scene53*「願い事」



桜の神様に願う、乙女の祈り。なんてね。



【53:願い事 】




春休みなのは嬉しいけれど、憂鬱なのはクラス替え。

このクラス替えで高校生活が決まると言ってもいい。と、お姉ちゃんは言っていた。

遠足と修学旅行の班。

後期の選択授業のクラス分けとか……すべて春のクラス替えがあってこそだ。


苦手なあの子が仕切るクラスになったらどうしよう。

友達みんなとクラス離れちゃったらどうしよう。


せっかくせっかく同じクラスだったのに、気になるあの人と離れちゃったらどうしよう……。

これが一番厄介だ。だって接点なくなっちゃうもん。


そんな思いが私を占めている。そしてその日は、もう明日なのだ。


「同じクラスになれたらいいなぁ~」

「アユミまたそれー??」

「だってぇ……」


電話で一番仲良しのシホリに話す。

ベッドに寝転んでストレッチしながらウダウダする女子の長電話。


シホリは羨ましい事に自分の部屋にテレビがあって、お笑い番組をつけてるのか笑い声が聞こえた。

私は襖隔てて隣の部屋がお姉ちゃんの部屋だし、そんなお姉ちゃんは今年から大学受験を控えるもんだから、うかつに音楽も大きい音でかけられない。

おかげで最近はすっかりヘッドフォンを愛用だ。


「ミヤジマくんと離れちゃうからやなんでしょー?」

「そりゃそうだよ。それで彼女ができちゃったらマジ泣く」

「告りゃいーじゃん」

「……できない。無理。マジ無理。やっぱりまだもちょっと友達でいたい」

「じゃ、ずーっとそう言ってりゃいーじゃん」

「それもやだぁ~!脈ないけど、でも仲良くしてたいもん……」


シホリは一番上のお姉ちゃんで下に妹が二人いる。

だから言う事は全部サバサバしてるし、うちに遊びにきたときも、私よりかお姉ちゃんとのほうが気が合うんじゃないかってくらい。

そんなもんで私とシホリは親友だけど「お姉ちゃんと妹」って周りによく言われる。


私は面倒見がいいシホリが大好きで、良い事も良くない事もいつも正直に言ってくれるから嬉しい。

そんなシホリはもう中学から付き合ってる彼氏がいて、おまけにその彼氏は兄弟ポジションで言うと弟ときたもんだからお似合いカップルだ。

私もそんなふうにラブラブになりたいなぁと思うけど……


「大丈夫だって!普通科3クラスしかないんだし、そんなに離れないと思うよー」

「あーもう明日学校行きたくないよぉ~」

「明日来なくてもクラス替えは今日には決定してるんだからしょうがないでしょ。あ、ゴメン。親が風呂入れって言ってるから入るわ。明日学校くるんだよ!」

「いくよぉー。また明日(泣)」

「また明日!(笑)」


途切れたケータイ。電池を見たら見事に減っていて慌てて充電する。

はぁ、と枕につっぷしてため息をつくと、襖からトントン、と音が聞こえた。


「なぁーにー。おねーちゃん」


襖があいたと思ったら、含み笑いをしたような悪趣味な笑顔が覗く。


「やぁーねー。アユちゃんってば恋しちゃって♪」

「うるさいなー。話すことないんだってば。」

「アユちゃんも大人になったねぇ~」

「うるさいってば!ガリ勉してなよ受験生」

「はいはい。ミヤジマ君と同じクラスになれるといーね。おやすみ~」

「おねーちゃんっ!!!」


これだから、ここの家狭くてやだ!

襖とかって丸聞こえだしさぁ……。だって団地だもん。

シホリは一軒家でいいなぁ。


寝っ転がりながら壁にかかってる制服と、その下においてある学校のバッグを見る。

うん。明日の用意は大丈夫。ぬかりはない。

ヘアアイロンもちゃんとある。

考えれば明日はバイトで貯めて買ったお財布デビューだわ。


目をとじて、掲示板に書いてあるクラス番号を見る自分をイメージする。


かみさま、かみさま。

もしいるんだったら意地悪しないでください。


シホリとも、できればミヤジマ君とも同じクラスがいいです。


そしてできればこの1年、ミヤジマ君に近づける年にしてください。


桜の神様、おねがいします。


神様っているかわかんないけど、でも頼まずにはいられない。学生生活の死活問題なんだ。


けれど、まどろんだ瞼の裏に思い描くのは顔の知らない神様じゃなくって、やっぱり大好きなミヤジマ君なのでした。




( あたしのサクラ、咲かせてください。 今年一番強く願う、神頼み。 )

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