたしは誰?誰かへループ?あんた誰?」
こっちは本当に記憶が飛んだようです。でも、この記憶が飛んだというのは、この一幕だけに関係していることであり、あとの物語では、彼女にはまだ記憶があり、それ自体も覚えているということになっているため、彼女に対しては、ほっとくことにしましょう。
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それから少女は、自分の姿を体のすみずみまでさわって調べ、その結果、自分が何者であったかを思い出したようです。
少女は、狸で、茶色い毛皮をしていて、三角の耳と背中には、流れ星の夢の刻印があります。尻尾はちょっと他の狸よりも長いかも知れませんが、それもほんの二寸程です。尻尾の毛はふさふさしているので、さわりごこちはばつぐんです。作者も抱きたいです。一生腕の中におさめていたいです。
それは置いておくとしまして、顔はというと、眼が大きくて、まつ毛が長く、開くと大きい眼球が前に少しばかり盛り上がっているのが見て取れます。眼の色は普段は茶色いようです。気持ちの昂りや頭の中の感情によって眼の色は変えることができますが、今はそういう気持ちのうずまきがないので、茶色のようです。
鼻は前に盛り上がっていて、なめらかに三角を描いています。とても丸っこく、なんか女の子っぽいですね。口元はぷりっと盛り上がってはいますが、現代の人間のように化粧をする文化がないため、色はついてなくて、自然の色です。そのため、普通の狸と同じ桃色です。でも、少しばかり淡いのが特徴ですね。
外見の特徴はこのぐらいにしておいて、今気づいたんですが、隣にいる作者も狸なのは確かなようです。でも、作者の外見は、場面によってその都度変わるので、誰もその全容は知りません。姿の変えられる元の姿のない生物とでも思っておいてください。
それでは、本題に入りましょう。
作者と少女は、手のひらを地面につけ、足を適度に開き、伸ばして座ったまま顔だけ動かして向き合い、眼を合わせ、握手をしたのち、手を離し、少女は歩き始めます。
なんかうきうきしています。遠足気分のように華やかです。でも、眼の前にあるのは、草原ばっかり、それが彼女の気を徐々に滅入らせます。それでも彼女はあきらめません。だってタヌキんど一世に会いたいんですから。それだけが彼女を突き動かしているのです。何事にも気分というものが大事なのです。いちいち細かいことまで考えてはいられないのです。だってこの気分の昂りは誰にも止めることができないのですから。
ふと立ち止まり、少女の眼が何かを発見したように驚きにみち溢れます。視線の先には、赤レンガの家らしき物体が見えます。誰かいるのでしょうか?それとも目当ての人物なのでしょうか?
少女の感情は天を通り越し、最骨頂に達して収まりきらなくなり、それに応え、体も動きだしています。もうきらきらした気分はなにものにも変えることができないのです。
徐々に体も彼女の気分に追いついていき、限界までとばされます。
そこにふと黄色い狸が登場し、彼女は視眼(しがん)することができず、ぶつかってしまいます。黄色い狸には、それが頭にきたようで、彼女を右手に持ったハンマーで勢いよく叩き、遠くまで飛ばしてしまいます。彼女は一瞬なにが起きたのかわからず、そのまま飛ばされるのに身をまかせます。でも、頭から地面に突っ込むことはたいへん危険なため、体を少し動かし、足から着くようにします。その反動で自然に体も後ろに向き、なにも考えず少女は足からシュッタっとすべりながら地面に着地します。すべったため、地面の土の層が見え、茶色い部分がそこだけ一本の線になっています。
すべりおわり、足の動きが止まったら、少女は体を左回りにジャンプしながら半回転させ、前に向きなおります。私を飛ばした生物はどんなやつなのかと。それは黄色い狸のようです。右手には大きな木と鉄を組み合わせて造ったハンマーを持っています。鉄の柄頭の中心の木のつきでた部分を地面にむけ、柄頭と地面がくっつくように、下にハンマーをむけています。
すこしばかり体をハンマーの柄のほうに預けているため、若干かたむいています。
なんかこっちを見ているため、恐いです。
「きゃー恐い。なんか怒らせちゃった。それとも私気の障ることした?」
がくがくと全身を震わせ、あごのところに適度に握った手を置き、足を小刻みに上下に曲げたり伸ばしたりしています。感情を全身で表しています。なんかみているだけで寒気がしてきそうです。
「んっ、よくみればいい男じゃん。ダンディー風でー黄色くってかわいっ」
頭の中だけでそう思ってればいいのに、声に出しちゃってます。しかも最後の所舌噛んだみたいで言えてません。
「舌じんじんしてきたー。まー時間経てば治るか―」
と思い、しばらく黄色い狸をみつめ続けるのでした。
▲
しばらくすると、黄色い狸は何事もなかったように赤レンガの家に入りました。
少女はしばらく待ち、出てくる気配がないか確認します。
暇なので、とりあえずその場で腿あげをしてみます。
立った姿勢のまま動かず、片方の足を上げているときはもう片方の足は地面についており、もう片方の足が上がっているときは、反対の足が地面についています。
ただ単にそれを繰り返してるだけです。手は両方とも腰の位置に手の平をくっつけた恰好で、足を上下させています。
一通り少女の気が済むと、おもむろに一時停止し、ゆっくりと赤レンガの家へと向かっていきます。
扉の前へとたどり着くと、少女は、なぜか悩み顔を浮かべています。なぜなら、その扉には、取っ手らしきものがついていなかったからです。
扉の前で少女が片方の握った手を顎に据える形で悩んでいると、何を思ったのか、扉がひとりでに開いていきます。開いた扉を見てみても、茶色い樫の木の扉には、何もついていません。たぶん押して開くのでしょう。だから、風かなんかで開いたのでしょう。
少女は、開いた扉の中に意を決して飛び込みます。
「ごめんくださーい。誰かいませんかー」
その声が聞こえたのか、黄色い狸が起き出し、眼の前にいきなり登場し、笑顔で扉を押しあけてくれたのだった。
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