第4話 夕日


 少し、日を置き、クラスTシャツの制作、そして、コンテストの参加につい話し合うことになった。


 放送部の放送での呼びかけをした方が、関心を持ってくれると、判断したからだ。


 先生の許可を取り、ロングホームルームを用いて、話を切り出す。


 この仕事は、実行委員の全クラスがやらなければならないことであり、俺たちが、他のクラスを回ることはない。


 教卓の前に立ち、話し始める。


「まず、クラスTシャツのコンテストに参加したい人はいるか?」


「それって、何人だっけ?」


 と、クラスからの質問が上がる。


「ああ、男女関係なしに、二人だ」


 すると、一人の女子が発言する。

 

「うーん、じゃあ、実行委員二人でいいんじゃない?」


 何故、そうなる? 

 そして、何か周りも頷いているし……


「私もやりたい」

 

 と、問題児である、松野が手を上げる。


 雨宮は……と、視線をずらすと俯きがちに、言葉を紡いでいた。


「……私もやる」


 その後、他はいないか? と、あたりを見渡すが、誰もいない。


「じゃあ、神崎くんは、決まりとして、女子二人で、投票しよっか」


 いつの間にか、女子の一人に司会の座は剥奪され、コンテスト参加は決定事項になっている。


 解せない。


 しかし、どうせやるなら、雨宮こころと、一緒に出たい、と心の中で密かに思う。


「みんな、机に伏せて……」


 と、投票が開始された。


「……松野さんがいい人」


 俺も、机――教卓に伏せているので、何票入ったかは、分からない。


 少しの静寂の空気が訪れたあとに次に移る。


「……雨宮さんがいい人」


 少しの間があり、顔を上げるように言われる。


 いつの間にか、その女子は前に出てきており、投票結果を発表する。


「それでは結果は――――」


 無駄に長い間を置き、溜めを作り言い放つ。                  


「――――僅差で」


 また、間を開ける。


 唾を飲み込む音が、妙に大きく聞こえる。


「――――雨宮さんです」


 周りが騒ぎ出した。「不思議姫が勝ったぞ」「やっぱりな」などと言う声が多い。

 松野の気持ちを考えるべきだと思い、静かになるように、注意する。


 そっと、雨宮の方に視線をやると、偶然か目が合い、逸らしてしまった。


 それは、あまりにも気まずかった。

 しかし、雨宮の顔を伺えた。


 その顔は、嬉しさに満ちていた。

 今までで見たことのない、恐ろしいほど美しい笑顔。


 見た者を惹きつせるその笑顔は、俺は忘れることができず、頭の中に残る。


 最近は表情をコロコロ変わっていることを思い出した。


 しかし、クラスのみんなは、初めてだろう。雨宮こころの表情が大きく変わるのは。そして、この輝きを見るのは……。

 

 クラスは、静まり返る。嫌でも、驚愕が、伝わってくる。


 視線を再び、雨宮に移すと、やはり、表情は戻っていた。

 

 まるで、夕日のように、美しい光景には、時間が限られる。夕日は、たった、数分であり、彼女の場合は数秒だろう。


 しかし、そんな光景を、俺は、何回か見てきた。


 そして、俺は、彼女に、少しずつ、惹かれていった……。

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