フロード その2
ゴブリン・コボルト・ハーピーの3種族連合の進軍開始から、レッドボアの群れに遭遇するまでは半刻とかからなかった。
思ったより状況が悪いね、と漏らしたのはハーピーの
情報では魔物はほぼレッドボアだけという話だった。つまりこの状況は、既に一度
「ミワシロ殿。ゴブリン部隊で包囲に風穴を開けます。援護願えますかな」と隊長。
「わかったワン。弓兵で一斉射撃するのでその間に突っ込んで欲しいワン」
ミワシロの言葉に
「ワンちゃんの弓兵はどうも精度が危ういのだけれど、少しは上達したのかい?」
「だ、大丈夫! 今回は的も大きい、いけるワン!」
「……リザードマンたちを誤射しないようにね?」
なんか過去にやらかしたのだろうか。
心配になる会話だったが、20名ほどのコボルトは危うげなく矢を番え天に放つ。
無事
「────ノルン、いまの見たワン!?」
「景気が良いじゃないか、見直したよミワシロ! こんなに上手くいくのは10回に1回あるかどうかだ!」
「ご、5回に1回はいけるワン! えーい、ハーピー族を見返してやるぞお前ら、第二射構ェエ! ワウ!」
────バウ!
コボルトたちの声とともに、再度数多の矢が飛翔する。
「では魔王さま、軽く蹴散らして参ります」
併せて、隊長がこちらに一礼した。
「気を付けてな。いや……こういう場合は御武運を、が適切か」
「
────オオオオォオオ!
凄まじい声量。空気を焼く熱気。
ゴブリンたちの鬨の声が地を揺るがす。
「ボクらハーピーは偵察を5、弓を10、各部隊への補助魔法係として5としよう。征きなさい、おまえたち!」
キュイイイ────鷹のような声とともにノルンたちハーピーが続く。
<
(これは、隊長に一杯食わされたか)
ハーピー達は明らかに翼を羽ばたかせ飛行してはいない。翼に値するはずの手を使い弓矢を操るハーピーがいる。ハーピーもまた<浮遊>か、それに近い魔術を使って飛行しているのだ。
隊長の言葉通り、確かに飛行しながら攻撃魔法を使用するハーピーは居ない。しかし飛行しながら補助魔術を使用する者は居るし、弓矢という強力な物理攻撃を有している。
(アレは戦意高揚のための方便、と取っておこう)
この戦場への参加が俺の利になっていることには変わりない。
……そうだな。
一日だけ俺に料理当番を譲ってもらうことで互いに貸し借りなしとするか。
「アヤト、私もそろそろ行く」
気付けばラピスが<浮遊>で浮いている俺を見上げている。
「ゴブリンたちとは行かなかったのか?」
「役割が違う。私は遊撃」
「なるほど」
一年前からして、投擲した短刀が木を爆砕するほどの威力。ラピスほどの火力を持っていると、屈強なゴブリン達のように並べて戦うより散兵としての運用をしたほうが効果が高いのだろう。
「俺がラピスに言えることじゃないが、気を付けてくれ」
「私は大丈夫。アンブロイドとの旅のほうが百倍は危険」
……どういう旅なんだ。
疑問に思っていると突然、ラピスから足首を掴まれ引き降ろされる。
「おわっ、な、なんだラピス?」
「なでる」
犬をモフるみたいにぐちゃぐちゃに撫でられた。
「充電完了」
「……よかったよ」
「アヤトも気を付けて。今のところ対空能力を持った魔物はいない。でも、これからは分からない」
「気を付けるよ」
「じゃあ、間引いてくる」
姿勢は低く、ラピスが駆けた。
あっという間に姿が小さくなってゆく。
さて、俺もただ浮いているだけという訳にはいかない。
ぼさぼさになった髪を直す。そろそろ、仕事をしなくては。
「アヤトは好かれてるねぇ」
頭上から稚気を帯びた声。
ハーピーの族長、ノルンだ。
「茶化すな。それより指示はちゃんとしてくれよ」
「仲間を吹き飛ばすのが怖いかい?」
「指示がなかったら手が滑ってノルンを撃ち落としそうなんだ」
「おお怖い、しかしコボルトの弓の数倍面白そうだ」
「お気に召したのなら幸いだ。まずはどうする?」
「<MP自動回復>の猶予を残しつつ、<浮遊>はどの高さまで使える?」
俺はノルンと同じ高さまで浮遊してから回答した。
「────この5倍の高さまでは」
「素晴らしい!快適な空の散歩を十二分に楽しめる高さだ。充分だよぉ」
ノルンが高度を上げていく。俺も続いた。
「さあさ新米魔王さま!互いの親睦を深める為にも撃ちっぱなしといこうじゃないか!」
獰猛な笑みに俺は首肯した。
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