第7話 夢の世界
馬を引く者は、夢の中にいました。目の前には草原が広がっています。隣にいつもいるはずの相棒はどこを捜してもいません。
馬を引く者は、ここはどこだろうと考えました。
「う〜ん、ここはどこだ?う〜ん、あっ思い出した。まんとひひの森でCSまんとひひと戦って、そいつに体をつかまれて、気を失って、あれ、このあとどうなったんだっけ?う〜んとなあ、あ〜んとなあ、え〜となあ、考えれば考えるほどわからん。もーやっぱわからん。」
馬を引く者はそう言って、頭を手で掻きむしりました。
「もー、考えんのやーめた。まあ、ここがどこでもいいからどうやって抜け出したらいい?」
馬を引く者は眼を見開き、口を大きく開け、めいいっぱい空気を吸い込み、叫びました。
「誰かいませんかー。いたらここから抜け出す方法を教えてくれませんか?」
しかし、いっこうに何も近寄って来ません。いくら待っても誰も来ません。
「やっぱりそうか。そんなにうまくいくわけないよなあ〜。もーいい待つのやーめた。動けばどこかに行き着くだろう。」
と馬を引く者は言って、
「よっこらしょ。どっこいしょ。」
と馬を引く者はひと声自分に声をかけて、立ち上がりました。
「てはじめにリュックを出してっと、ん、ん、ん、リュックが、リュックがなーーーーい。ななななんでだ!
僕のリュック〜、どこいったんだー。でてこーい。でてこーいったらでてこいよー!」
と馬を引く者はどこともなしに叫び続けましたが、リュックは、自分のところに顔を出す気はいっこうにないようで、いくら待っても帰ってきません。
「ないならしょうがない。ということは、食料もえさも水もなにもかもないということか。どうしよう、どうしよう。うーん、考えろ考えろ考えろ。」
と馬を引く者は言って、頭を腕で抱えこみ、その場で回り始めました。秒速に直すと一秒で一回転はしているでしょうか?なんで回っているんでしょう?私にもわかりません。
「考えろ考えろ。」
もう回り続けて十分はたっているでしょうか。いっこうに回るのをやめる気配がありません。眼が回らないのでしょうか?あー私も眼が回ってきました。
「作者が眼をまわすなー」
と馬を引く者は作者に言って、回るのをやめました。
「ん、眼が普通にみえるぞ、普通に。なんでだ?ねえねえ、なんで?あっ、そうか。狸になったからか。そもそも狸にそんな性質があったのかすら知らないし。でも、この性質、使える。使える。使えるぞー!」
馬を引く者の眼はいきいきしています。本当に輝いています。輝きすぎて眼からビームがでそうです。
「で、だからといってここから抜け出せないことに変わりはない。」
と馬を引く者は言って、歩き出しました。まっすぐ前に向かって歩き出しました。
「歩きながらしゃべるのはなんかしっくりこねえなあ。しっくりこねえから自分の好きな歌のメロディだけまねて替え歌で歌ってみよう。」
と馬を引く者は言って、陽気に歌い始めました。
今回は迷った
今回は迷った
しーかもしーかも抜け出せなーい
こんな世界になんできたんだろう
っっ っっ っっ っっ っっ っっっ
と歌いながら馬を引く者は歩いています。メロディは、現代でいったら沖縄の歌に似ています。三味線の音を耳で奏でてはいませんが、似た歌をうたっているのは事実です。
伴奏は、ピアノのようです。そして、笛の音も聞こえて来ます。かわいい笛の音色です。(耳で奏でるとは、一度曲を聞き、その曲のメロディーを耳の中にインプットし、耳で覚え、そのメロディーだけを耳で再現することをいう。)
「ん、なんか見えて来たぞ。なんだあれは?岩か墓か?それとも遺跡か?なんかわからねーけど前まで行ってみたらわかるだろ。行ってみよう」
と馬を引く者は言って、走り出しました。全速力で走っています。速さは秒速8mくらいでしょうか?けっこう速いです。立って走っています。4本足で走れないんでしょうか?そのほうが速いのに。
「4本足で走ったほうが速いのか!でも、手に土を付けたくないしなあ。今洗えないしねえ。まあいいか。これでも着くし。」
「うおお。着くぞ。着くぞ、着くぞ。着いたー。やっと。はあっ、はあっ、はあっ。みずー。みずーって水は今ないのか。あーこんなことになるんだったら走んなきゃ良かった。あー疲れた。」
といって手をひざのところにおきながら、はあはあと息をし、その場に三角座りでしゃがみこんでしまいました。
「遺跡みたいだなあ。ここは、岩がなんこもあるぞ。岩の色は、全部灰色だ。灰色一色だ。
灰色で思い出すことは、うーん、岩の怪物ゴーレムぐらいかなあ?」
ゴーレムとは、私達の夢の中にも登場する悪の根源である。しかし、私達がそいつに会ったことがないように彼らも会ったことがない。だが、夢の中にそいつが存在していることは確かである。そのため、会うことができないというわけではない。そいつに会う方法は、深い眠りにつくことである。深ければ深い程会える確率が上がるのである。
私は会ったことはないが、読者の方々は会ったことがあるかもしれない。灰色の岩が体中に貼付けてあるように見える岩の怪物に。
その岩は動き、地面を揺らし、私達を地面に立っていられなくする。私達が倒れたら、そいつは勢いよくその上に覆い被さって私達を動けなくする。そして、私達の意識を取り込み、自分の意識で私達を動かし、私達の意識では自分を動かせないようにしてしまうのである。いわゆるのりうつりである。意識をのっとられているぶん、現代でいう乗り移りとはちょっと違うかもしれないが、そういうものである。
それ程怖いやつが誰の体の中にもいることを私は知っている。それは、私の記憶の片隅に存在する私でない記憶のところで、そいつの赤い目がいつも異様に光っているからである。
なぜなら、私の原世の人がそいつに意識を取り込まれて、いいように扱われてしまったからである。
そのときの恐いという記憶が私の頭を離れないことに恐怖を感じ、そいつにいつ襲われてガンジガラメにされるかいつも気が気でないからである。
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