3話 『MB保護隊』

翌日の放課後。

  エーベルトは、ヴェローザに呼ばれて職員室へ来ていた。ヴェローザは書類を見ていて話さないため、エーベルトから話しかけた。



「あの、何の用でしょう?」


「何の用? 昨日の件についてに決まっているだろう?」


「昨日の件、ですか⋯⋯」


  昨日エーベルトはヴェローザに職員室へ呼ばれマギアビーストの説明を受けた。しかし、ヴェローザの説明は耳を疑うものばかりだったのだ。


「あの⋯⋯ほ、本当に、キ、キスするんですか?」


  あんな被害者を出している怪物にキスなんて出来るはずない。もしできるとしたら、それもまた怪物である必要があるだろう。

  エーベルトがそういうと、ヴェローザは書類を雑に投げ捨て、睨んでくる。


「だから言っているだろう? 怖いのか?」


「怖いってわけじゃないですけど⋯⋯」


「じゃあしろ。お前にしかできないんだ」


「俺にしかできない?」


  一体どういうことだろう。確かにキスをするだけなら他に出来るやつはいる。しかし、今のヴェローザの口調からはエーベルトだけしかキスできないと言っているようだった。


「どういうことですか?」


「これを見てみろ」


  そう言って差し出されたのは左上をクリップで止められた書類。ヴェローザが見ていたものだった。そこには様々な文章、グラフが書かれており、大きく「エーベルト・カールマー」と書かれていた。


「これは⋯⋯?」


「それはマギアビーストの研究結果の書類だ。そのグラフを見てわかる通り、お前がマギアビーストとキスして魔力封印をできる可能性が高い。つまりお前は適正値が高いんだ。――そう、クラスの誰よりもな」


「クラスの誰よりも⋯⋯」


  エーベルトはただ頼まれただけだと思っていた。こんな面倒なことやりたくないと思っていた。しかし、適正値が高い、エーベルトにしかできない。そう言われてエーベルトはやらなきゃいけないという気持ちが芽生えた。


「⋯⋯先生。俺、やります」


  エーベルトがそういうと、ヴェローザはタバコをふかしたあと、ニッと笑った。


「ほう。やる気になったかエーベルト」


「はい。俺にしかできないことは俺がやらなければならない」


  マギアビーストを止められるのはエーベルトしかいないのだ。


「フフッ。いいだろう。今日からお前をMB《マギアビースト》保護隊に本採用する」


「MB保護隊?」


  聞いたことのない名前だ。

 エーベルトは恐る恐る聞いた。


「MB保護隊だ。その名の通りマギアビーストを保護する。最初は討伐隊だったんだがな、研究によりキスで魔力封印ができると知って、それに加え相手は魔力を封じれば普通の女の子だと知り、保護隊になった」


「そうなんですね。その保護が僕の役目と、そういうわけですね?」


  「ああそうだ。お前には武力を封じて、話しかけてもらう」


「話しかける? マギアビーストにですか? そもそも言葉って通じるんですか?」


「心配するな。言葉は通じる。お前には話しかけて説得してキスしてもらう」


「説得してキスですか⋯⋯」


  なかなか難しそうだ。あまり会話が得意ではないエーベルトにとってはかなりの難題となった。


「安心しろ。魔法マギアを使ってお前の脳内に直接アドバイスを送る。それで大丈夫だろう?」


「そんなことが出来るんですか! ヴェローザ先生って結構な腕前?」


  エーベルトがそういうと、ヴェローザはエーベルトにデコピンした。


「痛っ⋯⋯。何するんですか」


「お前が私を甘く見ていたからだ。そんなことよりお前を連れていきたい場所がある。ついてこい」


  そう言ってヴェローザは颯爽と職員室を去っていった。そのあとを追いかけるようにしてエーベルトも職員室をあとにする。





「ここだ」


  職員室を出てから5分後。エーベルトとヴェローザは学校の地下室みたいな場所へ来ていた。その地下室には大きいモニターが設置してあり、長机も何個も置いてある。


「⋯⋯ここは一体?」


「驚いたか? ここはMB対策本部だ」


「MB対策本部? なんですかそれ?」


  聞いたことのない名に驚くエーベルト。それに説明するようにヴェローザは続けた。


「その名の通り、マギアビーストが出現した時にここに保護隊が緊急招集され、対策する。分かったか?」


「⋯⋯は、はい。なんとなく」


  ヴェローザの説明はとても大ざっぱで分かりにくい。

 と、エーベルトは聞きたいことがあるので、ヴェローザに聞いた。


「じゃあ次にマギアビーストが現れたときに、俺はここに招集されるんですか?」


「ああ、される。本当なら地下シェルターに逃げさせるが、保護隊のお前はここへ来させる。そして様子を見ながらお前をマギアビーストの所へ向かわせ、キスをさせる。そういう感じの流れだ」


「なるほど⋯⋯」


  エーベルトの顔に緊張の色が走る。それも当然である。最近、マギアビーストの出現頻度が高く、もしかしたら今にでもマギアビーストが現れるかもしれないのだ。


「今日の説明はこのくらいだ。戻っていいぞエーベルト」


  「わ、分かりました。ありがとうございました」


「あっ、ちょっと待て」


  エーベルトは礼をして、地下室を出ようとしたとき、ヴェローザに呼び止められた。


「ん? なんですか?」


「引き受けてくれてありがとな。お前しかいなかったから助かった」


  そう言うヴェローザにエーベルトは笑顔で返した。


「いいんですよ。俺にしかできないことなんですから。それは俺が引き受けたいです」


  最後にそう言い残し、エーベルトは地下室を去った。

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デッド・オア・キス 夕凪渚 @nagisa0206

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