第6話 変動


 雨宮と別れ、放送室に向かった。

 日はまだ高いのにも関わらず、廊下は人通りが少なく閑散としている。

 黙々と歩くと、何かを音読しているのだろうか、そのような声が響いてくる。俺は目的地に着いた。


 軽くノックをし、返事が来てから扉を開いた。


「失礼します」


「あっ、神崎くん!」


 俺が顔を出すや否や高坂先輩が相変わらずのテンションで話しかけてきた。

 放送部は練習しているのにも関わらず。部員に「続けてて」と伝えてこちらに近づいてきた。

 最近は文化祭間近ということもあり、度々訪れるようになった。ここにはいないが、雨宮も心を開いて話しをするのも珍しくなかった。


 次の瞬間先輩は怪訝な表情をする。


「こころちゃんは?」


「ああ、用事があるって言って先に帰りました」


「ふーん」


 訳を話してもその表情を止めない。

 いや、さらにその印象が強くなったようにさえ見えた。


「最近のこころちゃんの不審な点はある?」


 放送部の練習をしている声が聞こえなくなった気がした。

 俺は先輩が淡々と紡いだ言葉に絶句した。

 そして、俺の反応を見た先輩は、いつもの明るさとは別の笑みを浮かべ、


「私もあるよ」


 と、続けた。

 

 俺は耐えられず震えるのは分かっていた声を、平然を装い、出す。


「最近……ちょっと距離を作られている気がします」


 先輩は頷くと同時に肯定した。


「私もそうなんだ」


 自分が距離詰めても、彼女は逃げる。

 慣れてきたとこちらが思っていても、あちらはそうは思っていない。

 多少の慣れはあるが、ただ、それだけ。

 

 と、そう言った先輩はどこか暗い表情だ。

 

 そして、俺が脳裏に浮かぶ言葉を口にする。


「いじめ――」


 水面下で何かあったのか、と結論づけた。


 しかし、先輩は、その可能性もあるけど、と前置きし、こう言った。


「もっと別の何かだと思う」


 俺はその発言の根拠が分からなかった。

 これが経験の差なのだろうか? 俺も人並みには人付き合いはしている。

 たくさんの人に会い、話すことで導き出された答えなら――。


「それを教えてくれませんか?」


 そう単刀直入に先輩に聞いた。

 しかし、先輩はどこか暗い笑みを浮かべているだけだった。


 つまり、先輩の口から言えないようなこと、だ。

 

 

 情報が少なすぎる。

 そう思いながら、考え込んでいると、先輩がアドバイスをしてくれた。


「明日にでも話したらどうかな?」


 そうか……そうしよう。

 と言うよりもそれしかない。

 

 明日は文化祭。

 一緒にいる時間が多そうなのでちょうどいいかもしれない。


 そのあと、明日の予定の確認を済ませ、帰路についた。


 帰りの空は暗雲に覆われて、今にも雨が降りそうだった。降水量が多い九月とはいえ、流石に、今年は降りすぎだと心の片隅で、ふっと思った。

 

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