第3話 劣化ウラン弾の逆襲
「大変よ!」
餅江が慌てて教室に入ってくる。
「慌ててどうしたのよ」
温子が問いただす。
「初等部のおチビちゃんたちが拉致監禁されたんだって」
「え?何で?」
「犯人は劣化ウラン団っていう不良グループらしいわ」
「おチビちゃんを拉致するなんて許せん!!」
このおチビちゃんとは信管で、着発信管、遅延信管、近接信管等の各種信管たちである。温子や餅江のような炸薬の詰まった爆発する弾頭には欠かせないパートナーなのだ。
「まずは偵察よ」
餅江の手には何故か米軍用の双眼鏡M22があった。
レーザー光線を反射する緑色のコーティングが特徴的な7×50のごつい奴だ。
日本のフジノン製。
「どこ行くのよ」
「裏山の旧校舎よ。そこが監禁現場」
「何で知ってるのよ」
温子の質問に餅江が堂々と返事をする。
「それは作者が怠慢だからに決まってるでしょ。場所突き止めるのに下手すりゃ1万字位使うんだからささっと省略するのが肝要なのよ」
(大変申し訳ない……)
木造の旧校舎を望む藪に二人がたどり着く。
餅江が双眼鏡で注意深く観察している。
「オチビちゃんたちは左端の教室に集められているようですね。どうする?」
「犯人をモンロー効果で悩殺してから……」
温子の言葉を餅江が遮る。
「待って。様子が変よ」
「どうしたのよ」
「いや、おチビちゃんが教壇の上に立って……何か言ってるわ。行きましょ」
温子と餅江がこっそりと教室に近づくと、そこには教壇の上に立って説教しまくる近接信管ちゃんがいた。他のおチビちゃんたちも腕組みをして睨んでいる。
劣化ウラン団とおぼしき男どもは正座をさせられうつむいていた。
彼らが上を向くと近接信管ちゃんのスカートの中が見えそうなのは内緒にしておく。
「いい。分かってるのかしら?私達兵器は人殺しの道具ではありません。人を殺傷してしまうのは目的ではありません」
脇にいた時限信管ちゃんが続けて説教する。
「貴方たちが空しい思いをしている事には同情します。兵器として使用されず、不要だと廃棄処分にされてしまうかもしれない。こんな無力感を味わいたくないのは皆同じです」
もう一人の着発信管ちゃんも説教に加わる。
「でも、世論において劣化ウラン弾が拒否されたのは、周囲の人々やそれを扱う兵士の方々に健康被害が発生するからです。高性能なのは認めます。しかし、性能を優先するあまり、生き延びた人や味方の兵士にまで害が及ぶことは避けねばなりません」
「俺たちだってわかっちゃいるんだよ。でもな。悪魔みたいに言われて誇りを踏みにじられて我慢できなかったんだ」
「だから、もう一度俺達を使って欲しいって立ち上がったんだ」
「馬鹿ね」
扉をガラリと開け餅江と温子が乱入する。
「世間じゃ忌み嫌われてるみたいに言われてるけど、廃棄処分にはならないわよ」
と温子が言う。
「まだまだ現役じゃないの。私の方が立場あやしいってのに。全く小心者なんだから」
と餅江。
「温子姉様」
「餅江姉様」
おチビちゃんたちが一斉に駆け寄ってくる。
「怖くなかったかい?もう大丈夫だ。さてお前たち。こんな小さい子いじめてさ。覚悟はできてるんだろうな」
餅江が両手を握り締めゴキゴキと音を立てる。
劣化ウラン団は温子と餅江にタコ殴りにされたのだった。
「姉様。私達はいじめられていたのではありませんよ。相談に乗ってくれって言われたんです」
「でも情けない愚痴ばかり言うもんだから、途中からお説教タイムに突入しました。えへっ」
温子と餅江は顔を見合わせる。
劣化ウラン団の面々は恍惚とした表情で満足そうににやけていた。
「伝統のあるHEAT様とHESH様に凹られるなんて……幸せ過ぎる♡」
彼らはM気質だった。
「え?」
またまた顔を見合わせる温子と餅江だった。
「あたしたち余計な事しちゃったかな?」
首をかしげる温子。
「まあ、こいつら喜んでるし、結果オーライって事で事件解決!」
現金な餅江である。
「じゃあ帰ろうか」
温子の言葉に頷き皆で手を繋いで学校へ戻るのだった。
[用語解説]
各種信管:砲弾の種類によって炸薬をどう爆発させるか工夫されています。HEATでは感知は先端、起爆は後方。HESHでは炸薬が装甲にへばりついてから、砲弾の速度低下による慣性力で起爆します。他に対空用の近接信管。対艦用の遅延信管などがあります。
劣化ウラン弾:イラク戦争で湾岸戦争症候群を引き起こしたとして有名になった感がありますが、米露他、使用している国は多いです。理由は高性能だから。比重が鉄の2.5倍、鉛の1.7倍あり砲弾の運動エネルギーが増します。加えて燃焼効果があり焼夷弾としての機能もあります。劣化ウラン弾が燃焼すると酸化ウランの微粒子となり周囲に飛散します。この微粒子を吸い込んだ場合に健康被害が発生すると言われています。作中ではマスコミに叩かれた劣化ウラン弾が廃棄処分になるかもしれないと不安になっておチビちゃんに相談するストーリーですが、今も現役です。最近ではIS攻撃の際にA10から30ミリ砲の射撃で使用されました。
M22:米軍の双眼鏡。昼間の視界に特化していると思われます。眼球保護のためレーザー光線を反射するコーティングが施されレンズが緑色に反射してます。おかげで視界はピンク系になります。夜間は暗めになり夜間監視や天体観測には向きません。夜間は暗視スコープ使うから光学的な双眼鏡はいらないんだろうね。日本のフジノン製ですよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます