幼少期編
破壊と再生
最近、目覚めが悪い。
朝が苦手という意味ではなくて、状況的な話。
この間は目覚めたら住んでる屋敷が燃えていた上、色んなヤツから殺されかけてヤバかった。その一つ前は目覚めたら神の御前に居て、コーヒー飲んだら銃殺された。
眠る(意識を失う)前と覚醒した時で場所が決定的に違うことが多すぎる。
加えて、その後待っているシュチュエーションがまた意味不明なのだ。こうなってしまうと目覚める度に周囲を警戒してしまう俺の事を、誰も責められないと思う。
今回も、目覚めた瞬間に俺がしたことは、周囲の警戒であった。
「……アウ?」
そうして目覚めた俺は、何故かお雛様かってくらい綺麗に着飾られていた。
そのうえ、
「「「「よくぞお目覚めになられました、魔王さま」」」」
俺の前に大量のゴブリンたちが、揃って平伏していた。
江戸幕府関係の時代劇とかで見る、殿様の前で大人数の家臣が頭を下げてる構図。
「……? …………????」
全然意味がわからない。
今回も、一から十まで意味不明なシュチュエーションだった。
◇◆
それから少なくとも一週間、俺は暖かな色調の木造の部屋にお雛様のように飾られつつ過ごしている。
ゴブリンに囲まれ最初は恐々としていた俺だが……黙ってたら食事(ミルクっぽいもの)は勝手に運ばれてくるし、言わなくても一瞬で
どうやら俺はゴブリンに崇められている。
赤ん坊が森で昏倒という死亡確定の状況から命を繋いだのは、実際コイツらの救助のお陰のようだ。俺に話しかけてくるときのゴブリンの言葉には、常に強い尊敬の色がある。「ひょっとして知恵なき者ほど強く大きなモノの偉大さがわかるってヤツ?」と三時間近く驕ったが、それは流石に自惚れすぎかもなと三時間後には気付いた。赤ん坊の身体では、非生産的であろうが妄想を逞しくするくらいしかやる事がないので許してほしい。きっと
で、本当の理由は俺のステータスにあった<魔王の因子>だ。
フォレストウルフと戦っていた時は余裕がなかったので気付きようがなかったが、ステータスは分からない箇所に注目することで理解を進めることが出来る。ゲームでもよくあるヘルプ機能、ほぼアレだ。違うとすればゲームだと
<魔王の因子>
この因子は所有者が魔王として覚醒する可能性を示し、以下の効果を持つ。
・魔物との言語相互理解(LvMAX)。
・魔族との関係にボーナス。友好関係を築きやすい。
・人間族をはじめとした一部種族からの好感度にペナルティ。敵対する。
・攻撃力・防御力の成長値にボーナス(中)。
・魔力・魔耐の成長値にボーナス(極大)。
・この因子は消去・譲渡ができない。
と言う訳でココでの生活は安定しそうなのだが、"人間族から嫌悪"の一文に思う所はある。このスキルの恩恵で生を繋げたことは事実だが、同時に死の危機に瀕したのも十中八九このスキルのせいだ。産まれた屋敷が焼けていた理由も、たぶん……
俺が最もありえないと思うのは、このスキルが認めざるを得ない自分の一部だということだ。呪われた装備とかとは訳が違う。"この因子は消去・譲渡ができない"の一文から推測するに他のスキルは消去・譲渡が出来る可能性があるようだが、この因子については出来ないと明言されている。つまり、俺は一生このスキルと付き合っていかなければならない。
しかもこの因子の性質上、人様の目には"厄介なスキルに憑かれた哀れな人"には見えない。"生まれついての極悪魔王"か、良くて"関わりたくない存在"、大抵は"イヤ、魔王だけは生理的にムリ。口も臭いし"みたいに映る。これはどう言い訳してもムダで、仮に俺が「違う!これは神とゴッドチンチロをした結果で」とか言い出そうものなら"<錯乱><精神異常>もついてない?あと口が臭い"と陰口を叩かれ終わるだけだ。
生まれる前からイバラ・ロードが約束された人生とは……。
(クソ神、ふざけんな!)
せめてもの抵抗で、心の中で精一杯の怒りを込めて罵倒した。
刹那、木造の部屋が白の光に染まった。
────ドッゴォォォォオオン!!
一瞬遅れて、豪音。
お次は、ゴブリンたちの喧騒が部屋の外から響いてくる。
「せ、戦術魔法か??」「違う、か、雷だ!」「雷が落ちたぞ!」「てっ、天罰か!?」「地面が抉れてやがる!」「ムラタの畑がメチャクチャだ!!」「メチャクチャどころじゃねえ、燃えてる!」「火だ!」「消火しろ!」「水!水はないのか!?」「どこかに汲み置きの水はないか!?」「あったよ!汲み置きの水が!」「でかした!」「ナカムラでかした!!」
いや、火事が起きなくてよかったよ。
……良かったが…………俺は、溜息とともに沈思黙考する。
雷は昔、神が鳴らすものとされてきた。ゆえに大和言葉として神鳴りなんて呼んだりもする。このように昔の人間の理解を越えている自然現象が、神と結び付けられることは何ら珍しくないし────俺はまだこの世界の文明レベルを把握していないが────もしこの世界が中世ファンタジー的な世界観なら、どこかに雷信仰をしている村があっても何もおかしくないだろうと思う。日本でも稲穂は雷に感光することで実るなんてデマもあったほどだ。何が言いたいかって?
(こんな分かりやすい神の怒り、あるか?)
神よ、どうかコーヒー淹れるような感覚で雷を落とさないで欲しい。
内心で繰り返し抗議していると、追うように水滴の音が鳴り始めた。
雨だ。
「こ、これは」「空から水!」「雨だ!」「め、恵みの雨だ!」「ここ最近降っていなかったのに」「ムラカミ、お前今年は雨が足らなくて畑キツいって言ってたけどコレなら……」「いやっほ────!雨だァ!!ムラカミに雨がきた!!ナイスムラカミだァァァ!!!」「ム、ムラカミ落ち着け!」「ナイスムラカミだァァァ────ッッ!」「落ち着け!」「ナイスム」「やめろ!」
雨音と一緒にまたもゴブリンたちの声が聞こえてきた。
ナイスムラカミで良かったよ。
……良かったが……何というあからさまな飴と鞭……。
ゴッドライクに例えるなら破壊と再生?
(いずれにせよあの神、ロクなもんじゃない)
いや、ホントに。
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