第7話

 目が覚めると、そこはベッドの上でした。私は自分が助かったことを知ると、つい涙腺がゆるんで涙がでてしまいました。しばらく泣き続けた後、まずここがどこなのかという疑問を持ちました。おそらく、こんな豪華なベッドがあるということは貴族の家であり、貴族の知り合いはランジさんしかいないので彼の家だということが推測できました。私はベッドからゆっくりと体を起こします。と同時に、五体満足であることを知り、その幸運ぶりに感謝しました。ああ、世界はなんと優しく美しいのかとすら思いました。ベッドの周りを歩き回ってみます。少し動きにくいですが、別段問題はないようです。しかし、何度か床に蹴躓けつまづいてしまいました。さらには、ベッドがそこにあるのにも関わらず、何度かベッドにぶつかってしまいます。どうも物との遠近感覚が掴みづらく、そこにあるのにもう少し遠くにあるように感じたり、近くにあるように感じます。その時、ドアが開いてランジさんと診察器具を持った医者と思わしき男性が入ってきます。

ラ「大丈夫なのか!?」

医「エコリエさん、とにかくベッドに腰掛けて、安静にしてください。」

私が立ち歩いているのをみて驚き慌てふためいたランジさんに対して、医者は冷静でした。

 

 私がベッドに腰掛けると、医者は私が倒れていたのを発見した経緯を話し始めました。何でも、私が倒れているのを発見した住人が警邏に報告したところ、警邏は私がランジ三の家に何度か出入りしているのをみたことがあったらしく、ランジさんに伝えたので私は保護されたようです。一通り話し終えた後、医者は私に倒れる直前になにがあったか覚えていないか聞いてきました。当然ながら、あの少年、魔王に遭遇したことは覚えているのでそのことを伝えます。

ラ「魔王にか...。それならば君が負けたのも分かる。だが、不意打ちで負けたんだろう?」

私「はい。特に害意は見えなかったので自然体でいたので...」

ラ「それなら構わない。君は負けたかもしれないが、勝負にはいないんだからな!」

医「ランジ様、どうかお静かに。彼女は怪我人なんですから。それで、エコリエさんは魔王に何をされたんだい?」

私「まず、何らかの形で攻撃を受けました。気が付くと地面に倒れていて、そこから徐々に意識が遠のいていったんですが、彼は自分が魔王であることを名乗って、私のスキルを貰っていく...と言っていました。」

医「なるほど、それで、どんなスキルなんだい?」

私「その質問にはお答え出来かねます。」

医者は残念そうな顔をして、追及するのを諦めました。私は表面には出さないように心の中だけで安堵の息を漏らします。もし能力を詳細に教えなければ療養は手助けできないと言われたらどうするか考えていたので。


 その後、医者は出ていきましたが、出ていく際に私が能力を失った影響で日常生活に支障が出るかもしれないこと、それまでは安静にこの家の中で過ごすように、と言っていました。確かに、今の私は何故か物との距離が分かりにくくなっているので安静にしていないといけません。残ったランジさんは、懐から能力鑑定用の銅板を出しました。これは、上に手を当てると能力が表示されるというものです。手を当ててから判定結果が出るまでしばらく時間がかかるのでその間に外を眺めます。今日は素晴らしい晴れですが、倒れる前と比べてどこか無機質に感じます。ですが、空が素晴らしいと思ったのは7年ぶりです。そんなことを考えている間に鑑定結果が出ました。


トゥジョワール・エコリエ

・能力…なし

・稀少能力…認識補助 あらゆるものを感知する能力を若干向上させる。 

      色彩反転 指定した座標の半径10cm以内の色を反転した状態で認識で

      きる


...。なんでしょう、このうっすらと見える2つのG1の文字は。何度目をこすってみても、G1の文字はそのままです。まあ、魔王に奪われたのに残っているだけ幸運ということでしょう。それに、存在決定の下位互換と思われる認識補助の他に色彩反転が増えていますね。まさかこのような形で残りの二つのうち、一つが覚醒するとは思ってもみませんでしたが、今はこの少しの幸せに感謝すべきなのでしょう。泣いてなんていませんよ、ええ、本当に。何故目から液体があふれ出ているかは知りませんが、泣いてなどいないんです...。その後、私はしばらくまともな思考ができませんでした。


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主人公はG5がなくなった影響で、若干感情が豊かになりました。

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