第18話 修行

 「世界に二つとない星に存在しているこのタヌキんど一世がおまえら二人に修行をつけてやる。ほら、こちらによれ」

 二人は、変な文句に怪訝としながらも、タヌキんど一世のほうに近づいていきます。

 「まずは体力作りだ。おぬしらは基礎がなっておらんからその基礎をつけるための前段階として、体力作りから始めてもらう。まずは、表へでよう」

 タヌキんど一世は、眼の前のドアを力強く押しあけます。

 「なぜ押した?なぜ取っ手をつかわない?なぜ取っ手を使って開けてないのにドアが壊れていないんだ?そもそも取ってはあるのか?」

 と作者がタヌキんど一世につっこむと、

 「そんだけいっぺんに聞くなー」

 とタヌキんど一世は甲高い声をあげます。

 「まず第一に、そこのドアには取ってはついていない。なぜかというと、わしが強すぎるため、ほかの生物がわしを恐れておるからだ。

 第二に、取っ手が付いていないため、押すことでしかドアが開かないから開(ひ)くという手前に引っ張ることができないからじゃ。

 そして第三に、」

 てか第三いらなくねー。これいつまで続くんだ?あーかったりー。

 「って人の話をきけー」

 とタヌキんど一世によってハリセンで叩かれ、

 「いて、」

 と作者はいいます。


                  ▲


 話を戻し、表に出た二人は、その広々とした原っぱの世界に眼をうばわれます。

 なんて幻想的な世界なんでしょう!この世に存在していないみたい♡

 「うふ♡」

 おとめチックに笑みを馬を引く者は浮かべてみます。

 「って、だれがうふだー」

 馬は前足の二本を高く上げ、主人に足蹴りをくらわします。

 「ぎゃふん」

 普通の茶色い狸は、勢いよく吹っ飛び、10m向こうにある木に激突しました。

 「ドゴッ」

 その光景をみたタヌキんど一世は、あごの下に左手を据え、ガンマンのように手を銃の姿(かたち)にし、眼からきらりとひし形の光りをだします。

 馬はタヌキんど一世をおきざりにしたまま血相を変え、額に冷や汗を浮かべながらへろへろにのびている主人のもとへ、全速力で駆けていきます。

 そして主人のもとへたどりついた馬は、その場へすわり、前足を器用に動かし、主人をだきあげ、自分の背中へとのせます。

 「って、すごいよ馬。あんたどう動かしたら主人を背中にのせられんの?骨いかれてんじゃねーの」

 と称賛なのか堕算(ださん)(人をけなすこと)なのかわからぬ言葉をいいながらも、両手でパチパチと拍手をします。

 「あのー堕算ってあるの?」

 タヌキんど一世の心の声。

 「ありませーん」

 応える作者。

 「へえー」

 大きく溜め息をつき、

 「おんどりゃー」

 作者の頭にむかってハリセンをふりおとします。

 作者は眼に涙をうかべながらもなぜか笑顔だったのでした。


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 「まあーほっとくかー」

 タヌキんど一世は、両手を両方顔の左右にうかべながら変なポーズをとります。

 そして両手でドアを押し、トコンとかかとをならし、そのままどさーーっと布団に倒れ込み、枕に顔をうずめながら眠ってしまいます。

 馬も主人を背中に乗せたままその木の根元に腰をおろし、目をつぶり、気絶したままの主人をよそに眠りにおちます。

 なんともほほえましい光景です。小鳥がチュンチュンとよってきそうです。作者もその光景につられ、そのままスースーと寝てしまいます。


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 明日(あした)の世界。

 明日はやってきた。明日になった。

 それは突然やってきた。明日(あす)という名の元に。

 元をたどれば、それは同じことだった。私が忘れられているということに気づくのに、なにも理由などいらなかった。誰も私のことなど微塵も語らなかったのだから。

 「あのーなぜ私は忘れられてるんですか?」

 とその者は私に語りかける。

 その者は、タイトルにこそでてきたもののやられることのなかった存在。

 それはなんだろうか?作者もハテナを頭の上に浮かべる存在。

 そうハテナ星人。

 「って違うだろー」

 と作者につっこむ地の文。

 「書かれてる文字ごときがつっこむなー」

 と作者。

 「む、ここで戦いという名の戦が始まるのか」

 と解説者。

 解説者?突然追加された解説者?

 「なんの解説だ?」

 と作者。

 「その解説に作者は何を求めているのか?」

 と地の文。

 「あのーまた私の存在忘れられていません?」

 とその者。

 「まあーいいではないか」

 「ってスルーされたー」

 作者はその者に対して何の感情も持ってないが、なんの感情も抱いてないわけではない。そのため、彼女に対して何もしてやらないのは無粋なもので。

 彼女に対して説明を行う。

 彼女は、タイトルに書かれている修行である。

 「最初から正解語っちゃったよこいつ」

 と地の文。

 「正解と言っていいのか。正解といっちゃだめだろ」

 と解説者。

 「彼女は、修行。修行と題してあるのにその修の文字も修行をしていないこの二人。

 しかし、誰もがそのことに気づいていない、作者すらも」

 「あのー作者さんが気づいたからこの文章が書かれてるわけですよねー」

 「んっ」

 右手の手のひらに顎を据えながら虚空をみつめる作者。

 「って逃避行みたいに本に逃げないでください。」

 と地の文。

 「まーここまで説明すれば誰かわかるわけでーってーー、」

 ここで三人に対してガンをとばすように鬼の形相で睨まれる作者。

 「そんな恐い顔でみつめないでくれますーてへ♡」

 「てへ♡じゃないだろこいつー」

 地の文に右ストレートパンチをくらわされる作者。

 「ボフッ」

 「KO。カンカンカンカン」

 床にのびながら床に対して口から血を流しつづける作者。

 「よし、それでは修行を始めるかー作者さん」

 手を胸の前でぽきぽきと鳴らし始める修行ちゃん。

 「修行ちゃん¬ー?」

 後ろを振り返りながら暗いオーラを全身に身に纏いながらこちらを凝視する修行。

 「そうだわかればよろしい。

 では、この者には私の修行道具としてサンドバッグになってもらおう」

 作者の後ろの首根っこを左手でつまんでもちあげ、右手を握り、ボフボフと何度も何度も殴り始めます。

 「だれかにあたりたい気分なのねー」 

 うんうんとうなづきながら額に冷や汗を浮かべ、その光景を観る解説者。

 「だよねーボフッ」

 と解説者もぼこる修行。

 そのようにして、修行につっこむやつらを修行がつっこみが続くまで延々とぼこり続ける映像がこの後もずっと続くのだった。

 「ボフッ」


                  ▲


 それでは、話しを元に戻しましょう。

 ここはタヌキんど一世の家。タヌキんど一世は和室に敷かれた白い一枚の布団から上体を起こし、

 「うわあーあ」

 大欠伸をあげながら両手を両方向の天にむかってのびをするように動かします。

 盛大な欠伸ですねー。作者もほれぼれします。

 「よっこいしょ」

 膝に右手をおき、布団から立ち上がります。

 今度は、右腕を天に向かってあげながら、その右腕の肘の裏に左手の手のひらをそえるような形で、

 「うわああー」

 と欠伸をしながら、キッチンへとゆっくり歩いていきます。

 いつものように戸棚に手をかけ、取っ手をつかみ、手前にひくと、その中から急須をとりだしました。

 色はタヌキんど一世の肌の色と同じ黄色です。

 そこに一リットルはゆうに入る大きさの白いおしろいのような色のポットを火にかけて沸かしたお湯を注ぎます。

 「ジャーー」

 急須のふたはあらかじめあけられており、そこにはざるがあり、そのざるのなかには、煎茶の葉っぱが細かくなったものが入れられていました。

 お湯が注がれます。ふたをかぶせます。いろがでるまで少し待ちます。

 おいしそうな風情のあるにおいがたちのぼってきました。

 あーなんていいかおりでしょう。まるで一面を木にかこまれた大自然の中に存在する大きな森の中にいるみたいです。

 タヌキんど一世はその急須を四角い黄色い板製のすえわの上に置き、もう片方の手で黄色い丸い取ってのついた黄色いコップを持ち、テーブルへと歩を進めます。

 大きな一枚板の丸いテーブルの上に、急須とコップを置き、急須から煎茶をコップへと注ぎます。

 そして、コップのなかの煎茶が黄色い狸の口の中へと入っていきます。

 「へぇー。やっぱこの味だよなー。やめられないぜー。のどを刺激してくるこのなんともいえない葉っぱの香り。そうそれは、海の中の木がある森にいるみたいな香り。そう、大海の中に存在する森だ。

 あーやっぱうっめー」

 感嘆の声を洩らします。


                 ▲


 話しは移ります。

 ここは、草原にたつ一本だけある木。

 なぜ一本だけあるのかときかれても木にしかそれはわからないので、作者には答えられません。

 馬を引く者は寝返りを打ちました。馬の背中から転げ落ちます。案の定盛大に背中をうちます。

 「ドン。いったー」

 馬を引く者は涙目になりながら周囲を見渡します。

 眼の前には原っぱ。右を向いても左をむいても原っぱ。そして後ろを向いても原っぱかというと、そうではありませんでした。

 そこには、馬と木がありました。馬は眼を閉じ、まだすやすやと寝ています。

 重くなかったのでしょうか?よく人をのせたまま寝れるものです。

 私なんてなにも持っていなくても寝れないくらいです。というのは置いておいて。

 寝ている馬を見て、馬を引く者は、口元に笑みを浮かべながら、小さく微笑みます。

 その後、馬を起こすために歩を進め、馬の右耳の後ろをやさしくなでます。

 そのさわりごこちといったらなんでしょう。ざらざらしていますが、毛をさわっている感触というのはいいものです。とても柔らかく、さわられているほうも気持ちがいいのか、鼻がひくひく動いています。 

 馬を引く者は、馬の習性というものがわかりませんが、自分の相棒が嬉しいのか、嫌がっているのかくらいはわかります。もう何年も世話をしてきたのですから。

 馬は眼を開けました。

 「おっ、起きたか馬よ」

 「ご主人様でしたか。とってもいい寝顔で寝てたものですから私も便乗しました。

 それでは、起きたことですし、さっそくひとっ走りいきますかー」

 主人の襟首を銜えなげ、自分の背中に器用になげのせると、

 「ひひーん」

 主人を背中に乗せたまま全速力で原っぱを駆けます。


                 ▲


 朝の陽ざし、照りつける太陽。

 「って太陽あったんかーい」

 「ああ、太陽ぐらいあるぞ。六(ろく)陽(よう)とこちらの世界では詠んでおるがな」

 「六陽?」

 「そう六陽。六つつづけて上がって来るから六陽じゃ。でも今が何番目の太陽か数えていなかったので、何番目の太陽かはわからぬがな」

 「ふーん変な世界なんだなーここは。太陽が何回も上がってくるとは。地球では考えられないぜ」

 六陽の陽光を手で隠しながら、作者はタヌキんど一世をみつめます。

 「わしも外の世界を観たことはないが、この世界ではこれが普通じゃからのー」

 と言いながら、そこにあるはずもない黄色いひげを左手でさわるようなしぐさをしながら、

 「では、ちとこの世界の季節の話しでもするかのー」

 タヌキんど一世は、作者に向かって話しをし始めるのでした。


                  ▲


 「まず、今の季節は一体なんだと思う?」

 作者はうーんと言い、腰の部分に腕をおき、両方の手で反対の肘の部分を持つようにしたまま考え始めます。

 「春、夏、秋、冬、なんだろうなー。そもそもこの星に地球と同じ季節があるのかもわかんないしなー。四季なのか?四季以上に季節があるのか?それがわからんことには推測のしようもないしなー。うーん」

 作者は考えます。しかし、結論はでません。でるわけがありません。外の季節は地球でいう春か秋の季節に似ていますが、ここだけそうなだけかもしれないため、容易に判断できません。

 そのため、作者は、こう応えるしかありませんでした。

 「わからん」

 作者のその答えを聞き、タヌキんど一世は、にやりと笑いながらこう応えます。

 「そりゃーわかんねーよなー。一葉(一応と同じ意味。)今は夏だ。夏だといっても暑いのではなく、涼しいがな」

 「涼しい?」

 と作者は頭の中で疑問符を浮かべています。

 「涼しいとはどういうことかというと、単に気温が涼しいというのもあるが、獲物が上級の生物に喰い荒らされ、静かになっている季節でもあるのだ」

 「はて?それはどういう?」

 「それがこの星だからだといってしまえばことたりるが。それではお主は納得しないだろ。この世界は弱肉強食だ。それは地球でも同じことだ。しかし、この世界の弱肉強食は一味違う。それは、生物に支配された弱肉強食ではなく、季節によって支配された弱肉強食だからである。ようするに、季節の太陽によって生物が喰い荒された結果が今の季節だ」

 作者は、今の話を聞いても全然理解できません。無論読者も同じでしょう。しかし、太陽が季節に働きかけるとはどういうことなのでしょうか?

 「今の話から太陽が季節に関係しているということはわかった。しかし、なぜ太陽が季節に関係しているんだ?」

 「地球の季節がなんで決まっておるかは知っておるか?」

 「地球が太陽の周りを365日で周(まわ)っているから?」

 「答えに疑問で応えるとは。地球が太陽の周りを周っておる。そして、地球も一日一回自分を横に一回転させておる。その太陽と地球の光りのあたっている関係に四季が関係しておる。だから地球も生物に弱肉強食を支配されているのではなく、太陽によって、季節によって弱肉強食が支配されていることが言えるということじゃ」

 「そういうことか。なら納得納得。しかして、話しは戻すが、六陽とは具体的になんじゃ」

 「それはのーどーいったらいいかのー。言葉では説明しにくいんじゃが。まず太陽が五角形を描いてそれぞれの角に太陽が存在しておるとする。その中心にもひとつ太陽があるとする。それらそれぞれを周る星があるとする。そのそれらを周る星には、地球と太陽の距離ぐらいの距離が空いてるとする。そう考えたら六陽の関係がわかるじゃろ」

 「ということは、つまり、その六陽全ての周りを周っている星。それこそがいま我らがいる星だといいたいのか?」

 「そうじゃ。そういうことじゃ」

 うんうんと首を動かし、頷きながら、タヌキんど一世は、先生が生徒に教えるような瞳をしています。

 「ということは、その太陽全部に季節が付けられているといいたいんですか?」

 「ほう。察しがいいのおー、お主は」

 と言いながら、ない髭を指で触るような仕草を右手でします。

 「して、その季節は?」

 「今は夏。次がゴリ。次が秋。次が冬。次が全部をまとめた季節と天災が一気にくるという意味から、この星で天災という意味のパプ。そして、今の前の季節の」

 「春」

 「そうじゃそうじゃ。ほんとにお主は察しがいいのう。」

 「で、ゴリとはなんですか?」

 「ゴリとはのー。土(つち)雪(ゆき)と言えばわかりやすいかのー。ゴリ。この言葉の意味は土雪。土が雪のように空から降ってくる季節。大地に土が降り積もる季節。それがゴリじゃ。といってもこのゴリがなぜ降るのかはまだ解明されておらんがのー」

 「土雪?じゃあどうやってそれを回避するんだ?それがどうやって木ごときに回避できるんだ?」

 作者の頭の中は疑問でいっぱいです。

 その気持ちをタヌキんど一世が察したのか。この草原に一本だけある木。今の今まで馬を引く者と馬が寝ていた木。その前まで行き、そこを掘ってみるのだ。と言いました。

 作者は意味のわからないままの顔でぽかーんとしながらも、とりあえず眼の前の狸の言葉に従います。

 しばらく手で掘り進めると。木の下の土の中から葉っぱがでてきました。その葉っぱをつかみとり、

 「葉っぱ?」

 疑問のようなハテナのような声を作者はあげます。

 「そう葉っぱじゃ。木のある土の下には根があるもの。それが普通じゃ。しかし、ここは地球ではない。して、木の発育が地球のように遅いともかぎらん。じゃから、この木はこの星に対応するために進化したんじゃ。

 葉っぱの上から枝ではなく木を生やすという」

 作者はこの木をもっとよく見ようと木に眼を近づけます。

 するとどうしたことでしょう。木の幹と思っていたものは、幹ではなく、枝ではありまんか。枝の一本一本が絡みあったもの。遠くからみると幹にしか見えなかったもの。

 枝が無数に絡まり合い、幹のような造(かたち)をなしていたのです。

 タヌキんど一世は幹を手のひらで触りながら言います。

 「この木はのー。進化してきたんじゃ。幹を作り、葉っぱを作り、その葉っぱによって貯えた太陽のエネルギーを使って、葉っぱの上から枝を生やし、その枝を絡まり合わせ、どんな風にもまけないよう幹を作り、また次の季節にそなえるための葉っぱを上に生やすという。我々には考えられない程の力をもっておるんじゃ」

 作者もタヌキんど一世の言葉を聞き、木の力を知り、一緒になって木を手のひらで触りながら、

 「おまえってすごいなー」

 と呟きました。


                  ▲


 馬は背中に主人を乗せ、原っぱを駆けていました。原っぱは、野のように見渡すかぎり平坦です。平行線が地を駆けているかのように平坦です。

 「普通、平行線は地を駆けませんが」

 「すいませーん、平行線を生物と考えてましたー」

 「そこかい、すいませんは」

 と言い、作者をひっぱたく地の文なのでした。

 話しを戻し、

 「ご主人様ー。さいっこうですね。地を駆けるのって」

 「そうか、僕はそれほどでもないが。って、馬ー速力だしすぎだー。つかまっているだけで精一杯だー」

 「んっ。そうですか。私は気持ちいいんですがねー」

 馬は駆けながら器用に頭を動かし、背中にいる主人をみながらいいます。

 「まえまえー」

 「まえがなんですか?」

 馬は、頭を動かし、前を向きます。するとそこには崖がありました。平坦すぎてみえなかったのですね。二人はそのまま崖下へと墜落しました。


                  ▲


 崖の下には世界が広がっていた。

 「広がっていたってあたりまえですよね」

 苦い顔に冷や汗を浮かべながら、つっこみを入れる作者。

 「はい。冒頭から地の文につっこみ入れないでくださいー」

 馬を引く者の出現させたハリセンによって叩かれる作者。

 「いでー」

 「ってそんなコントみたいなことやってないで、上見て上」

 馬の声で上を見上げる両者。

 「うわっ。たかっ」

 「あたりまえの解答をありがとうございましたー。ぶでっ。って頭を叩かないでくださいよーご主人さまー」

 前足の二本を器用に曲げ、頭をおさえ、涙目になりながら主人の顔を見ます。

 いっぽう主人は。

 「あー、はいはい」

 生返事をしながらも、顔には多少笑みを浮かべています。

 「あっ、かっこうは、胸の前に両手で×印を作りながら右手にはハリセンをもっていますよー。はいここ今回の注目ポイント」

 「って注目するところでも後で必要になる言葉でもないのに注目ポイントとかいうなー」

 と怒り顔のまま勢いよくハリセンで作者の顔を叩(はた)きます。

 「はい、二人はまだコントをやっています。こりないですねー。こんなこといってたら、またつっこみをくらいそうなのでここらへんでやめます」

 と地の文は言い、普通の地の文に戻ります。

 「って、何意味のわからないこといってんじゃー」

 と二人にいわれながらハリセンによって両方向から頭を叩かれる地の文。

 「・・・」

 「って何か言えー」

 また頭を二人に叩かれる地の文。

 「・・・」

 意地でも普通を保とうとする地の文。その壮絶な戦いを描いたこの物語。いったいどうなるのでしょうか。つづくつづく。

 「って、かってに違う物語作るなー」

 と二人によって作者もハリセンで頭を叩かれるのでした。

 それを近くで見ながらも他人のように俺には入れねーって顔をしながら、すわったまま前足を両方向に上げ、変なポーズを馬はとるのでした。


                  ▲


 そのころタヌキんど一世は、崖の上にいました。木に手の平をあてながらふと周りを仰いだとき、二人が崖から落ちていくのを見てしまったのです。

 タヌキんど一世は、青い顔をしながら血相を変え、木の前から離れ、崖の方へと駆けていきました。

 「また弟子を失うのはつらい。生きててくれよ」

 と頭の中では思っていました。

 「ただいまー」

 「やあ、おかえりー」

 とタヌキんど一世は、扉から入ってきた小さな茶色い狸を見ながら言いました。

 小さな狸は笑顔のまま走り、そのままタヌキんど一世の胸の中に飛び込みます。

 「そんなにうまくいくわけがない」

 と言い、その飛び込みを左に動くことによってうまくかわします。

 「そんなー」

 そんなことを予想していなかった小さな狸は、そのままつっこみ、さっきまでタヌキんど一世がもたれかけていた壁に頭から激突します。

 「いったいー」

 頭を両手で抱え、涙目になりながらタヌキんど一世を見上げると、師匠は、それを見て笑顔で笑っていました。

 師匠は、その涙顔を見て照れくさそうに笑いながら、僕の頭に手を置き、嬉しそうになでなでします。

 次の日の朝。僕は起きると、師匠はもう木の丸テーブルに座って煎茶を飲んでいました。

 「おはよう」

 「おう、起きたか。よく眠れたか」

 「はい、おかげさまで」

 「そうかよかったよかった」

 「昨日は寝る前に師匠に横で武術についての鍛錬の仕方を寝るまで語ってもらったからぐっすりだ」

 と頭の中では思いながらも

 「へへへ」

 といって右手で頭の上にない髪の毛を掻く仕草をします。

 師匠はまた嬉しそうに笑顔を浮かべながら僕の頭をなでなでします。

 そしてなでながら、

 「じゃあ今日も修行するかー」

 「はい」

 表にでた弟子に対してタヌキんど一世は、

 「じゃあ今日もタイヤを背中にくくりつけての走り込み。背(せ)タ走(ばし)りをやってこーい」

 「わっかりましたー」

 「じゃあ俺は眠(ね)るー」

 「って眠るんですかー」

 ドアが閉まる音を聞きながらつっこみを入れます。

 そして師匠が寝て、夜起きると帰って来るはずの狸が帰ってこなくて、それを不穏に思ったタヌキんど一世は、夜の原っぱを駆けていき、崖下に落ち、崖上からでも真っ赤になっている頭が見えるほど盛大に血が流れている弟子をみつけたのでした。

 顔を真っ青にしながら、

 「あんなことはもうおきてはいかん」

 と思いながら必死の想いで崖まで駆けていきます。

 そしてそこには馬と狸が笑いながらコントをかわす姿が広がっていたのでした。

 「ううっ。っひっくっひっく、ゔっゔっ」

 と涙を流しながら、崖から二人のいる天国へと向かってダイブするのでした。

 「あのー天国とか書いてますが二人は結局死んだんですかー?」

 「死んでるわけねーだろ」

 「ポコン」

 「いってー」

 とパソコンの画面にむかって盛大につっこみをいれ、パソコンの応える声を聞き、ほくそ笑む作者なのでした。


                  ▲


 「ただいまー」

 「やあ、おかえりー」

 とタヌキんど一世は、扉から入ってきた小さな茶色い狸を見ながら言いました。

 小さな狸は笑顔のまま走り、そのままタヌキんど一世の胸の中に飛び込みます。

 「そんなにうまくいくわけがない」

 と言い、その飛び込みを左に動くことによってうまくかわします。

 「そんなー」

 そんなことを予想していなかった小さな狸は、そのままつっこみ、さっきまでタヌキんど一世がもたれかけていた壁に頭から激突します。

 「いったいー」

 頭を両手で抱え、涙目になりながらタヌキんど一世を見上げると、師匠は、それを見て笑顔で笑っていました。

 師匠は、その涙顔を見て照れくさそうに笑いながら、僕の頭に手を置き、嬉しそうになでなでします。

 次の日の朝。僕は起きると、師匠はもう木の丸テーブルに座って煎茶を飲んでいました。

 「おはよう」

 「おう、起きたか。よく眠れたか」

 「はい、おかげさまで」

 「そうかよかったよかった」

 「昨日は寝る前に師匠に横で武術についての鍛錬の仕方を寝るまで語ってもらったからぐっすりだ」

 と頭の中では思いながらも

 「へへへ」

 といって右手で頭の上にない髪の毛を掻く仕草をします。

 師匠はまた嬉しそうに笑顔を浮かべながら僕の頭をなでなでします。

 そしてなでながら、

 「じゃあ今日も修行するかー」

 「はい」

 表にでた弟子に対してタヌキんど一世は、

 「じゃあ今日もタイヤを背中にくくりつけての走り込み。背(せ)タ走(ばし)りをやってこーい」

 「わっかりましたー」

 「じゃあ俺は眠るー」

 「って眠るんですかー」

 とつっこみをかわしながらも僕は、背中にホイールをつけたままのタイヤを一個背負い、リュックを背中に背負(しょ)うようにして自分の体にロープを使ってくくりつけ、

 「じゃあ、いっちょやりますかー」

 勢いをつけて走り出します。

 いつか師匠が教えてくれました。

 「背中にロープをくくりつけて走るほうがいいんじゃないの?」

 師匠は、背中にタイヤを背負ったまま言いました。

 「そうじゃのー。それじゃったら、タイヤを引っ張ってるだけだから体力はつくが、力はつかんじゃろ」

 ぼくはうなずきながら

 「うーん、それもそ・・・う・・・だ・・・ね・・・!」

 こう答えました。

 師匠は、

 「だろ。じゃから、体力と力の両方を一度につけるという効率化のためにこうやるんだよ。人生は長いのか短いのかわからない。でも、その時間を削りたいとは誰も思わないじゃろう。じゃからその時間の削りを少しでも少なくするために効率化という方法を使うのじゃ。

 そうすれば、短かったかもしれないであろう人生という軸の塊を少しでも大きくすることができるじゃろう。

 わしは、そうしたほうがいいと思うんじゃ。いつもいつもわしは一人残される。わしはなー発明家なんじゃ。発明はなー世界を変えた。根底から覆したんじゃ。死をリセットしたんじゃよ」

 と師匠は言い、銅をいっぱい集めて箱型にしたような物体を持ってきました。

 その傍ら(右側だから、師匠から見ると左側)には、オルゴールを回すと音がでる。そのための歯車(ハンドル)がついていました。

 ハンドルといっても、車のようなハンドルではなく、こう取ってを縦回転に回すと中の巻尺が廻され、戦いでいうための動作的なものが中で形成され、そのハンドルを前回転に回すと、自分の体だけが(その機械をもった者だけが)未来の姿になり、反対に後ろ回転をさせると、過去の姿になる。ようするに、爺になるか赤ちゃんになるかということです。

 しかし、それを生み出したことでこの世界は変わった。

 しかし、それが生み出されたことは師匠以外は誰も知らない。

 師匠はこの世界を背負うという覚悟をもってそれを作ったのだ。

 しかし、今日の師匠は、泣いていた。顔には出てなかったが。こころが泣いていた。でも、それは僕個人の理不尽な考えなのかもしれない。

 だから、師匠が教えてくれたこのリセットなるものを壊しに行く。

 ただ壊すだけじゃ。師匠もあきらめないかもしれない。だから、師匠をあきらめさせるためにこの機械のこころも一緒に壊す。そのためには、機械のこころごとくじかなければならない。

 いつか師匠はいっていた。

 「これを壊そうとしたんじゃ。で、こいつを床に投げつけたんじゃ。でもこいつは粉々にはならなかった。だから、力がたりなかったんじゃろうと思い、ハンマーを取りだした。でっかいハンマーじゃ。おまえじゃったらたぶん持てないじゃろうなー。わしは、それを両手で持ち、上まであげ、勢いをつけ、いっきに叩きおろした。そうこれを壊すという思いを一心にこめてのー。じゃがこいつは壊れなかった。

 そして、わしが死ぬ時がきた。わしはのー一度死んだんじゃ。衰弱でな。しかし、それをこいつがゆるさなかったのか、わしは、子供の体となって生き返った。表現が悪かったかのー。生き返ったというのは間違いで、子供の体に戻ったといったほうが正しい。じゃからあいつの出鼻をくじかなければ、わしはこの連鎖からぬけられないんじゃよ。もう誰かが死ぬのを見てるだけってのはつらいんじゃよ。じゃから、じゃ・・から」

 そこには、床に土下座のようなかっこうをしたまま泣きじゃくる師匠の姿があった。

 だから僕は行く。師匠の思いをかなえるために。それが師匠の望む結末じゃなかったとしても。

 そう彼は言い、崖から飛び降りました。胸の中にそいつを携えたまま。

 もう師匠に二度と会えないと知りながらも。


                  ▲


 師匠は崖の下に行き、その遺体の胸の中。心臓の部分にひときわ光る物体。黄色く、銅のように輝く胸。それをみつけたとき。師匠の眼は、黒くなり、世界をあざ笑うかのようにひときわ不気味な声をあげました。

 「ぐわはははあ゛ーー」


                  ▲


 そう、彼の胸は粉々にくだけ、それと一緒に胸の中にあった輝く物体も粉々にくだけていました。そう砂粒みたいに。

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