第2話 悪魔を救うのは死神
野球グラウンド、サッカーグラウンド、テニスコート、体育館、武道場、さらには文化系部活の活動室にまで、もう隅から隅まで連れ回されている。
結局見つかって、クラスメイトたちは最後まで守ろうとしてくれていたけど、先輩の怖さにやられてしまった。まぁそれは仕方ないことだと思う。
時刻は 18:30
そろそろ帰らないと家族に心配をかけてしまうなぁ。入学してから5日、最近はずっと17時くらいには家についていたし。連絡一言くらいしなきゃ。
でも…
「すみれちゃん今のところどの部活がいいなーとかある?」
「いやぁ、今のところはないですね…」
「そうかぁ!そしたらね次は茶道部なんだけど〜」
各部の部長さんに囲まれて会話も絶えない中、カバンの中のスマホを取り出すのはかなり厳しい。
もう、部活は入る気ないって、言っちゃおうかな。
「あ、あの…」
「はぁ!?すみれちゃんがそんな野蛮なスポーツするわけないだろ!?」
「だーかーらーマネで来て欲しいって言ってんだろさっきカラァ!」
「いやいや汗臭いもんかわいそうだよそんなの」
「てめぇ!!!ラグビー貶すんじゃねぇ!」
け、ケンカしてるし。なんなのこの人たち。
もう疲れたなぁ、どうでもいいなぁ、楽しくないなぁ。制服だけはいいけど。
そう諦めかけた時、神の手が差し伸べられる。
カバンの中でスマホが振動していた。
電話だ!
私は立ち止まってスマホを取り出した。振り返る先輩たちと、焦って通話ボタンを押す私。
「も、もしもし!お母さん?」
「…はぁ?俺だけど」
「…響かよ、なに、どうかした?」
「お前こそどうした?なんか変だぞ?風邪でもひいたか?」
「あ、いやひいてないよ、なんでもないから、何?」
「…俺さー今、用事で月丘高校の近くに来てんだけど、お前まだいる?」
なんだか、ハッとしてしまった。
「………いる、いるよ、いるの」
「なんだよどうしたんだよ、いるのか?ならもう夜も遅いし一緒に帰ろう、お前の母さん心配性だしな。校門で待ってるからすぐ来れるか?」
「いく、すぐに行く!!!!」
ピッ、と電源を切り、私は頭をフル回転させた。今しかチャンスはないと思った。
「すみれちゃんどうかした?」
「あ!あの!私もう帰らなきゃならなくて…でもこの場所から校門まで1人で行くの迷いそうで怖いから、ついて来てもらえませんか…?」
「え!あぁぁ!もちろん!よしみんな!校門まで送り届けるぞ!」
トボトボと歩きながらも、私はずっと話しかけられていた。
「すみれちゃん!家に帰ってからよーーーく考えてみてね!バスケ部マネに是非来てね!」
「いやいやぁ!サッカー来てよ!」
「すみれちゃんみたいな子は弓道似合うよ〜!」
「いや、茶道が一番お似合いだ」
そんな中、バスケ部の先輩に肩を叩かれた。
「ってかさー、校門までと言わず駅までとか家まで送るよ?夜も遅いし」
同時に、私の視界に神が降臨した。
私は先輩の手を払いのけ、走ってその神のもとへ行った。
神の前まで来たところで、小声で伝えた。
「ごめん、許して」
「は?」
私は響に抱きついた。
「ごめんね!!!お待たせ!!!だ、ダーリン!!!一緒に帰ろう!」
後ろからざわざわと男たちの声が聞こえる。響は察してくれた。
「待ってたよすみれ、あいつらに何かされてないか?」
「大丈夫だよ、少しというか、かなりムカついたけど!しつこくて!」
なんだか今なら素を出せるなと思い、息を吸って罵倒を頭の中に用意した。
「入る部活は私が好き勝手に決めるんじゃボケェ!!!年上のくせして集団で囲うようなセコイ真似しかできねぇのかてめぇら!!!」
妙に優しい声を出す響の腕を掴みながら、先輩たちを見て吐き捨てた。気持ちいい!
「そうだったか。あいつら男のくせして…みっともないことしてるんだなぁ」
「う、うわぁぁ…」
響の低い声の後、先輩たちは怯えた顔をして校舎に戻って行った。
ふと響を見上げると、いつも通りの、死んだ目をした響きだった。
「…いつまでくっついてんだブス」
「はっ、笑わせないでよ!!!私もう自分がブスじゃないってわかっちゃったもんね!」
「は?笑わせんじゃねぇ、お前は顔と性格全部ひっくるめてトータルブスだから、トータルおブス」
腕を離し、響が新しい、私とは別の制服を着ていることに不安と違和感を覚えた。
「ありがとう、響」
「大体察した。まさかあんなことになってるなんてなぁ、まだ本性を出してないのか悪魔」
「だーーーれが悪魔だよ!お前は死神だよボケェ!!!」
「はいはい、その調子でなんとか頑張れよ高校」
「そっちこそね!私がいないと寂しいくせに〜」
「清々してるけど?バカな生徒抱えずに済むしな」
道を歩いているだけなのに、2人で歩いているだけなのに、すごく楽だったが、ステーキをおごることを思い出してしまい頭を抱えた。
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