第5話 流転


 天気は変わる。

 それは万物は流転すると言う世界の理。

 雨の日も、曇りの日も、夕日が見える日も。

 同じようで違うその景色は――

 ――その変化は、自分たちが止められるものではない。

 それらすべてを大事にすべきではあるが、時に、その変化を忌々しく思うことだってある。

 そう何故こうなってしまったのだろうか、と。

 答えの出ない問いは、永遠に答えが出ることはないだろう。



「なぁ、神崎。なにか手伝うことあるか?」


 佐々木が気にかけるように尋ねてきた。

 文化祭は明日に迫っているため、彼も焦っいるのだろうと、推測し、自分たちの仕事の終わり具合を思い出しながら、言葉を紡いだ。


「いや、俺らでやるよ」


「そうか……わかった」


 クラスも準備で大忙しであり、遅くまで残っている生徒は多々いる。


 俺は実行委員の仕事が優先であり、その仕事は昨日で殆ど終わりそうだった。


 それならば、クラスに手を回してくれた方が良さそうだ。


「雨宮は、ちゃんと仕事してるのか?」


 なるほど理解する。

 雨宮にとって、初めての文化祭だ。

 分からない故に、不自由なことがあるのではと、思っただろう。それとも……。


「おまえより働いてるぞ」


 佐々木は知らないのだ。

 彼女が努力していることを。


「そうか」


「あっ、そろそろ時間だ」


「分かった。じゃあな」


 佐々木との会話を終えて、雨宮のところに行った。


「今日、用事あるから……早く抜ける」


 雨宮はそう言葉を紡いだ。

 彼女から切り出したことがなかったため、少しだけ、驚きつつも返答する。


「分かった」


 最近、訝しく思う機会が増えた。

 少し前ならば心を開いてくれたためか、いろいろと話しをした。しかし、最近、言葉が短かったり、終始無言だったり、と。

 俺は何かしたという自覚はない。自覚が無いからこそ自分が何かしたのでは? という思いが強くなる。

 全く証拠のない推理を展開する。


「考えすぎか……」

 

 文化祭が近づいていることも考慮し、思考を止め、雨宮の後を追った。

 一人で歩く廊下はいつもよりも暗く硬い印象を受けた。



 とある教室。

 そこは、クラスTシャツを展示するために机や椅子が他の教室に移動してあり、こんなにも教室とは広いのか、と、感じられる。

 ここにいるのは、俺と雨宮の二人。


「これで終わりだな」


 この作業は昨日の続きで、残る仕事は終わりを迎えた。

 全クラスのクラスTシャツの展示する台の製作である。

 昨日でほぼ終わっていたため、作業時間十分と言う短時間の作業だ。


「私、もう……行くね」


「待ってくれ……」


 彼女はそのいつもとは違う、暗い感情が是が非でも読み取れる声音で、反射的に呼び止めた。


「雨宮、最近、どうかしたのか?」


 彼女は目を見開いた。

 必死に表情を殺すように努めているのが見て取れる。


「何も……ない」


 本当に何もないやつはそんなをしたりしない。


 しかし、俺は、これ以上踏み込むことができなかった。

 勝手な推測だが、どこかに埋まっているであろう地雷を気にして……。


「じゃあ、またね……」


 その言葉を言い終わるや否や、雨宮は教室を後にした。

 

 残された俺は静寂に包まれた空気の中、ただ、彼女の今にも震えそうな弱々しい後ろ姿を見るしかなかった。


 そして、どうすれば良いのか……と、自分に問うしかできなかった。

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