scene54*「おとなりさん」
引っ越してきた新しい家族。それは同級生でした。
【54:おとなりさん 】
「そうそう、隣に引っ越してきたおうちの男の子かっこよかったのよ~」
「へー。そうかいそうかい」
お母さんは嬉しそうに報告するも、私はソファに寝転がってクッキーをつまみながらいつも楽しみにしてる夕方のニュースを見た。
そう、お隣に家族が引っ越してきたのだ。この夏休みの終わりに。
既にお隣さんに挨拶をもらったお母さんいわく、新しいお隣さんはあたしと同い年くらいの子がいるらしい。
それを聞いて、2学期からの転入生で紹介されるのかー、めんどくさそー。なんて思ってた。
引越しの挨拶でいただいたお蕎麦が今夜の夕ご飯に決定済みで、お母さんが上機嫌で揚げている天ぷらの良い匂いがリビングダイニングに漂っている。
育ちざかりの私は本当はお肉が食べたいのだけれど、天ぷらがついてるのならざる蕎麦でもいいなと思いなおしながらお菓子をつまみ続けていた。
するとお母さんからトンデモ発言が飛び出した。
「でね、その男の子あんたと同じ高校に通ってるらしいわよー」
「はぁ??誰そいつ」
「あんたも知ってるんじゃないの?アラガキくんって子」
は???
アラガキって、あのアラガキ?
「え、そいつ私と同じ高校?」
間抜けな事に聞き返すとお母さんは「だから同じ高校って言ったじゃない」とあっけらかんと答えて、私の思考はある一人の男子だとはじき出す。
「あ、アラガキ――――!!!??マジ!?え、クラスメートなんだけど。超やだ!!」
「因みに部屋、塀を挟んであんたと隣みたいよー。2階だけど」
「はぁー!?マジやなんだけど!!!え、部屋かえる!!」
「なぁに馬鹿言ってんの。そんなのダメに決まってるでしょ」
「なんでアラガキ引っ越してくんの!?最悪!」
がばっと起きてケータイのメモリーでアラガキを捜しあてて通話ボタンを押す。
そんなの聞いてない。
アラガキとは2年間同じクラスで、しかもまぁよく話す奴で。
一緒に馬鹿やるから、なんかもうこれ以上筒抜けになるのは本気で嫌だった。
「あ、もしもーし」
呼び出し音がわずかに鳴ってから間の抜けたような声がでた。
そんな悠長なアラガキの声があまりにも暢気で早く現実を教えてやりたくなった。
「アラガキ!?あんた引っ越したって本当!?」
「何で知ってんの?俺言ってたっけ?」
「言ってないから!つか聞いてないから!うちの隣の家なんて!」
「え――――!!??マジで!!??」
アラガキは絶叫すると、親にすぐ事実を確認とってんのか、なんか一通りモメてる声がして 「マぁジで!!?」って一際大きい馬鹿っぽい声が聞こえた。
その後にアラガキは大爆笑しながら会話に戻ってきた。
「へーお隣さんがお前だったんだー」
「超やだ。。。」
「学校始まったら仲良く手ぇ繋いで登校しようぜー」
「マジやだし!!つかストーキングしないでよね。泣き寝入りなんてしないんだから」
「してねーし!!!人聞きわりーし!!!」
電話の向こうで、アラガキのお母さんが「エージ手伝って!」と言う声が聞こえた。
「……じゃー引越し作業頑張ってねー」
「じゃーなー。近々改めて挨拶いくわー。お父様にも」
「来なくていいっ!!!!」
「つーか宿題とかすげーラッキーだわ!もう既に夏休みの課題ピンチだから!」
「お前一人でやってろ!」
……なんだかこれからの高校生活、なんとなく一波乱ありそうな予感がする。
まずは変な噂をたてられないようにと、それだけを願うのみだった。
( 新学期の朝、家の前で既にスタンバってるとは思いもしないあたしなのであった )
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