第7話 静けさ


 本日は文化祭。

 芸術の秋の真っ只中の九月に行われるそれは今、この瞬間に始まろうとしていた。

 

 放送部の司会とともに進んでいく開会式は生徒会長、そして、文化祭実行委員長の言葉で幕を閉じた。


 誰もがそれぞれのクラスでデザインしたTシャツを着ていた。そのクラスの特徴が溢れている。


 遂に始まったか、と言う気持ちは、この日が来るのが早かったなと、これから始まる文化祭への期待であった。


 この学校の体育館に全校が集まっており、二階の席から見下ろす形で、その進行を見ていた。高いところなので、全体が一望できる。


 しかし、俺は心の片隅にあるモヤモヤした感覚を忘れていない。


 今、隣にいる雨宮にどう話しをしようかと考えている。


 朝に雨宮と話しをしたいからと、クラスに聞いたら拒否されることなく、それどころか何故か笑顔でOKされた。尚、その場には雨宮はいなかった。


 何か俺が気に触ることがあったならば、謝りたい。何か不安なことがあるのなら聞いてあげたい。お節介であることは重々承知だが何か動かないと、と思ってしまう。


 文化祭の順序上、初めに一年生のダンスとの発表がある。このダンス発表は一年生のみである。そして、これは、二、三年生による投票がある。言うなれば、闘いだ。文化祭の静けさとはほど遠い暑さがある。


 これを話題に出来たらいいなと思っている。

 

 転校生である雨宮は文化祭については殆ど知らないだろう。実行委員でも、だ。

 俺も去年味わった。

 文化祭のパンフレットに書いてある発表名は、内容のことを全く匂わせない。そう、読んでも何をするのか想像できるものが少ない名前ばかりだ。


「『聖なる若者の舞』が一年生のダンス発表だったって知ってたか?」


「……知らなかった」


 どこか暗い顔をして返答した。

 音楽が体育館に響き渡り一組の発表が始まった。

 喧騒の中でも良く響く声だった。

 俺は目を見開いた。何か重いように感じたのだ。

 

 そして、決意する。

 単刀直入に聞こう、と。


「なあ、俺、雨宮に何かしたか?」


「え?」


 そう聞くと驚きが返ってきた。

 この段階では違うようだ。

 俺は少し安堵する。


 しかし、それならば――――


 俺が原因出ないなら


 ――――何が原因何だ? と。


 疑問は肥大化し、先よりも恐ろしく感じる。


「……私にとって神崎くんは……大切なひとだよ……!」


 ………………、

 思考の空白。

 目の前が真っ暗になった。

 ダンスの音はどこへやら。

 代わりに、どこかのBGMが聞こえた気がした。


「……神崎くん?」


 時間が少し経ち、やっと頭が追いつく。

 しかし、聞き違いに違いないと決めつけた。黙殺する。話を進める。


「雨宮、最近何かあったか?」


「……」


 肯定の沈黙だ。

 話したくないのなら無理に聞かない。


 しかし、これだけは伝えよう。


「俺にできることがあれば言ってくれ」


「……うん」


 振り絞るように出された言葉。

 頷かれ少なからず安心している俺は笑みを浮かべながら、視線を一階の一年生のダンスに移すと、その影はなく、既に終わっていた。


 思ったよりも時間が経っていたことに驚いたが、達成感に浸っていた。


 盛り上がるはずの文化祭は俺の中では静けさに満ちていた。


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