第五十五話「首脳会談」
姉さんの訪朝は、四十八時間を待たずに行われた。
一般人になりすまし、私服の護衛を数名連れて中国国境から陸路で北朝鮮入りした……のは実は影武者で、本物は
今回の姉さんと
ぼくは
室内は緊迫した雰囲気に包まれていた。
「我が朝鮮へようこそ。白金ヒヅルよ。遠路はるばるよく来たな。歓迎するぞ」
鎌と槌と星が合わさった朝鮮共産党のマークが中央に彫られた黒い木製の机の奥に、肩まで届く長髪を真ん中できれいに分けた体格のいい美青年が、足を組んで座っていた。
彼こそが北朝鮮の最高指導者、
核・ミサイル開発の全面的な支援者、言うなれば恩人である姉さんに対する彼の不遜な態度に、ぼくは激しい
「我々は貴国の核・ミサイル開発に全面的に貢献しました。貴国の核戦力を完成させ、安全保障を確固たるものにした。その見返りとしては、今回の件はあまりに礼を失しているのではありませんか。
白金グループの技術者五人を人質に取られているにもかかわらず、姉さんは毅然とした態度で
「ふん。とぼけおって、女狐が」
「貴様らが裏でこそこそと小賢しい真似をしていたのは知っているぞ。今日はそのことについて、徹底的に問いつめてやろうと思ってな」
「あなたの最大仮想敵国は我々ではないはずですよ。
「では、貴公は我らに全てを包み隠さず伝えるべきだった。そうではないか」
「仰る意味がわかりかねますが」
「ふん。どこまでもしらを切るつもりか。言っておくが、俺は貴様の企みなど全てお見通しだ。貴様の送りこんだ密偵が〈反乱軍〉と接触していた様子を、我が忠実なる部下が押さえていたのだ。見よ」
ぼくは、その映像を見てぎくりとした。
それはぼくたちが北朝鮮入りして間もない頃、
「
姉さんは、ぼくの映像を見せつけられても眉ひとつ動かさなかった(なお、現在ぼくと真茶は変装によって別人の姿となっている)。
「ほゝゝ。憶測で物を言ってはいけませんね。
姉さんは懐から扇子を取り出し、口もとを隠して妖しく微笑んだ。姉さんにしては地味な、黒を基調とした夜桜と、その周囲を飛び交う無数の蝶が描かれた扇子であった。
「我が忠実なる
「なるほど。しかし我々の一員ではありませんね。密輸業者か何かでは」
「ふん。話にならんな」
「最近の党幹部の謎の失踪も貴様の差金だろう。どいつもこいつも反日派の連中ばかりだ。親日派の者たちに権力を握らせ、我が朝鮮を日本の属国とし、所有する核ミサイルをすべて支配下に置く。そうすれば、日本は核開発の汚名を着ることなく核武装できる。それが貴様の真の狙いだろう。だが残念だったな。貴様の誤算は、この俺を甘く見過ぎたことだ」
……それは、黒と黄の警戒色に彩られた、不気味なボタンだった。
数秒後の未来を予見したのか、常に沈着冷静だった姉さんの顔が、
「この
「待ってくださ」
姉さんの制止を無視し、
液晶画面に映しだされたミサイルが、激しい
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