第2話 宴の始まり?

「何かさ、まぁわかるよ? 社会人になってある程度の立場とか世間体とかを意識するようになった先輩と後輩の、ちょっと距離感のある恋愛でしょ。それに先輩には彼氏がいるっていう。まぁ、百合系の後輩とノンケ?な先輩、いいじゃん。ほかのところだってやっぱりそういう風に進むもんね。でもさぁ……」


 つかの間の休息を求める『物語』たちの住まう住平すみひら町――旧名墨片すみひら町の片隅にある、小さなカフェ。

 カウンター席とテーブル席に分かれていて、何組か設置してあるテーブル席はそれぞれ壁によって区切られており、半分個室のような状態になっている。

 その中のひとつ。

 窓から差し込む柔らかい陽光を存分に浴びられるそのテーブル席では、ひとりの女がまるで酒を飲んだかのように管を巻いていた。そんな彼女を宥めるように向かい側の席で相槌を打つ青年も、ふたり。


「もうちょっと展開明るくなってもよくない? 疑心暗鬼になるよ、下手すると! 心病むよあんなん~、ねー『夜空』はどうよ、そういうの!?」

「とりあえず落ち着けって、姐さん……。確かに今はかなり暗い展開になってるから姐さんもちょっと荒れるだろうけどさ、もしかしたら案外スッキリした終わりに、」

「ん」


 必死に女――『徒花』をなだめるバンドマン風の青年『夜空』に、無言で紙が突き出される。困りきった顔で「あ、何だこれ? えっとぉ……?」と折り畳まれているその紙を開いて中身を見始めた彼は、更に困った顔になって「あー」と呟いた。


「え、どうしたの『夜空』、何が書いてあるの?」

「いやぁ、『気まぐれ』の旦那に見せていいものかわかんねぇけど……」

「いいよ見せて。『気まぐれ』くんアレでしょ? 一応あたしのヒロインたち登場してんだから平気だって」

「いや、そういうもん? あっ……」


 カジュアルな服装で、比較的引いた場所から『徒花』を宥めていた青年『気まぐれ』が、『夜空』の手から紙を取り、中身を見る。瞬間、その顔が少しだけ強張こわばる。その次に苦笑交じりで、「えっと……」と言葉を切り出す。

 その視線は、気遣わしげに『徒花』に向かっている。

 テーブルに突っ伏したまま、「なに」と睨むように見つめ返して来る『徒花』の視線に多少ひるみながらも、「大変だね」と返す。

 『徒花』が『気まぐれ』の手から引っ手繰たくって胸ポケットにしまった紙の正体は、彼女の――物語である『徒花』の、この先の展開をある程度考えたメモ書き。


 そのメモ書き――いわゆるによれば、今後しばらくの間、『徒花』の展開が明るくなる気配は……どうやらなさそうとのことだった。


「逆にここからどうやって明るく持ってくのかわかんないんだけど……」

「うーん……、まぁ僕の中に登場したときにも、けっこう周りを惑わす人みたいな書かれ方してたしなぁ……」


 項垂れる『徒花』と、汗をかきながら苦笑する『気まぐれ』。あちゃー、と言わんばかりの顔をしている『夜空』。

 と、そこに。

「それなら、自分たちで展開を誘導しちゃえばいいんじゃない?」

 頭を抱える3人に笑いかける、ひとりの少女が現れた。

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