第5話 ゲーテ

 ゲーテはアメリカのロッキー山脈の上空で優雅に飛んでいます。彼は隙間が開いていればどんなところでも通れてしまいます。たとえ蟻しか通れないところでもね。

 そんなゲーテは、自分に物が飛んできても何も傷つきません。だって何でも自分に見向きもせずに通り抜けて行ってしまうからです。

 しかし、そんな彼にもたった一人自分のことを認めてくれるやつがいました。それが今彼に会いに向かっている赤(あか)龍(りゅう)だったのです。

 こんな話をしている内に誰かがここに来たようです。そう、皆さんが思っている通り赤龍がここ(アメリカのロッキー山脈)に着いたのです。

 彼は、

 「ゲーテ!ゲーテ!」

 と私の名前を呼んでいます。

 私は返事の代わりに自分の真下に雷を落として自分の位置を知らせました。

 彼はそれに気づき、私の元にやって来ました。

 「よお。ゲーテ。久しぶり。今回はちょっとあんたに聴きたいことがあるんだよ!」

 「んっ、何だ?何でも答えてやるぞ。この積乱雲のゲーテさまがなあ」

 

                        ▲


 森に向かった二人は、馬を引く者が前を行き、馬の首輪についている紐を引いています。

 それから二人は夜通し歩き続け、二日後にやっと森に着きました。

 距離からしたら前に十分程で着くと言っていましたが、目の距離と足の速さが共通じゃない世界があると、皆さんは聞いたことがあるでしょうか。

 そういう世界に二人は迷い込んでしまったため、目で見て十分程で着くと思っていたのが二日もかかってしまったのです。だいぶ不安定な世界ですね。

 その森は、木がいっぱい生い茂り、どこを見ても木しかありません。上は葉っぱに囲まれていて太陽の光すら入ってきません。だから朝でも真っ暗です。

 でも狸には暗いところでも見える眼があるため、朝と同じように見えます。しかし、馬には何も見えていないので、自分が紐を引いて導いてやるしかありません。

 森は静かで何もいないような感じがただよっていて案外不気味です。しかし、そんなことにまける二人ではありません。二人はどこまでもどこまでも突き進んで行きます。

 その後二人は、森の中心くらいにある切り株が真ん中で斧で真っ二つにされているところにさしかかりました。

 そこには木がないため、太陽の光がいっぱい入ってきていてまぶしいくらいです。

 「ここでちょっと休憩しようか」

 と馬に馬を引く者は言いました。

 二人は切り株の上に腰かけてふぅーっと息を一息つきました。


                        ▲


 それから何時間が経ったでしょうか。二人は切り株の上で寝てしまいました。その二人が寝ている所に、何かがそろりそろりと寝ている二人を起こさないようにゆっくりと足音をしのばせてやって来ました。

 そいつは体が真っ黒で、森の中にいたら絶対にどこにいるのかわからないほど真っ黒な体をしています。

 目は赤く光っていて、どんなに暗いところでも太陽の下にいるように見えます。

 口の両側からは二本の大きな白い牙が出ています。その牙は太陽の下できらりと光っていてかっこいいです。

 顔はゴリラのような顔をしていて、とてもこわいです。

 尻尾は茶色くて黒色でないぶんそこだけがめだっています。

 そいつはゆっくりと二人に近づき、五本ある指をゆっくりと開け、手を上に振り上げて力を入れて勢いよく大きな鉄板みたいな手を二人に向かって振り下ろしました。

 二人はその手が自分達の腹に喰い込んだ痛さに悲鳴をあげています。

 ゴリラの顔をしたようなやつは口をめいいっぱい開けて笑っています。

 二人は痛さをこらえながら立ち上がり、上を向くとそこには、二人の身長の有に三倍以上はある巨大な真っ黒い体をしたゴリラみたいなやつが立ちはだかっていました。

 ゴリラは口を開けて笑うのをやめるとこう叫びました。

 「われはこのまんとひひの森に仕えているCSまんとひひである。我に何のようがあってこの森に入ってきた?狸と馬」

 「僕たちは狸と馬ではない、人間と馬だー」

 「どちらでもよい。用件はなんじゃ」

 「タヌキんど一世に会いに行くためにこの森を抜けようと思っておる。道を教えてはくれないか?」

 「教えてやってもいいが、それはわれを倒してからにするがよい。威勢のいい狸と馬」

 「だから狸と馬じゃないってぇ」

 「いざ勝負!かかってくるがよい」

 『戦い方も知らず、かかってこいと言われてもなー』

 と頭の中で思っていると、

 「お主らからこんのなら、わしから行かせてもらうぞよ。後で後悔したって知らんぜよ」

 そう言って二人に向かってくるCSまんとひひ(CS=capten(キャプテン) seed(シード) (キャプテンとしてぬきんでているまんとひひのこと))。

 二人と黒い怪物の距離はみるみる狭まっていきます。

 でも、戦い方を知らない馬を引く者は、動揺しきっているため、体が思うように動きません。

 いっぽう馬はというと、

 『どきどきするぜ、こんな機会はめったにねえだろー。おのれの力をためすときだ。ここは、おのれが頑張るべきだー』

 とこころの中でおたけびをあげると、主人の服の襟を口でくわえ、自分の背中に放り投げ、すとんと着地させました。

 何もわからず背中に乗せられた主人は、動揺こそしていましたが、この状況を理解できていないわけではないため、馬に自分の全てを託すのでした。

 馬の動きは素早く、CSまんとひひはその動きに翻弄され、相手がどこにいるか見当もつきません。しかし、馬の足による打撃攻撃は、CSまんとひひにとっては痛くもかゆくもないようで、ほとんどダメージがないようです。

 その光景にあせりをみせてきた馬は、額に冷や汗を浮かべながらどうしようかと考えあぐねていました。その一瞬の隙を見逃さなかったCSまんとひひは、馬のジャンプの着地の瞬間に自分の足を馬の足の下に置き、引っかけ、こかしてしまいます。

 その痛みに一瞬動きが止まってしまった馬は、地面に横倒れのまま倒れているしかありませんでした。眼には涙を浮かべています。

 CSまんとひひはその光景を見て、不敵な笑みを浮かべながら、間髪入れずに手を組んで頭の上に持っていき、その体からは考えられないほどのジャンプをして、体を一回転させて手を二人の上に振り落としました。

 二人はその痛さに悲鳴をあげ、二人とも血を吐き、失神してしまいました。

 CSまんとひひは二人の息の根を止めるためにじりじりと二人に近寄り、右手で狸をつかみ、左手で馬をつかみ、手に力を込め、どんどんと二人を締め上げていきます。

 二人はあまりの痛さに目を覚ましました。

 「ぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~」

 そしてどんどん締め上げられていく痛さに悲鳴をあげています。

 「これで万事休すだなあ。おまえたちもおれに殺されて黄泉の国へでも行ってしまえ」

 とCSまんとひひは言って、手にどんどんと力を込めていきます。

 その痛さに二人はどんどんと体中の感覚を奪われていき、目も開けていることができなくなってきました。まさに絶体絶命です。

 そこに一筋の黄色い光が降り注ぎました。その黄色い光はCSまんとひひの手を一瞬の内に解き、二人を助けました。黄色い光が解けると、その人物の体がどんなものかゆっくりと見えてきました。

 そいつは狸のような体をしていて、体全体の色が黄色く光っていてまぶしいくらいです。

 黄色い狸は大きなハンマーを両手で持つと、それを頭の上に持っていき、勢いよくジャンプすると、くるくると空中で縦回転しながら移動し、CSまんとひひのほうに向かっていき、CSまんとひひの頭上に到達すると、目にも止まらぬ速さで回転しながらハンマーを頭の上に振り落としました。

 その痛さにCSまんとひひは脳をやられてしまい、立ち上がることができなくなり、その場に仰向けに大の字になって倒れ、完全に伸びてしまいました。

 黄色い狸はそれを見ていい気味だと声を上げると、失神している狸と馬を腕に抱えてどこかへ走りさってしまいました。



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