第3回 『人工衛星の供養』その1

 人工衛星が、化けて出るなんて、聞いたこともありません。


「ばかばかしい。『アイノちゃん』は、おたく?」


「そりゃま、いくらかは、僕の性格が反映されてますからね。でも、事実なのだ!」


「またあ・・・でも、万が一にもそうだとしたら。どうしたらいいの?」


「そりゃもう、しっかりと、慰めてやることですな。」


「お経あげてとか?」


「はいな。」


「むちゃな。大体なんで、わが国だけが狙われるの?」


「そりゃあ、おそらく、まあ、とりあえずでしょうぞなもし、でもきっと一杯、人工衛星向けの部品も作ったからでしょう。ぞな。しかも、信頼性が高いぞな。それは名誉なことなんですぞなもし。だから、彼らも、我が国の慰霊を、特に求めているのでは?」


「なんだか、絶対に逆恨みだよな。でも、具体的には、どうやるの?」


「そこですぞな。そこが、問題。そのために宇宙船を上げる資金的余裕はないからね。」


「でしょう? 無理ですよお。」


 ぼくはあっさりと言いました。


「いやいやあ、貴方が社長なんだから、考えてください。」


「はあ? そんな、むちゃな。」


 結局は、なぜだか、ぼくに責任が来るのです。


 そう言ってる間にも、雨脚はどんどんと、早く、激しくなります。


 『最終洪水警報』が出ました。


 当然避難の『準命令』も出ています。


 『命令』は出来ないので、『準命令』なんだそうです。


 こりゃああ、まったく、もう、きっと、一刻も猶予はありません。


 『自分の命は自分で守れ』という趣旨なのです。


 しかし、ここは、おんぼろとはいえ、ビルの10階です。


 ここから動くわけにはゆきますまい。


 大家さんのお家は、ひとつ下の9階です。


 なんでも、乱暴君曰く、おじさんが、空から物が落ちてきたら嫌だから、とかいって、一番上はやめたんだそうですが、あとから直接聞いたら、そういうわけでもないらしいです。

 

 乱暴君が、将来、空を見る仕事をしたいと言っていたから、とっておいた、ということだそうです。


 いいおじさんです。


 乱暴君は幸せ者です。


 でも、御両親は、むかし、事故で他界されたと聞いておりますが。


 その乱暴君を引きとって育ててくれたのが、このおじさんなんだそうです。


 世の中、色々とあるのです。




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