習作・手向け
@yuehite333
第1話
雑然とした路地裏で、いくばくかの感傷を胸に足元の死体を見る。
年の頃は二十歳前後だろうか、学生らしい女だ。濡羽色の長い髪と赤みを帯びた柔らかな肌に私は魅せられたのだ。
学生が身に着けるには少々奢侈な装いとたどたどしい化粧が、今日が彼女にとってハレの日であったことを思わせる。
この女の身元も知らなければ、人となりも知らない。だが、彼女にも未来があっただろう事は理解している。
いつものことながら、申し訳ないとも思う。しかし、だからと言って獲物を捕らねば飢えて死ぬ。忌まわしい命だからと言って死ぬのは避けたい、この期に及んで死ぬのは怖い。
私の親と言える者は、我々を人より高貴な存在と言った。だが、私はそうは思わない。結局のところ、我々は別の命を糧にして命をつなぐ浅ましい存在、少しばかり狡猾で強靭な肉食動物に過ぎないだろう。
路地の上、狭い空に浮かぶ月は細く鋭い。月には繊月という状態があるらしいが、語感からしてこれがそうだと、勝手に思う。
かさり
打ちっぱなしのコンクリートに積もった塵を踏む音が、後ろから聞こえた。
数年ぶりに嫌な予感というものを感じ、即座に振り向く。
音の主は死神だった。
いや、臭いも気配も、間違いなく人間のそれだということはすぐに分かった。分かったのだが、彼はあまりにも現実から離れすぎている。高山帽にYシャツにセイラーパンツ、この平成の世に時代錯誤も甚だしい、モダンボーイの出で立ちである。ここまでの事実を認識するまでに、私は実に百粍秒程の時間を要しただろう。その手に携えた脇差程度の小刀が、あまりに非現実的な輝きを見せたからだ。
「お迎えが来たのか」
声に出す気はなかったが、震えた情けない声が、思わずこぼれる。
声に出そうと思っていないので、当然ながら答えなど期待すべくもない。しかし、彼は流麗な刀術で肯定して見せた。
瞬き一つする前に私の頸を切って捨てたのだ。
上ずってゆく視界、美しい月が消えていった。
習作・手向け @yuehite333
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