第8話 あらし


 文化祭は午後の日程になり、その盛り上がりは増した。


 俺は比較的リラックスして楽しめたが、隣の雨宮どうだろうか。

 様子を見ても無表情に近い表情をしており、近々頻繁に会話していたが、そのときは容易に読み取れたが、今は何を考えているのか少しも読み取れない。


 伝えたかったことを伝えてから、自分に照れという感情が襲いかかり、会話がたどたどしくなった。


 午後の初めは先生方パフォーマンスで始まった。

 普段の先生方とのギャップ、どこか微妙に歯車が噛み合わない感覚は、笑いのツボを刺激する。


 今、流行っているダンスを踊る姿。

 隠し芸を披露する姿。

 ギターなどの楽器を弾いたり吹いたりする姿。

 普段は見せない一面は、驚きも与えてくれる。


「面白いだろ、文化祭」


「……ん? うん」



「うちの担任の先生がトロンボーンを吹くなんて思わなかった」


「うん」


 雨宮の表情が固くなっている。

 しかし、落ち着きがないような雰囲気だ。

 やはり、お節介だったか……。


 あと少ししたら、クラスTシャツのコンテストの集合の時間になる。

 それは、この次だ。

 時間を見る限り、慌てることはないのだが……。


 雨宮は「行く」とだけ言い、席を立ち、盛り上がる会場に背を向け歩き去ってしまった。


 その背を見届けてから、少し経ち、俺は全身から汗が吹き出したのを感じた。


 音のない世界が訪れ、一つの疑問が花を咲かせる。


 俺のせいで機嫌が悪くなったのだろうか?

 

 嫌な予感がした。俺は小走りであとを追った。



○●○●○●○●○●



 ――いない、

 ――――いない、

 ――――――集合場所にいない。


 雨宮が去ってから十分以上経つ。

 いや、もっと経っているかもしれない。

 体育館一階の入り口付近集合のはずだ。

 そこ近辺を見えないものを見るように凝視し、見回った。


 しかし、いない。


 俺のせいか?

 いや、それだけではない。


 さらに言えば、雨宮はそんなことをしない。

 少しの間だったが、文化祭の、準備をひておるときに人柄が分かったのだ。

 断言できる。コンテストを潰すようなことをしない。


 では何故だ?


 考えても仕方ない。行動に移す他ない。


 付近にいる先生に雨宮が来てないか、尋ねると、外に行ったと答えた。

 何故止めなかったんだと、苛立ちを覚えつつ、自己責任だ、と言う気持ちで消し去る。


 どこかで聴いたことがある曲を背後に校舎へと向かった。

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