Act4,VS夜腕編集部

 午後七時前、ボク達は編集長との約束を守るために編集部に戻ってきた。こんな時間に呼び出して一体何をするのだろう?そう疑問に思ってると編集長はこう言った。

「屋上いこっか。ここで話すよりそっち行った方が色々分かるし。」

 そう言われ、屋上に案内される。屋上は高いフェンスで囲まれてその向こうからたくさんのビルの窓からの明かりに照らされている。

「はい、皆さんは昼に自分の能力をしっかり知っておきたいとか守るために使いたいとか言いましたので、手っ取り早く実用的に使えるためにですね、俺達と実戦形式で戦ってもらいまーす。話聞くのもいいけどやっぱり動いて覚えるのもアリかなと。」

 単純だけどいい機会だと思う。というか編集長も能力者だったんだ。ネガシャドウや夜腕に詳しい人に見てもらえば何か分かるかもしれない。彰宏君も黎香ちゃんもやる気のようだ。

「やらせてください!よろしくお願いします!」

「そうこないとね!じゃあクロエ、模擬戦のルールよろしく。」

「了解。では説明するぞ。この赤い線が引いてある8m×8mの中で戦ってもらう。場外に出てしまったりこちらの判断でこれ以上戦闘が続けられないと思ったらそこで終了だ。実戦形式とは言えどケガの無いようにな。」

 シンプルで分かりやすい。夜腕同士で戦うのはネガシャドウと戦うのと勝手は違うけど面白そうだ。ボクと彰宏君と黎香ちゃんのキチジョージ組、編集長とクロエさん、そして陽介さんのドーゲンザカ組に分かれて団体戦をすることになった。大人相手なので身体能力や夜腕の知識ではこちらは不利だけどできるところまでやってやる。

「よし、トップバッターは俺が行くぜ!」

 彰宏君が先鋒に立候補した。一方ドーゲンザカ組は、

「じゃあ俺が行こうかな。玲二とやりたいとこだけど君のガンガン行く姿勢、嫌いじゃないからいい勝負できそうなんだよね。」

 陽介さんが先鋒として出てきた。初戦から気になる対戦カード、とても楽しみだ。二人が所定の位置に立つとクロエさんが試合開始の合図を出した。その合図と共に彰宏君は陽介さんに向かって真っすぐ突っ込んでいく。彰宏君の単純で荒っぽい性格がすごい出ているなと思った。それに対して陽介さんはニヤッと笑いながらクワガタの夜腕で彰宏君の狼の夜腕を軽々と受け止めた。

「結構パワーあるねぇ、けどそんな単純だとネガシャドウに避けられちまうぜ?」

 そう言って彰宏君を投げ飛ばした。

「ぐっ!ネガシャドウ倒すのにゆっくり考える時間があれば行動に移してるぜ!」

 すぐに立て直してもう一度立ち向かう。これを見ていた編集長は何かを分析したかのようにこう言った。

「狼の夜腕かぁ、爪の威力と切れ味そこそこいい感じなんだけどさぁ、動きが単純すぎてほとんど活かしきれてない。パワーとスピードの両立が結構大事だと思うんだよね。」

 初めて見た能力なのになんでここまで分析できるのだろうか、少し驚いたボクの顔を見てからか、横にいたクロエさんはこう言った。

「編集長は能力者やネガシャドウの戦闘スタイルなどを数秒あれば見極める事ができるんだ。長いことこの仕事をしてきたから勘が身に付いたのだろうか、詳しいことは分からないが、この話を聞いていれば何かしら役に立つだろう。」

 相手の力量を数秒で見極める…たぶんこの後黎香ちゃんはクロエさんと当たってボクは編集長と当たることになるだろう…勝てる気がしなくなってきた。その頃彰宏君と陽介さんの試合はどのようになってるかというと、彰宏君はだいぶ追い込まれてて、陽介さんも疲れを見せていた。

「彰宏って言ったっけ?結構力あるじゃんかよ…けど最初っから飛ばしすぎたんじゃないの?」

「そっちも相手を掴んで投げるだけなのにいろんなパターン出してきやがって…でも大体の動きは分かってきたぜ…。」

 彰宏君が力押しで勝つか、陽介さんがテクニックを駆使して勝つか…、次の行動で決着が着きそうだ。

(ズバァァァン!)

 アニメの戦闘のワンシーンみたいにすれ違い様に夜腕がぶつかり合った。そして数秒後、彰宏君が倒れてしまった。この勝負は陽介さんに軍配が上がった。

「彰宏君!大丈夫!?」

 心配になって黎香ちゃんと一緒に彰宏君のところに駆け寄った。

「へへ…やっぱあいつ強ぇわ、俺甘く見すぎてたぜ…。」

「そんなことないよ!彰宏君の戦いもかっこよかったよ!私すっごい応援してたもん!」

「そうだよ、陽介さん相手にここまで渡り合えるなんてすごいと思うよ!」

「お前ら…ありがとな。」

 二人で彰宏君をベンチまで介抱してそこに座らせた。するとそこに陽介さんが飲み物を持って来て、

「ナイスファイトだったな、疲れたろ?これ飲みな。強くなりたいなら俺で良かったらトレーニング付き合うぜ?」

「陽介さんだっけ?あざっす!俺、もっと強くなりたい!」

「結構前向きだな、そういうの嫌いじゃないぜ。…さて次は次鋒戦だな。誰が行くんだ?」

「じゃあ次は私だね!彰宏君の仇ちゃんと取るからね!」

 次は黎香ちゃんが出るようだ。やる気十分なのはいいけれど、対戦相手が違うから仇を討つのはちょっと違う気もする。一方、ドーゲンザカ組からはというと、

「私が相手だ。君はどれくらい戦えるか見物だな。」

 クロエさんが対戦相手のようだ。元軍人だったという彼女がどういった戦法を見せてくれるのか楽しみだ…というか何かのスイッチが入ったのだろうか、さっきと表情はあんまり変わってないはずなのに何か怖いというか目がマジに感じる。それに対し黎香ちゃんはというと…何も感じていないのかやる気MAX状態を維持しているように見える。クロエさんが実力を見せつけるのか、黎香ちゃんが奇跡を起こすのか、勝つのはどちらだろうか。

 クロエさんの代わりに編集長が開始の合図をして2回戦が始まった。バラの夜腕の黎香ちゃんに対してクロエさんは銀色のトランペットのような夜腕だ。どうやって使うのだろうか?先に動いたのは黎香ちゃんだ。花の部分から花粉をまき散らす攻撃だ。この花粉に触れると何かしら状態異常になるのだろう。それに対してクロエさんはトランペットから強力な音波を放ち、花粉を寄せ付けないようにしていた。これを見ていた編集長はこう解説した。

「こりゃ二人ともサポートタイプだな。二人に共通して言えるのは状態異常にさせるのが得意でね、クロエは音波で相手をスタンさせるのが得意なんだ、彼女が足止めした相手を俺が追い討ちをかけるってね。スタンだけでなくソナー(敵探知)としても使えるのよ。そんで黎香ちゃんだっけ?花粉にはネガシャドウに有効な麻痺毒と睡眠毒が含まれてるね。夜腕使いにも麻痺や能力低下として効くからね。さっきちょっと飛んできてピリッってきたから。それとあの腕、超伸びると思うんだ。相手を捕まえたり鞭みたいにベチーンってしばき倒しても行けると思うよ。」

 味方として心強い存在ともいえるし、敵に回すと厄介な存在ともいえる。そんな二人の戦況はどうなってるかというと、編集長の言った通り黎香ちゃんは腕を伸ばしてクロエさんを攻撃していて、クロエさんは軍人時代に身に付けたと思う身のこなしで軽々とかわしていく。まるでアクション映画を見てるようだ。そして至近距離まで近づいてポケットからリボルバー式の銃を黎香ちゃんの顔に向けた。

「安心しろ、空砲だ。君は自分の能力をまだ把握しきれていない。それではまともにネガシャドウは倒せないぞ。練習には協力できなくはないが最終的には自分で何とかしないといけない。これからどうするかは君次第だ。」

たくさんの場数を踏んできたであろうクロエさんの一言にものすごく説得力を感じた。この勝負はクロエさんが制した。

 彰宏君と黎香ちゃんが終わってボクの番がきた。相手は横でたくさんの解説をしてきた編集長だ。夜腕の豊富な知識を持っている彼は戦闘でも死角のない戦いをしてくるに違いない。それに比べて素人なボク…勝てる気がしなくなった。

「緊張しなくていいんだよ?思う存分かかっておいで?」

「あ、はい、よ、よろしくお願いします。」

構えると同時に編集長の左腕が巻物と筆のような腕に変化した。これでどうやって戦うのか全然予測がつかない。

「どうしたの?何か技出してごらん?そしたら俺の能力見せてあげるよ。」

余計やりづらい。けれど何か行動しないと何も始まらない。試しに夜腕を帯電させて編集長に殴りかかってみた。すると編集長は夜腕の巻物の部分を広げボクの攻撃を受け止めた。これが編集長の能力だろうか?いや、この行動の先に何かあるに違いない。

「じゃ、能力見せるよ~。」

来る!一体何をしてくるのだろうか?すると編集長はボクと同じように殴りかかってきた。しかも同じように帯電している!?ということは編集長の能力は『相手の技をコピーできる』ということか!たとえどんなに技のバリエーションをたくさん揃えても彼の前では無意味に近いということ…でもこの能力には何か弱点があるはずだ。ボクは手当たり次第に攻撃をする、しかし編集長は攻撃を受けてはコピーした技を繰り出してくる。

「玲二君このまま戦っても勝ち目がないよぉ。」

「いや、ヤツのことだ、俺らよりは頭回る方だ、何かしら考えがあるだろ。」

彰宏君の言う通り、分かったかもしれない。やってみよう!まずこれまで通り編集長に攻撃をコピーさせる。ここまでは同じ後はタイミングだ。編集長が攻撃を仕掛けてきた。今だ!タイミングを見計らって編集長の鳩尾みぞおちにクロスカウンターを一発お見舞いした。

「やった!彰宏君!攻撃当たったよ!」

「見りゃ分かるぜ。ナイスだ玲二!」

予想は的中した。編集長は攻撃するには一回一回コピーする必要がある。だから技を出すタイミングに合わせてカウンターを放てば攻撃を当てられる!攻撃をくらった編集長は当たり所が悪かったのかものすごく怯んでる。

「…いったぁ…やるねぇ、俺の能力の弱点見抜いたの…君が初めてなんだよね。複数相手なら行動パターン読まれにくいけどタイマンはちょっとなぁ…くっそぉ~参ったなぁ、この勝負降りるわ。」

「…てことは…」

「そう、君の勝ちだ。」

…こんなかたちでだけどボクは勝つことができた。

「やったな玲二!」

「編集長に勝つなんてすごいよ!」

「あ、ありがとう。」

ちょっと納得いかない感じではあったけど、この勝利で少しだけ自信が付いた。紹介してくれた陽介さん、編集部の二人に感謝しないといけない。

「皆さん、ありがとうございました!」

(二人)「ありがとうございました!」

「いい経験になったな。私も君達と演習できて有意義な時間を過ごせた。礼を言いたいのはこちらだ。」

「俺も玲二以外の夜腕使いに会えて良かったよ。彰宏とはまた戦ってみたいしな。」

「俺も。その上で君たちの実力を見込んで頼みたいことがある。俺たちはネガシャドウや夜腕のことを調べながらネガシャドウ退治をしてるんだ。君たちの成長もそうだし、倒すことでみんなを守ることができる。どう?悪い話じゃないと思うよ?」

編集長からのお誘い、どうするべきか三人で相談して数分後、ボクは編集長にこう答えた。

「やらせてください!」

「ありがとう。これからいっしょにがんばろう!…もう10時前か…俺が家まで送ってあげるよ。」

貴重な経験もできて本格的に人の役に立てる日が来る…ボク達のヒーロー活動はここから本番になるかもしれない。

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