レイヴァン・クロウ

お父さんはエセ作家

プロローグ

第1話

 そうだな……例えるなら、恐らくこれは水中を漂ってるのに近いのかもしれない。


 だが、目を開けることも叶わず、手足はおろか、指一本さえ動かすことが出来ない以上、この例えが正しいのかなんて分かりゃしないがな……


 ただ、閉じた瞼の裏には、たぶん自分の記憶であったであろう映像が映し出され、俺はそれをずっと眺めている。


 いや……眺めているんじゃないな。


 それしか出来ない以上、押し付けられていると言った方が正しいのかもしれない。


 映像が消えると最初の場面に戻り、変えることの出来ない同じ映像を、俺は、何度も何度も繰り返し見続けているんだ。


 だから、これから映し出される結末は、既に知っている。


 思い出せない誰かが、俺を抱き抱え、泣きながら何かを必死に叫んでいるんだ。


 ただ、他の場面では無いのに、何故か、この時だけ訪れる感覚がある。


 心臓を掴まれ、握り潰されていくような嫌な感覚だ。


 ……ああ、恐らく俺は死んでいるんだろうな……


 やがて、映像が真っ暗になり、記憶が終わたことを告げている。


 だが、映像は終わらない。また始まるんだ。そうだろ?


 ……まあ、いいさ。もう俺には、映像を見ることしか出来ないんだから……


 ………………。

 …………。

 ……。


 ……真っ暗だ……どうした? 映像はどこにいった?


「!?」


 首が動いたのか!? い、いや待て!!

 今、漏れたのは俺の声か!?

 ……ま、まさか!?


「な!? ……な、何なんだよこいつ!?」


 目を閉じ、膝を抱えながら漂う何かが、俺の目の前にいる。


 人間の女性にも見えなくもないが、


「何で裸なんだよ!? ……それに、人間って尻尾って生えてたか!?」


 それも一人じゃない。


「何処なんだ此処は!?」


 万はいるんじゃなかろうか、辺り一面に存在する人と人擬きの姿。


 前後左右と目を走らせ、上を向き、下を見た所で、


「あっ!? ……って、なんだ俺も裸かよ」


 恥ずかしい気持ちになった次の瞬間、上から現れた巨大な手に握り潰され、俺の視界は真っ白に変わった。

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