第9話 『晴れ』その2


*ここには、大雨の描写記載があります。どうか、ご注意ください。


  




********   ******** 


 亡霊の人工衛星が予告してきたその『1時間』は、あっという間に過ぎ去りましたが、やはり『日本合衆国中央政府』からは、まだ何も連絡がありません。


 まあ、時間がかかると言ってきていたくらいだから、少なくともその倍はかかるとみて良いだろうとは思いました。(『相当』の2倍って、どのくらいなんだろうか。)


 衛星画像から見る晴れ間の形は、『30』~『20』~『10』とみるみる移り変わりました。


 けれども、そこで、衛星画像が、途切れたのです。


 あとは、受信自体が、もう、ぽっきりと、出来なくなりました。


「こりゃあ、現役衛星にも、きっと、見限られたぞな。」


 乱暴君がうなりました。


 そうして、ついに、時間が切れとる同時に、真っ黒な雲が再び参集してきたのでありました。


 それから、前の通りの、いや、それ以上の、激しい雨が降り始めたのです。


 まるで、滝のような雨です。

 

「こりゃあ、ダメぞなもし。すぐ大洪水ぞな。なんとまあ、無慈悲なことぞな。」


「もっと、がんばって放送してください。『もう少し待ってください。努力してます。どうぞ、お願い、そんなに降らせないで!!お願い。』を入れてください。」


 ぼくは、乱暴くんのおじさんに懇願しました。


「やってます。目いっぱいです。短波、ツーメーター、430、中波、いやいや、長波も、極超短波も ・・・・可能な全波長。出力満杯。やけくそ。完全に違法です。」


「聞いてくれよなあ。お願いだからあ!!お慈悲ぞな。」


 下を見れば、もう、なにも見えません。


 舞いあがる水煙で、真っ白です。


 近くの川が、どうやら溢れたようです。


 これは、もう、『雨』と言えるようなものではありません。


 頭の上から、巨大な大瀑布が、なだれを打って、下界に落ち込んでゆくのです・・・。

 

 しかし、『放送』の効果が出るような感じは、まったくありませんでした。


 もう、人知の及ぶような雨ではなかったのです。


 ただただ、恐ろしい、激しい恐怖感が、どわっと迫って来るのです。


 ものすごい、自然の圧力を感じました。


 無力感だけが、襲い掛かってきておりました。

 

 ほぼ真っ暗になりかけていた街の中を、わずかな残った明かりに反映されながら、お水が渦を巻き、とぐろを巻きながら街全体に、襲いっかかって来るのです。 

「こりゃあ、やっぱ、もうダメだ。この街も、この国も、終わりぞなもし。」


 乱暴君が手を合わせました。


「この国が? いや、この世界が、だよな。」


 ぼくは、思わず、ささやきました。


 間もなく、夜の完全な暗闇も、ついに、やって来ました。


 街は、深い深い暗黒の豪雨の渦の中に、なす術もなく、はるかに沈んでいったのです。



  *******   *******

 


 中央政府内では、その時間、実は大混乱に陥っておりました。


 すべての偵察衛星も、通信衛星も、すでに言う事を聞かなくなっておりました。


 しかし、止まったのは、この日本合衆国の衛星だけではなかったのです。


 全世界の、あらゆる人工衛星が、一斉にストライキに入った。


 そういう状況だったのでした。


 日本合衆国は、すでに、もう実際、崩壊の寸前にありました。


 そうして、とうとう、世界の主要都市にも、激しい滝のような大雨が降り始めたのです。


 普段は、そんなに雨が降るところではないような場所にも、豪雨が襲いました。


 まったく、情け容赦なく、降ったのです。


 その国の指導者の意志などは、自然に対しては、まったく関係ありませんでした。


 この国中央政府の、あの、ちょっとだけお口の悪い官房長官様は、実際、もう、必死で努力をしていたのです。


 どちらかと言うと、割合と太っ腹で、のんきな中央政府の総理も、ぼくらがからんでるから、と、どうやら、 たかをくくっていたらしいのですが、ようやく、事の異常さに気が付いて、ぐっと本気になりました。


 しかし、連邦政府首都の頼みのライフライン自体が、すでに、どんどんと、完全ダウンして行っていたのです。


 各都市と情報を結ぶ通信回線も、ほぼ、使えなくなっておりました。


 電力供給が、停止しました。


 水道も、ガスも使えなくなっています。


 首都交通機関は、まったくストップしておりました。


 首都から外に出ることも、入ることも不可能になりました。


 高速道路も大部分の飛行場も、もう使えませんでした。


 もちろん、まともに通れる道路は、すっかりと、なくなっておりましたし、もし、飛行場はまだ使えても、飛行機が飛べるような状況でも、ありませんでした。


 各地の川は、大小を問わず、どんどんと、溢れておりました。

 

 防災施設が十分ではない地方都市や、山間部の町の状況は、もっと切迫していたのですが、その情報自体が、よくわからない状態でした。


 住民に対する情報伝達も、避難の指示も、みんなそれぞれに、頑張ったのではありますが、夜の到来とともに、どんどんと、難しくなってきていたのです。



 




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