scene24*「やくそく」

うそつき。カンタンに言うな。


私の気持ちは、封印されたままだ。



【24:やくそく 】




今度その音源持ってきてやるよ。


あー俺、そこ行きたいかも。いこーぜ。


マジでごめん!埋め合わせは、ぜってーするから。なっ!



今までそんな風に、いくつも些細な約束事を言い出しておいて、それを叶えてくれた事なんて一度だってない。


隣の席のカトウは本当に調子が良くて、そのくせモテる。

物腰がスマートなクラスメイトのキシタニくんやアマキくんを少しは見習えってくらいに、落ち着きもない。

隣の席のよしみで色々と関わってしまう事が多い中、一番の不覚は私がカトウを好きになってしまった事。

距離が近くて好きになってしまうなんて、思わなかった。


しかし、そんな私の心変わりを知らないカトウは至って気楽なもので、ふつーにAVの話をしてくるし、今日も女の子のスカートの中しか興味がなさそうだ。

……まぁ、それでも好きなんて、我ながら引くけど。


「なぁなぁ、突然なんだけどさー」


終業のチャイムが鳴ってすぐにカトウが話しかけてきた。

私はまた何の話だろうと思って「なに?」と返す。カトウはちょっとまわりを気にしてから、言った。


「今さ、メールやってる1個下の学年の子から告られちったんだけど」


頭が一瞬、ガツンと殴られたような気がした。

何を言ってるのかわからなかったけれど、その意味はすぐに頭で整理されたので、私は表情を崩さずに済んだ。

そして「それで?どうすんの。」と聞いてみたものの、答えを聞くのが本当は怖くてしょうがなかった。


お願い。付き合うなんて言わないでほしい。




カトウは「うーん」と、ちょっと困りながら腕組して首をかしげた。その仕草を見て、じれったくてため息をついてしまう。


……仮に、私がカトウに好きと言ったらどうなるんだろう。

ああ嫌だ。怖くて想像できない。

友達でいられなくなるのは嫌だ。

でも、友達で満足なわけじゃない。もっと知りたいって思ってる。


カトウを好きなくせに、理想の関係性に矛盾が生じているのはどうしてだろうと思う。


「カワイイしおっぱいはデッカイんだけどさ、ちょっと軽そうなんだよな」


カトウはすごく真面目に答えてるはずなのに、何だか相変わらずな視点にイラッとした。おっぱいかよ!


「巨乳で可愛くて、モテそうなら付き合ってもハラハラしそうだね」

「そうなんだよなぁ」

「カトウは胸以外の、その子のどこが良いの?すき?」

「えぇ~~っ。女って本当にそういうの好きだよなぁ。そんなのわっかんねーよ。いい子だとは思うけど」

「どんだけテキトーなの、あんた。ま、結局は相性だし、メールしてて楽しいんならいいんじゃないの?」


また心とは裏腹な事を言ってしまった。

内心後悔していると、カトウはちょっと考えてから「よっしゃ」と、意を決したように呟いた。その時に始業のチャイムが鳴った。私は慌てて次の教科書を引き出しからひっぱりだして、このおしゃべりは終わりになった。



授業中、ポケットのケータイが震えた。

先生に気づかれないようにチェックすると、カトウからだった。

席がこんなに近いのに今度は何だと思い、メールをボックスを開いた。


『話してて楽しいけど、彼女とか想像できないから断っちった。巨乳ちゃんに校舎でムシされちゃうのは悲しいケド。。。やっぱりお前は頼りになるな!彼女できたらお前に一番に報告するわ☆ありがと!』


なんとまーー……気持ちを知ってか知らずか、絶句。


だけど、泣きたくなるくらいに安心した自分がいた。胸をなでおろすとはこういう気持ちなんだろう。

それに、今まで約束守った事ない奴だからと「彼女できたら一番に報告してくれる」なんてこと、底意地の悪い私は叶わない事を願ってしまう。


『どーいたしまして。』とだけ送っては、見知らぬ女に持ってかれるよりは、ちょっとは素直になってちゃんとアピールしなきゃなと思ったのだった。


決意するように顔を上げる。窓の外にはいつもどおりの景色と空が広がっていた。




(  ぐっばい、ともだちかめん。  )

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