scene21*「夕暮れ 」

私と、シバサキの共通点はこれっぽっちも無いと思ってた。



【21:夕暮れ 】




5月をまたいでから、だいぶ陽は伸びたほうだと思う。

何とも言えない瑞々しいとも思える、この季節の香りがすごく好きだ。

そして、それを堪能したいが為にちょっと遅くまで学校に残っているのも好き。


美術室がある4階の校舎から見える夕暮れの空は、キラキラしているようでウットリしてしまう。

美術部員ではないけれど、美術部の友達のサキに付き合って、放課後は美術室に入り浸るようになった。


何をするでもなく、喋ったり、漫画読んだり、寝たりとかそんなんだけど、サキが絵を描いているときの鉛筆の音とかが心地よくて、何をしなくても充分に私は楽しい。



だけど今日はサキがいない。風邪でお休みらしい。

しょうがないからまっすぐ帰ろうと思ったけれど、今日の夕暮れは一段と綺麗で、やっぱり一目見て帰ろうかと思った。

4階につくと思ったとおりの綺麗な夕暮れ。

私は鞄からケータイをとりだして、小さなシャッター音でその世界を切り取った。サキに送ってやろうと思っていたら、誰かが階段をあがってくる足音がした。




「あれ?シムラさん?」

「え?」


先生かと思っていたら、同じクラスのシバサキだった。

シバサキはクラスでもあんまり目立つほうじゃないし、暗いってわけじゃないけど、そもそも男女のグループでつるんだりとかしないからシバサキと話したことって無いような、でもあったような……とりあえず私も話しかけてみる。


「シバサキはどうしたの?」

「いや~……恥ずかしいんだけどさぁ」

「なになにー?」


からかうようにして顔を覗き込むと、照れ笑いをされた。


「今日も、夕日が綺麗だなーって」

「……もしかして、それだけ?」

「……悪い?」

「イイエ」




男子らしくないまさかの答えに、何だかこっちまで照れてしまう。

それ以上言葉を続けるのが出来なくて、夕日を見ているとシバサキが言った。


「俺さ、科学研究部でこの1階下の教室からいつも夕日見てんの。だけど今日は何となく、いつもより高い場所で見てみたくなってさぁ。こういうの見ちゃうと、屋上も開放してないの、勿体ないよな。」


照れながらも嬉しそうにして、彼は夕日を見た。

その横顔を見ては昨日までのシバサキと自分を想像した。


4階の美術室の廊下窓から夕日を眺める私と、同じようにして、1階下の3階で夕日を眺めてるシバサキ。

シバサキとの関係なんて、強いて言うなら出席番号が近いぐらい。私と、シバサキの共通点はこれっぽっちも無いと思ってた。

だけど、そんな事は全く無かったんだ。

実は私たちって何か似たもの同士じゃん。


何も知らないシバサキをよそに、私は思わず笑いを抑える事が出来なかった。

クスクスと、嬉しい笑いが次から次へとこぼれていって、不思議な気持ちになる。

シバサキは「え?何?やっぱ引いた?」とか一人慌てて言ってたけれど、私は首を横に振って、とりあえずその事実はしばらく私だけの秘密にしておこう、なんて思った。




( シバサキの顔がほんのり染まるのは、夕日だけのせいじゃない。 )

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