第11話 『最終豪雨』その2

*この回にも、大雨の描写がございます。


 どうか、ご注意ください。


 7月の豪雨で被災された知人や、親類から聞いた情報なども、一部参考にいたしましたが、このお話自体は、豪雨以前に書き始めていたフィクションです。



************   ************



 実際のところを言えば、ぼくも、乱暴君も、もう覚悟はしていました。


 しかし、乱暴くんのおじさんは、大変に気丈な方でした。


「いやいや、どのような苦境にあっても、終わるまでは、絶対に諦めないのだ!」


 と息巻いています。


「ここなら、なかなか、水没はしないだろう。しかし、うちの養殖池は、またダメだな。昨年もこうだった。世の中どうなってるんだろう。」


 たしかに、ここはこのビルの9階と10階で、ここまで水没してしまうような洪水であれば、実際、この世の終わりでしょう。


 しかしながら、どうやら、それもまんざら間違いでもないくらいに、ものすごい洪水が襲ってきていたのです。


 外は暗闇。


 ごうごうという、滝のような雨の音が、響いてきます。


 どうやら、6階の部分あたりまでも、もはや水中に沈みました。



 なんで、この海沿いの街でこうなるのかは、わかりませんでしたが、おそらく、海面自体も、ぐっと盛り上がってしまっているのでしょう。



    ***   ***   ***



 実際のところ、多くの方が、このビルにも逃げ込んできていました。


 おじさんは、可能な限りの人を救助できるようにと、最初から入口を開放していました。


 しかし、下の方から、その水没域はあッと言うまにあがってきたのであります。


 こんなに早いなんて、予想もしていませんでした。

 

 とにかく、なにはともあれ・・・・・と、三人でビル内を駆けずり回って、下の階にいた人たちを、まずは上側に移動させました。


 水面に近い階の窓から、浮いてくる人を救助しようともしていました。


 長いロープの先に浮き輪をいくつか付けて、流してみたりもしました。


 数人ですが、それで助けた方もいました。


 ぼくたちも必死で手伝ってはいたのですが、実際のところ、もう、すっかりと暗闇の中ですし、水流があまりに早くなってしまい、危険すぎる状態となり、なかなかうまくは行きません。


 悔しい事に、すぐ目の前を、流されて行く方もありました。


 やがて、あまりに流れが急激になりすぎて、ぼくたちもあきらめて、建物内に避難するしかなくなりました。


 そんな時、どこかで、大きな爆発音がしました。


 雷か、とも思いましたが、稲光がありません。


 どこかで、何かが爆発したのです。


 振動で建物が揺れ、振動を感知する非常ベルが鳴り響きました。


 その爆音の元は、十数キロ離れたところにあった工場であったことは、あとから分かりましたが、周囲の建物に反響して、一発だった音が、実際には複数に聞こえたのです。 


 かなり、恐ろしかったのです。



  *****   *****   *****



 恐怖の夜は、じりじりとしか、時間が立ちません。


 それは、本当に恐ろしい夜だったのです。


 どれだけの人間が、苦しみにあえぎ、水に沈んだことでしょうか。


 水没はしていない、ここのようなビルや、また高台にあるような家でも、その中の人びとは、ついに、まったく寝られない夜でした。


 土砂崩れも多発していましたが、実情は夜が明けるまで、わかりませんでした。

 

「がんばってください。あと二時間で夜が明ける。」


 おじさんが檄を飛ばし、ビルの中で避難している人々を、励まして回っています。


 ありったけの飲み水や、缶詰なども提供しました。

 

 それは、本当に長い長い、恐怖の夜でした。



 *****   *****  ***** 



 もう、万策尽きた、というような状況の中で、ようやく空が少し明るくなってきました。


 そのとき、ふいに、すでに止まったと思っていた、乱暴くんのコンピューター『アイノちゃん』が、突然、やっとこさ、と、打ち出したデータがありました。



 『わかった。今回は、聞き届けた! しかし、この先も、我らは、常に宇宙から人間の行動を見つめている。忘ることなかれ! おごることなかれ! 自然界の事実は謙虚に受け止めよ。助け合い給え。』



  **********   **********



 ついに、雨はやみました。


 ようやく夜が明けたお空には、黒雲の隙間から、ぼつぼつと、青空さんが帰ってきていました。


 必死の救助活動が、始まっていました。




  ************   ************
















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る