第8話 『晴れ』その1

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待つ時間は大抵は長いですが、楽しい時間はすぐに過ぎてしまうものです。


今は、鳥たちが、嬉しそうに空を舞っています。


「もう、45分経ったぞな。政府からは、何も返答がないぞなあ。もし。」


「そりゃあ、まあ、そうだろうなあ。あまりに、ばかばかしい、お話だもの。」


「でも、チャンスぞなもし。」


「まあね。多分ね。」


 実際のところ、ぼくは、まったく、期待しないようにしておりました。


 政治というものは、きわめて現実的なものであり、実際に、いち国民が、何かの事態を大きく動かすと言う事は、そう簡単なことではないのです。


 たくさんの犠牲者が出ないと、国家というものは、そう簡単には動けないものなのです。


「気休めに、ここからも放送できるように、いろんなお祈りのデータを集めてるんだよ。多少は効果が、あるかもしれないだろう。と、思ってね。」


 ぼくが言いました。


「どうかなもし。二番せんじは、あまり、ありがたくないものぞな。」


「それでも、ないよりは、きっとましだよ。だいたい、気持ちが違うだろう。」


「まあ、確かに、やらないよりは、いいかもな、ぞな。」


「うんうん。」


 ぼくは、人工衛星を打ち上げている国々における、慰めの『お祈りなど』のデータを収集しておりましたのです。


『それにしても、おかしなことだ。どう考えても、どうかと思うよなあ。』


 と、ぶつぶつ言いながらではありましたが。


 そこに、まったく、ようやく、電話が入りましたのです。


「はいはい。あ、ども。」


 それは、沼官房長官さんでした。


『ああ。いやあ、予測はしたが、上手くゆかないな。総理は、否定的だ。君たち評判悪いな。『いくら事件』のことは、ぼくも知ってはいたが、当時は関与していなかったからね。いったい、何やったの?』


「ちゃんと、見事に事件を解決したのです。そこは評価してほしいです。」


『ふうん。見事解決ね。多くの学者や政治家や官僚が巻き込まれて、辞職や左遷に追い込まれた。総理は、運よく逃れたが・・・いやあ、まあ、しかしだ、手詰まりではあるんだよ。なんとか、我が国の電波の隙間でも使って、放送枠を作ることは出来そうだ。ヨーロッパ連合は、同情してくれて、可能な範囲で協力してくれることになった。しかし、他の衛星所有国からは、断わられたよ。無理もないことだ。でも、まだ、準備に相当時間がかかる。それから、放送が可能な時間はせいぜい10分ってとこだ。まあ、出来る限りはやってみる。しかし、・・・・状況は悪いぞ。首都は、ついに電力供給が完全停止しそうだ。ここや、放送局などは、なんとか緊急発電で忍んでいるがな。そこらあたりを除いて、ライフラインはほとんど動いてない。この国は、壊滅に瀕している。じゃあ、準備出来たら連絡するつもりだが、もしかしたら、これが最後の電話かもしれない。その時は、こっちはこっちで、勝手にやらせてもらう。天の恵みを期待しよう。』


 電話は切れました。


「相当かかるって・・・・」


「そりゃあ、もしかしたら、ここも持たないぞなもし。ほらほら、街の中が一気に増水してるぞな。もう、停電しそうだぞなもし。」


「ああ、そうだね。・・・このさい、焼け石に水だろうけど、これまでに集まったデータで放送しよう。乱暴くんのおじさん、頼みますよ。」


「よっしゃ。こうなったら、多少違法でも、可能な限り送信出力上げる。出せる周波数全部で出す。民家に影響するかもしれないが、まあ、仕方ない。あとのトラブルは任せますよ。責任とってね。」


「は・・・・・? そもそも、僕のせいじゃないですけども。」


 そんなことは、まったく聞いていなかった、乱暴くんのおじさんであります。


 おじさんは、ぼくが集めたかぎりの、世界の、死者や犠牲者などを慰める『お祈り』データを、結構な大出力で送信し始めたのです。


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 もう、夕方が迫ってきていました。




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