ジャスコ対商店街 破

 負けを認めないジャス子は、商店ガイと直接力比べをすることにしました。祭り好きな商店ガイはこの決闘を承諾します。

 

 ジャス子と商店ガイ。


 二人には100年以上の時を経て蓄積された想念が魔力となり、さらなる奇跡の力が授けられています。それをぶつけ合い、どちらがこの街にふさわしい存在か決めようと言うのです。


「ふんっ!」


 ジャス子が手を一振り。すると、魔力が集まり一本のステッキが具現化されました。

 先端は四角く赤色で染まっており、白色で「JUSCO」と文字が書かれています。というか看板です。


「ジャスコで逢いまショータイム!」


 ジャスコのイベントに呼ばれるアイドルのように微妙にハミングしながらジャス子がステッキを振ります。すると、きらきらとジャス子の周りが煌めき出したではありませんか。まるで、夜になってライトアップされたジャスコの建物のようです。魔力の粒子が集まり、ジャス子はふわふわの赤色のドレスに包まれます。頭にはシルクハットが形成され、大きく「J」と書かれていました。


「夢ある未来を描くために! 暮らしのパートナー、ジャス子ただ今開店!」


 ポーズを決めて変身完了。そう、ジャス子は大型ショッピングセンター系の魔法少女でした。人の姿を成すようになったジャス子はジャスコ魔法の使い手となったのです。


「はあっ!」


 対する商店ガイも手を一振り。すると魔力が集まり一挺の弓が具現化されました。

 まるで凱旋門のように綺麗な半円を描いており、「駅前商店街」と文字が書かれています。というかアーチ看板です。


「レッッッツ、商店ガイーン!」


 商店ガイが口を大きく開け、腹の底から叫びます。すると、魔力が迸り商店ガイの体の周りが中華料理店の鍋のように燃え始めました。魔力が集中し、商店ガイの頭には兜、体には鎧が形成されます。まるで商店街の人形店で取り扱っている五月人形のようです。


「銀のアーケードにまごころ乗せて、回せガラガラ抽選機! 勇者商店ガイ、定刻より二分少々早めに開店!」


 勇ましいポーズを披露する少年。そう、商店ガイは商店街系の勇者でした。人の姿を成すようになった商店ガイは様々な商店街魔法の使い手となったのです。


 魔法少女と勇者となった二人が魔力を爆発させ、睨み合います。

 西部劇でタンブルウイードが転がるように、丸められたレシートが二人の間を通り抜けていきました。

 その直後、先に仕掛けたのはジャス子でした。


「我が豊富な在庫、あなたに捌き切れる? ジャスコの在庫スイングドアオブバックヤード!」


 ジャス子がステッキを振ると、スイングドアが生まれ、かぱっと内側へ開かれました。中から現れたのは大量の在庫を乗せた台車です。ジャスコ魔法によって召喚された、大型テレビや冷蔵庫を入れた段ボールが暴走トラックのように商店ガイに向けて駆けて行きます。


「どうよ?」


 白い歯を見せて、ジャス子はドヤ顔。

 しかし、商店ガイは怯みませんでした。


「商店街の守りを見せてやる! アーケードシールド!」


 商店ガイは蒲鉾のような形のアーケードの盾を魔力で作り出しました。雨の日も安心なアーケードは、ジャスコの在庫スイングドアオブバックヤードによって召喚された台車を悉く弾いていきます。


 身を守った商店ガイは反撃に出ます。


「今度はこっちの番だ! ガラガラ抽選機ボム!」


 商店ガイが商店街魔法を使うと、ガラガラ抽選機が現れました。商店ガイはそれをぐるぐる回します。すると、ぽんっと音を鳴らしながら赤色の玉が出ました。


「おめでとう、赤はワンカップ酒だ!」


 あら不思議。ガラガラの玉はワンカップ酒に変化し、ジャス子の口に注がれてしまいました。ガラガラ抽選機ボムは出た玉の色によって効果が変わる商店街魔法だったのです。


「あっ……お酒……うま……うひ、ひっ……」


 ごくごくとワンカップ酒を飲むジャス子。外見は少女ですが中身は100歳以上なのでこの光景自体に問題はありませんが、ジャス子は精神的な苦痛を味わいました。


「よ、よくも勤務中に……飲酒させたわね……」


 そう、ジャスコでは勤務中にお酒を飲むことは許されません。というか、たいていの企業で禁止されています。


「くっ、こうなったら……本気で行くわよ!」


 柳眉を逆立てたジャス子はぶつぶつと呪文を口にします。


「ジャスコは多くのお客様に支えられていることに感謝し、いかなるときも正直で誠実な行動を心掛けます」


「あれは、ジャスコ行動規範宣言!」


 それはある種の誓約。ジャス子はジャスコ行動規範宣言を口にし、遵守することでその力を高めることができるのです。ジャス子の体に魔力が迸ります。大型ショッピングセンターの意地が莫大なエネルギーを生み出し、日々の暮らしを豊かにしていくのです。


「かくなる上は、ジャス子に特効を持つあれを使うしかない!」


 商店ガイは弓の中に収められていたその武器を取り出し、勇者らしくその名を叫びます。


「ワクワク地域振興剣!」


 商店ガイは天高く、ワクワク地域振興剣を掲げます。金壱千円と銘が刻まれているワクワク地域振興剣とは、その名の通り商店街で利用できるワクワク地域振興券が剣の形となったものです。


「ジャス子、覚悟!」


 商店ガイが勢いよくワクワク地域振興剣を振り下ろします。


「ワクワク地域振興剣、V字回復斬り!」


 ワクワク地域振興券の登場により、売り上げがV字になったことに由来する商店ガイの必殺技が炸裂しました。


「ぐっ!」


 思いっきり斬りつけられ、ジャス子の整った顔は苦痛で歪みます。


「ワクワク地域振興券は、全国チェーンのジャスコでは使えない! だから、効果は抜群だ!」


 大ダメージを受けてしまったジャス子。しかし、その目はまだ戦意の炎を宿していました。


「ならば……こちらも同じ手を使うまで! ジャスコ商品剣!」


 ジャス子の手に金壱千円と書かれた剣が出現します。その名の通り、ジャスコグループで利用できるジャスコ商品券が剣となった武器です。


「ジャスコ商品剣、サービスカウンタースラッシュ!」


 ジャス子が反撃します。ジャスコ商品券がジャスコ店内のサービスカウンターで取り扱われていることに由来するカウンターの斬撃です。もちろん、商店街では使うことができないので、商店ガイには致命的なダメージを与えることができます。


「ぐあああっ!」


 強烈なサービスカウンターを受け、商店ガイもまた大ダメージを受けてしまいます。


「はあ、はあ……」

「くっ……」


 攻撃の応酬を受け、ジャス子のドレスはボロボロ。商店ガイの鎧もところどころ欠けてしまいました。


 肩を大きく上下させ、疲労困憊の両者。


「ジャス子おおおおおおおおおお!」

「商店ガイいいいいいいいいいい!」


 それでも諦めず――


 ワクワク地域振興剣とジャスコ商品剣による剣戟が始まりました。


「負けられない、皆に愛されたこの土地を守るためにも! 全国展開で侵略を始めたジャスコには負けられない!」

「私が手を出さなくとも、少子高齢化によりいずれ古きコミュニティは消え去る! 残された人々の暮らしを支えるためにも、ジャスコの力は必要なのよ。それをわかれ!」

「ぐっ……ジャス子……!」

「商店ガイ……! その口をシャッターのように閉ざしてやるわ!」

「させるものかああああああああああ!」


 残された力で商店ガイはワクワク地域振興剣をジャス子に振り下ろそうとします。対するジャス子もジャスコ商品剣でカウンターの構え。

 

 お互いの力を全て注ぎ――

 最後の一振りになる――


 そう思われたときでした。


 

 突如二人に向かって、赤いオープンスポーツカーが突っ込みました。



「な」

「なにいいいいい!」


 どんっという衝撃音とともに、強大な魔力を持ち通常の人間よりも強固な体のはずの二人は簡単に弾き飛ばされてしまいます。


「がはっ……。何が起きた……のかい……」


 ごろごろと地面を転がった商店ガイは、うつ伏せになったまま自分たちを轢いたオープンスポーツカーを見つめます。ジャス子も看板を杖にして……じゃなく、ステッキで体を支えて立ち上がりました。

 キキっとブレーキ音を出して止まる謎の赤い車。それは当然無人ではなく、一人の男が運転していました。陽気な外国人風の顔はまるで獅子のように精悍。頭には、ギザギザしたソンブレロのような帽子。まるでお城のようにも見えました。


「ハッハッハ」


 二人を弾き飛ばした運転手が笑い声を上げます。


「この瞬間を……待っていた。ジャス子と商店ガイが戦い合い、共倒れになるこの瞬間を!」


「誰だあああああああああああああああああああああああああああああ!」


 二人の決闘を邪魔した謎の闖入者に向かって、ジャス子は店内放送のように大音声で叫びました。

 

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