小品 Ⅰ

シーソー



 サイダーの缶を片手に、シーソーを平均台の代わりにして歩いてみた。それは私がお気に入りのスカートを履いていたからだし、私の他にはここに誰もいないからだし、そして、私が大人になったからでもある。

 夏の公園は夜に澱む。夏蝉は鳴りをひそめ、星彩がみだらに色めく。

 私がこのまま遅々とした歩みを止めなければ、いつかシーソーは、持ち上げている頭を地面に打つ。それが楽しみのようでもあり、訪れてはいけない瞬間のような気もする。

 あの人は、ここへは来ないだろう。

 よしんば追いかけてくれていたとしても、私が逃げこむ場所など、見当もつかないと思うのだ。そして私も、あの人が探しに来るかもしれない場所を、何ひとつ思いつけなかった。

 膣が疼きます。あなたのせいです。

 シーソーに乗る心持ちを忘れ、なまじ恥じらいなど意識するばかりに、こういう活かし方しか思いつかなかった公園に、私はひとりでいて、サイダーの甘味に辟易しながら、精神の苦味を押し殺して、なんとなくあの人を待っている。生半可に経験など積んだばかりに、ここに現れないことなど百も承知で。

 胸の拍動はなにゆえのものでしょうか。

 反対側にあなたがいれば、つまらぬ恥など忘れるでしょうに。




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