悪夢

 ふいに背中に何かが押し付けられて目が覚めた。

「怖い夢でも見た。」

 そう聞くと彼女は頷いて長く息を吐いた。

 ね、手繋いでいい?と囁く彼女に無言で右手を差し出す。指を絡ませると、安心したように寝息を立て始めた。

 ときどき、誰かに追いかけられる夢をみるの。まだ付き合う前にそう聞いた。

 そっと寝返りを打って、彼女の穏やかな寝顔を見つめる。もう紛れもない恋人である。だというのに、何故自分は彼女を追いかけ続けるのだろうか。彼が最も恐れているのは、夢の中の彼女がいつか、振り返ってしまうことだ。

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