第五十六話「開戦」
ミサイルが東京に着弾するまで、およそ五分。
だが、ミサイルは軌道を外れ、東京上空を通過し、太平洋上に落下した。
「やはり何か仕込んでいたか。貴様のような
ヒヅル姉さんは富士山と金色の太陽が描かれた派手な扇子を拡げ、その口もとに当てて微笑んだ。
「ほゝゝ。何の話やら、わかりかねますね。ただの誤作動ではないかと」
「どこまでもしらを切る気か。まあいい。そろそろ我が軍の精鋭〈
「ほゝゝゝゝ。〈
ヒヅル姉さんの口もとが、大きく
「無意味かどうかはすぐにわかる」
「……残念ですね。あなたとは、良きパートナーになれると思っていましたのに」
姉さんが素早く腰に手を当て、そのまま両手を前に突き出した。
ぱあんぱんぱん。
姉さんの手には、何も握られていなかった。
にもかかわらず、まるで銃でも発砲したように
直後。異世界かどこかから召喚したのか、姉さんの手の中に、いきなり黄金のデザートイーグルが出現した。
そう。白金機関〈兵器開発局〉によって光学迷彩機能が加えられた、姉さんの新しい愛銃であった。
が、しかし……
「とうとう本性を現したな。女狐が」
驚くべきことに
姉さんは〈全能反射〉によって素早く、しかし華麗に横に飛び、弾丸を避けた。
「ふん。俺をただの為政者と思うなよ。
姉さんは特に驚いた様子もなく、ただいつものように
「存じておりますわ。相手にとって不足はありません」
「貴様もなかなかの
「御意」
右大臣と呼ばれた狐のように吊りあがった眼が印象的な黒スーツの長身の男は、一直線にぼくに向かって飛びかかってきた。
ぼくは
右大臣は両腕で顔を覆い、弾丸を〈
弾け飛んだスーツの生地の下に垣間見える、黒光りする鋼の手甲。
おそらく腕だけでなく、全身に防弾鎧でも着込んでいるのだろう。
右大臣はぼくの手前で大きく横に飛ぶと、足を大きく天高く上げ、ぼくの眉間に狙いを定め、振りおろした。
ぼくは
無論ただの掌底と思っていたら、袖の下に仕込まれたナイフに
だが右大臣は、手甲でぼくの仕込みナイフを受けた。
ぱきいん、と、
が、相手が悪かった。〈人工全能〉であり、引退したとはいえ長年秘密結社ヘリオスのエージェントを務めてきた姉さんが相手では、荷が重かった。
姉さんは
「うげえ」
そのまま
「安心なさい。今はまだ殺しません。あなたには利用価値があります。今度は
勝負あった。
すごい。やはり姉さんは圧倒的だ。
当然ながら、そんなことを許すぼくではない。
一瞬の隙を逃さず、ぼくは折れたナイフの先を、右大臣の首に叩きつけた。
「げっ」
そして首に突き刺さったナイフを容赦なく
右大臣の首の裂け目から噴き出た返り血を、ぼくは大量に浴びてしまった。血も
すかさずぼくは、左大臣と交戦中の真茶に加勢に行く。
「こいつ、毒針を使うぞ。気をつけろ」男装した真茶が、ぼくの横で
ほぼ同時に、左大臣の投げ放った針の雨がぼくに襲いかかった。
甘い。甘すぎる。〈全能反射〉を持つぼくに、正攻法は通用しない。
針の雨は誰もいない空中を
よく見ると、左大臣は女性であった。
しかしお生憎様、戦場において性別は関係ない。血で血を洗う殺しあいの戦場では、老若男女一切容赦すべきではないのだ。
「そこまでだ」
突如聞き憶えのある男の叫び声が、室内に響き渡った。
姉さんの足下で無様に伸びていた
「いいところに来たぞ、
勝ち誇ったように意気揚々とした
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます