第3話 薄明光線


 あの実行委員の集まりから、五日経った。

 ホームルームでクラス分担の係りを話すと歓声が、上がっていたのを思い出す。

 

 あれから、変わったことと言えば、雨宮と話すようになったことだった。彼女はいつも一人で、他の誰とも話さなかったかったが、俺とは話してくれる。

 同じ実行委員で話す機会が増え、話していくうちに、信頼してもらえたのかもしれない。詳細は分からなかったが、プラスに働いているだろう。

 前は、話しかけてくんなオーラと言う、絶対に近い防御壁を心に展開していたが、今はそこまでではない。

 油断はしていないものの、最近、肩の力を抜いている気がする。


「なあ、神山、今日は仕事だっけ?」


 親友と読んでも差し支えない。気の置けない友。佐々木が声をかけてくる。

 ショートホームルームが終わり、他の生徒は帰りの支度をしているが、俺たち実行委員は帰れない。


「ああ、今日はある。また明日」


 そう軽く手を上げ、「じゃあな」と言う。

 ある程度時間が経ち、人が少なくなったところで、雨宮を促し会議室に移動する。


 今日は、クラス別で仕事について話された。と言っても、クラスではそこまですることはなく、実行委員の二人の仕事が殆どだ。


「放送部行くか」


 今日は放送部が確実に活動しているそうなので、この際だから先に仕事を終わらせようと、提案した。


「……うん」


 建前だけだが、放送部に宣伝に協力してもらい、コンテストではナレーションをしてもらうために、頼みに行くのだ。


 放送部の部室に着き、ノック三回。

 返事が来たところで入ると……


「あっ、不思議姫だ!‼」 


 尋常ではないテンションで迎え入れてくれた。俺たちは二年だが、この人は三年。同性だからだろうか? 雨宮のことを知っていて驚いた。


「先輩。クラスTシャツのコンテストについて話に来ました」


「ほう、もうそんな時期かぁ」


 去年のことを思い出しているのだろうか? 少し間を開け話し始める。


「OK‼ あたしに任せて‼ 去年もやったから大丈夫」

 

 そう言い親指を立て、GOODサインを出してくれた。去年も経験していることで、この先輩頼りになる、そう感じた。


「それでは、よろしくお願いします」

 

「はいはーい」


 それから、滞りなく説明を終え、質問を求めた。


 すると、至極当然のように、当たり前のことを聞くように、質問してきた。


「君たちはコンテスト出ないの?」

 

「へ? は、あっ? 急にどうしたんですか?」 

 

 あまりにも予想外過ぎる質問に、同様を隠せなかった。コンテストは男女一人ずつ体育館に作られるランウェイを歩く。先輩はそれに参加しないのか、と聞いたんだ。意図が分からなかった。

  

「ああ、まだ決まってませんよ」

  

 冷静な頭を取り戻し、質問に答える。第一運営側の人間が参加して良いのだろうか? 


「そうなの? 参加すべきだよ? そしたら2-3優勝間違いなし‼」


「……」

  

 沈黙があたりを包み込む。僕が答えなかったのもあるけど、雨宮ずっと沈黙を貫いていたためだ。


「仮に出るとしても、優勝できるか分かりませんよ」


「分かるよ」


 と、言い雨宮の方に視線をずらす、それでなるほど、と理解する。雨宮があの舞台に立てば、優勝も夢ではなくなる。立てるならの話だが……。


「雨宮、コンテスト出たいのか?」


 不意に、そう聞いてみたが横に首を振る。


「君は何をやっているのかな? 今の聞き方はダメでしょ‼」


 先輩の発言一つ一つは呆気にとられるものばかりだった。再びの沈黙が訪れたが、先輩の声によって打ち破られる。


「まぁ、いっか……」


 聞こえなくても言いと言うぐらいの大きさで、ぽつりと言う。俺は何がなんだか分からなかった。何を言っているんだ、と。


 そろそろ、時間も遅くなったために、お暇することにした。


「それでは、先輩。コンテストの方よろしくお願いします」

 

「OK‼」


 相変わらずの調子で答えてくれた。


「あっ、私、三年四組の高坂ね」


「俺、二年三組の神崎って言います」

 

 これで一安心として、次の仕事に当たる。

  

 次は自分のクラスのTシャツのデザイン、そして、コンテストに出る者をを決める。


「さて、行くか」


「うん」


 雨宮が口の端を上げ、若干、頬を染めながら、微笑んだことを俺は気づかなかった。


 雨空が続く中。雲に切れ目があり、そこから差し込む優しい日差し。"天使のはしご"とも言われるその日差しは、否が応でも見入ってしまう、幻想的な光景。それは、見る者を惹きつけ、見る者に希望を抱かせる。そんな光が辺りを照らす。

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