第2話

 さて、私たち一家は数ヶ月に一度首都まで出てきます。もちろん、作物や製品を売るためです。年中無休の関所(まあ、関所が休んでいたら通れませんから)を通り、首都へと向かいます。途中に大きめの街がいくつかあり、その後に首都にたどり着くことができます。途中の街々ではなにも売らず、首都へと直行するのを疑問に思った方もいるでしょう。何故普通の街は無視されるのかというと、首都に我が家がセ・ブレ王国の貴族だった頃の知り合いの貴族がきょを構えており、親切心で我が家の作物を定期的に買い取ってくれることになっているからです。相場の二倍ほどの値段で買い取ってくれるので、わざわざ近くの街に寄る必要性は皆無なわけです。首都の巨大な石造りの門をくぐり抜けると、街中は何故かお祭り騒ぎとなっていました。何とか人混みをくぐり抜け、例の貴族の屋敷につくと、珍しく当主が直々に出てきました。うちの父がこんなに騒がしい理由を尋ねます。

父「ランジ、いったいこの騒ぎは何なんだ?」

ラ「知らないのか?アシェテール。昨日、とうとう魔王を討伐するために異世界から勇者を喚んだんだ。これでもう国が滅ぶことはないと、平民たちは大騒ぎだ。もちろん、貴族の俺も参加するがなぁ!ハッハッハ!」

父「相変わらず元気がいいなぁ。お前は。」

ラ「当然だろう?何せ、死ぬ確率が大きく下がったんだぞ?」

うちの父とこのランジさんは、貴族と元貴族の割に口調が緩いです。私はその会話を聞き流しながら、作物を邸宅の中へと運び込みます。あちらの下男の方にも手伝っていただいたおかげで、案外早く終わりました。暇になったので、勇者でも眺めてこようと父に許可を取りに行きます。

私「お父様、勇者を見物してきても宜しいですか?」

父「ああ、いいぞ。行ってこい。気をつけてな。日が暮れるまでには帰ってこいよ。」

私「分かりました。」

ラ「トゥジョワールちゃんはいつも丁寧だなぁ、俺の娘にも見習わせたいよ」

私「お嬢様はどっしりと構えていればいいんです。私のように敬語を使う必要は全くありません。」

ええ、本当にどっしりと構えていてもらいたいものです。私に付きまとうのはいい加減にしていただきたい。彼女に見つかる前に、私はこっそりと人混みに溶け込んでいきました。


 勇者一行と思わしき一行を発見したので、遠くから観察します。ふむ、なかなかに良い面構えですね。剣士らしき人物、大槌を構えた人物に、国の姫らしき魔法使い、彼らを囲うようにして立つ、熟練と思わしき騎士たち。これならいけるでしょう。くれぐれも、魔王討伐失敗とかやめてほしいものです。あ、魔女がこっちをいぶかしげに見ています。気づかれるのが早いですな。退散しようと思いましたが、人混みに邪魔されて退散できません。そうこうしているうちに、魔法使いは私の存在を勇者だと思わしき剣士に伝え、此方に近づいてきました。

勇「そこの美しいお嬢さん!ちょっと待ってくれ!」

あなたに言われるほど幼くはないです。どうみても彼は18歳程度にしか見えないじゃありませんか。(錯乱中)魔術師が口を開きます。

魔「この子には、あり得ないほどの力があるのを感じる。今すぐこのパーティーに加えましょう。」

勇「だそうだから、どうか僕たちと一緒に来てくれないか?」

私「間に合ってます。」

そう言うと、私はすぐに稀少能力を発動し、このを無かったことにします。私はその場から人混みを掻き分けて走り去り、後には何があったかを忘れて、不思議そうな顔をした勇者一行と周囲の観客だけが残りました。


 危なかったです。この能力は、本気を出せば勇者を元の通り行軍している状態にすることもできるのですが、面倒だったので記憶から存在を消去するに留めました。周囲の人たちは一瞬気を失った状態になるので、そのうちに駆け抜けたわけです。しかし、勇者一行から離れたのは良いものの、ランジさんの家に戻れば彼のお嬢さんにまたつきまとわれることは目に見えています。仕方がないので、勇者一行と遭遇しないように屋台でも回りましょう。幸い、勇者一行は目立ちますから近づかれたらすぐに気がつくでしょう。私はとりあえず近くにあった穀物を焼いたものを売っている店に行きました。セ・ブレ王国にはなかった文化ですので、私はこの名前を知りませんが、どうやら「ブレ」という名前のようです。店主に30フレイを渡し、ブレを一つ受け取りました。ただの穀物の割になかなかに香ばしくて良いと思います。それ以上は何の感想も出てきませんが。


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※主人公が勇者側につく予定はありません。

 

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