第2話

「んんっ~!!」


 下唇を噛みしめ、鼻から甘い息を吐き出した。

 まさぐるように、激しく腰を動かし始めた女にあわせ、下ながら俺も腰を動かす。


「うぅん……あぁ……」


 桃色の息を吐き散らすと、女の腰の動きは更に激しさを増し、やがて反り返りながら絶頂を迎えた。


「ぐっ!! あぁ!! ……あぁ!! ……あは、はぁ……はぁ……」


 絶頂の余波に小刻みに体をヒクつかせ、女は繋がったまま倒れ込んでくる。


「ヤッパリ、アタシの勘は正しかったねぇ。

 良いもの持ってるじゃないのさアンタ」

「…………」


 女は上半身を起こすと、妖艷な笑みを浮かべ胸板をなぞり始めた。


 まさか……まだ足りねってのか!?

 ……おいおい、呆れるな。


「もっと楽しみたかったんだけどさ、どうやらアタシは限界のようでねぇ……」

『好きにしろよ。俺はアンタの奴隷なんだ』

「ふふっ。何言ってるのかサッパリさね。

 まあ、アタシはこのまま眠らせて貰うとするよ。お休み、九六〇」

『ああ、了解した。もっと、アンタを満足させればいいんだよな?』


 胸元に顔を埋める女。


『だが、悪いな。直ぐに終わらせるぞ。二日ぶりに寝れるんだ。俺はもう休みたい』


 さあ!! 始めようぜ!! さあっ!!


 …………。

 ……。


『ん?』


 目の前に見える、渦巻いた角を掴み持ち上げ女の顔を伺う。


『……俺も寝るか』


 上に乗られたままでは寝れる訳がなく、ゆっくりと剥がし横へ転がした。


『重てぇな……一体何を食ったら、こんなにデカくなるんだ!?』


 仰向きになったことで、だらしなく弾ける二つの褐色プリン。

 人は人でも、魔やら獣の文字が頭に付く人間は、やはりノーマルに比べデカい気がする。

 当然、逆もあるわけで、妖精属の亜が付く者達なんかは……


『ふぁああ』


 貴重な睡眠時間を、無駄に思考で費やしては勿体ない。

 どのくらい寝れるかは、見張り番次第で変わるからな。

 確か今回、見張りをしているのは……


『ああ、アイツか……』


 間違いなく……叩き起こされる……だろうな。

 なら……少しでも……寝な……け……なら……


■□■□■□■


「お客様がお見えだ!! 全員立て!! そうだ!! 早く顔をお見せしろ!!」


 動物は学習する生き物でね、何十回、何百回と繰り返しさせられることは、言葉が分からなくても覚えるもんだ。


 音や空気。特に、痛みを伴うなら尚更だ。


『客か……』


 立ち上がり、鉄格子の扉の前に並んで、商人と客が通りすぎるのを待つ。


「ここからは、ダンジョン経験がある物達が並んでまして、特に……少々お待ちを」

「ん?」

「おい!! 九六〇号!! お前は並ばなくていい!! 端まで行って座って待っていろ!!」

「ふ~ん、あの坊やは売り物じゃないのかい?」

「ええ、大変申し訳ございません。

 我々の手違いで、どうやら不良品の置き場所を間違えてしまったようで……

 おい!! 貴様は座れ!! さっさと座らぬか!!」


『……汚い』

「な!? 貴様!! 何だその顔は!!」


 不快だ。

 顔も洗えないのに、唾を飛ばされてはたまったもんじゃない。

 

「何だい、今のは?」

「ああ!? あ、ああ、申し訳ございません!!

 どうやら、こいつは言葉を理解出来てないようでして……」

「言葉を理解出来てない?」

「ええ、喋りはするものの、あれは大陸で使われてる言語ではありません。

 また、耳も聞こえているのですが、全く言うことを聞かず……」

「ふ~ん……見た感じはノーマルみたいだけどねぇ」

『……何だよアンタ』


 虫酸が走るんだよ。

 ちっ!! どいつもこいつも、品を定めるように見やがって。

 自分の立場は分かっているが、あの目だけは一向に慣れる気がしない。


「本当、さっぱりさねぇ」

「ええ──」

「幾らだい?」

「……は?」

「坊やの値段さ」

「ま、まさか買われるのですか!?

 先ほど私は、こいつは不良品だと申したはずですが──」

失われし島ロストアイランド

「うっ!?」

「ふふっ、どうやら当たりさね。

 ノーマルで黒髪、黒目の種がいるなんて話、噂でしか聞いたことがなかったけどねぇ」


 だから、その目は止めろってんだろ!!


『ちっ!! 一体、何の話をしてんだよ!!』

「うんうん、元気そうねぇ。健康には問題無しと」

「……」

「で? 幾らだい?」

「……本当に買われるのですか?」

「ダンジョン経験者なんだよねぇ、坊やは?」

「え、ええ……」

「まさか、戦えないってのかい?」

「お、恐らく少しは戦えるとは思いますが、何せ、買われていくお客様は皆、ポーター運び人としてこいつを購入されていましたので何とも……」

「ん? 皆? アンタ今、皆って言ったかい?」

「……」

「ふ~ん、何だか危険な香りがするねぇ」

「では──」

「買った。皆が選ぶほどの坊やのポーター運び人としての能力、ぜひ見てみたいもんさねぇ」

 

 ……いい加減にしろよ!! 虫酸が走るって──ああ、この目だ。俺はこの目を知っている。


 この女……俺を買う気だ。


「但しねぇ、アンタ、隠してる事まだあるだろ?」

「そ、それは……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る