第六章 宝
☆宝探しゲーム☆
――ピーンポーンパーンポーン
『こちらは生徒会です。本日午前9時より、生徒会主催の高等部の宝探しゲームを開始します。学園内に隠されたお宝を探し当ててください。制限時間は今日の24時までです。繰り返します……』
という放送が学食で朝食を取っていた僕達の耳に入ってきた。
これは生徒会によるゲリライベントで、初等部、中等部、高等部でそれぞれ行われる。
そして、
『午前9時です。これより全学園宝探しゲームを開始します』
「よーし! じゃあ学園のお宝を探すぞー!」
『おー!』
僕達オカ研は円陣を組んで、亀有さんの掛け声に続いた。
僕は3階を探索していた。
3階は僕達2年の教室が並んでいて、今日のこのゲリライベントに参加している人達も何人かいた。
全ての机の中や掃除箱の中を隈無く探したのだが、まったくそれらしいのは見つからなかった。
「もう誰かに見つけられちゃったのかな……」
などと思いつつ、僕は次から次へと教室を渡り歩いた。
「ないなー。まあ、こんな簡単に見つけられる分けないよね」
そりゃあそうだ。去年のお宝の在り処は校長先生のカツラの中だったし、今年も凄く難しいだろう。
僕は2年10組の教室に入ったが、やはり特にこれと言って何もなかった。
「あれ? なんだこのへこみ」
しかし、僕はある異常に気付いた。
タイルが1ミリ程へこんでいたのだ。僕みたいに一つ一つの机の中を調べるために屈まないと気付かない程のものだ。
しかもそのへこみはこの一つだけではない。あちらにもこちらにも、幾つかある。
「これは一体……」
他の教室も注意して見てみたのだが、やはり10組だけにあのへこみは見られた。
僕達5人は一旦3階の2年10組に集合して、互いに報告を行うが、これと言って手掛かりになりそうな報告はない。
「じゃあ最後に僕から報告させてもらうよ。実はこの部屋のいくつかのタイルはへこんでいるんだ。例えば希望の足下とか」
僕の言葉にみんなは希望の足下のタイルを見つめる。
「ほ、ほんとだ!」
「おお、よく気づいたな。桜田、褒めてつかわすぞ」
「凄いです!」
「これはきっとお宝に関係あるな……」
「何も分からない!」
暫く10組内を調べてみたのだが、タイルのへこみに関することは一切分からなかった。
「きっと他の場所にこれのヒントが隠されているはずだ! 引き続き探索を続けるぞ!」
亀有さんはそう言って教室後にした。
ここら辺は物品の数も多いので、何かしらお宝に関するヒントやあのへこみについてのヒントが隠されているはずだ。頑張って探さないと……。
まずは第一地理教室。マンモス校だから同じ教室が全部で3つあって全て横並びになっている。
地理教室には大型の地形図や地球儀だけでなく、巨大なスクリーンや黒板もある。
だけど全くと言っていい程手掛かりになりそうなのはなかった。
続いて第二、第三と見ていくのだが、全く同じ作りをしている上に、結局何もなかった。お宝に繋がるものも、タイルのへこみに関することも。
物理教室、化学教室についても調べた。絶対何かありそうだったけど、結局これといったものはなかった。
そしてまた5人で集まって報告をし合う。
「これを見てくれ」
亀有さんはそう言って複雑な形をした六面体をテーブルの上に置いた。
「これはなんですか?」
「カラフル」
2人はそう言って六面体を四方から眺めた。
たしかになんだろう。謎の六面体はよく見ると立方体をしていて、なおかつ様々な色でできている。
「ルービックキューブだ」
亀有さんにそう言われると、僕達もそれがルービックキューブだと確信した。
「これはきっとヒントだな」
涼太は珍しく頭のキレがいい。的確にこれが何らかのヒントであることを見抜いた。
すると亀有さんはキューブの一部がないルービックキューブの面を揃え始めた。
だが亀有さんはすぐに手を止めて、テーブルに置いた。
「どうした? 何か分かったのか!?」
涼太は尋ねるが、
「こんなの無理だ! まず一面すら揃えられないのに六面なんて無理だ! しかもキューブがないからますます分からん!」
亀有さんは頭を抱えて絶望していた。
しかし、
「どれどれ、俺に貸してみろ」
涼太はおもむろにルービックキューブを手に取って全体を見渡した。
そして首と指をポキポキ鳴らして、
「とらぁー! こういうのは気合いでやって退けるんだ!」
『……』
僕達は沈黙した。何やってんだこのポンコツ!
そんな涼太の手から、亀有さんは無言でルービックキューブを奪い取ってそれを僕に向けながら、
「桜田はこういうのできないのか? クレーンゲームは得意だったろ?」
クレーンゲームが得意で、千葉にいた頃は毎日ゲームセンターに通って研究に明け暮れていたのが懐かしいな。
「ごめん。ルービックキューブはできないんだ」
「そうかそうか。つまり君はそんなやつなんだな」
いきなりのエーミール!? ヘルマン・ヘッセもびっくら仰天だよ!
「あれ? 何か落ちましたよ?」
真希はそう言ってかかんで落ちた何かを拾った。
「ッ!」
そしてそのとき、僕は目にしてしまった! 起伏のないぱいおつを! つまりはパイちらしてしまったのだ。てかなんでブラしとらんの!? 王様ゲームやったときはつけたたじゃん! 僕は心の中で真希に叫ぶ。
「鍵か?」
亀有さんはそんな僕を他所に、鍵を受け取り呟いた。
それをよく見てみると、鍵のヘッド(持ち手部分)にコーナーキューブ(ルービックキューブの角のキューブ)がくっついていた。
「そうみたいですね」
真希は鍵を不思議そうに見つめて言った。
「きっと何かのヒントに違いない!」
学生食堂内で、まだ夕方なのに飯を食っていたおデブ体型の男がいた。言わずもがな、番人である。
「よっす番人!」
涼太が気さくに話しかけた。
ラーメンをオカズに白米食べ、ソフトドリンクとしてカレーを飲んでいた番人はその手を止めて涼太の方をノッソリとクマのように見た。てか背中とか丸いし巨躯だからクマにしか見えない……。
「おお、仙人か。どうしたんだ?」
その声は脂肪で気道潰れている様な、篭った感じがする。
「今日のゲリライベントに関して、何か手がかりとかなかったかなって」
「ああ、それならご飯の食券の裏になんかよく分からん矢印が書かれてたな」
「矢印?」
「ああ、黒いペンで書かれていた」
番人は思い出す様にそう語った。
その言葉を聞くと一同「うーん」と頭を悩ませ、その謎を解決しようとする。
食券、矢印、食券、矢印……。食券、食券、食券、食券……。矢印、矢印、矢印、矢印……。
「ん!? 矢印ってことは方向があるんだよね」
「そりゃあそうだろ」
僕の当然過ぎる問いにあきれて答える亀有さん。
「一体矢印が何を指しているのか分からないです〜」
真希は両手の人差し指をこめかみに押しあててふにゃふにゃしている。
「むむむ……」
希望も無表情だが顎に手を当てて唸っていた。
矢印が一体何を示しているのかが分からない。
涼太に関しては券売機の方に涎を垂らしながら歩いて行って、コインを投入しているぞ。
――ピ
「ちょっと待って!」
僕は涼太が食券を取る前に呼び止めた。
「何だよ?」
「これも買って!?」
「は? 何で?」
「お願い!」
僕はそう言って涼太にメロンソーダを買ってもらった。
そして落ちている二つの食券を見て僕はその共通性に気付く。
「そうか!」
「何か分かったのか?」
亀有さん達はそんな僕の周りに集まる。
「番人が言っていたことだけじゃ、矢印がどこの向きを指しているのか分からない。でも食券は全て同じ向きに落ちてくるから、番人が交換した食券を見せて貰えばどの方向を指しているかが分かるんだ!」
「たしかにそうだな! やるな桜田!」
「冴えてますね!」
「凄い!」
「これは暗号か?」
亀有さんがそう言って仰天の目を向けるのはは、部室棟パソコン部の天井に吊るされた「〇―〇〇〇 〇〇〇― ――〇―〇 〇〇 ―― 〇〇―」と書かれたA4版の紙である。
矢印を追ってきたらここに着いたのだ。
「〇と―のところには同じ文字が入るんじゃねーか? いや、でも違うか」
自己解決する涼太。
「真希と希望は何だと思う?」
僕は2人に意見を求める。
「ん〜、なんだかさっぱりです」
「……分からない」
どうやら2人もお手上げみたいだね。たしかにこれはイミフ過ぎ。
20分程各々で考えていると、上の階から軽音部の練習音が聞こえてきた。きっと高文連も近いし、夕方練習を導入しているんだろう。
――タンタンタンタン! チャンチャンチャン! ドンドコドン!
ドラムの音が僕の鼓膜を細かく揺らした。
それ合わせて僕はテーブルで指をトントンと打つ。
すると、
「ああーぁぁぁあああああ!」
あまりに突拍子もなく希望が立ち上がって、大声を上げた。
「ッ! 急にびっくりするではないか! 叫ぶなら先にそう言ってくれ!」
いや、無茶でしょ!
「ごめん」
「それで何か分かったのか?」
亀有さんは希望に尋ねた。
それに頷き希望は起伏ない声で、
「トンツートントントン、トントントンツー、ツーツートンツートン、トントン、ツーツー、トントンツー」
なんかわけの分からんことを言い始めた。
「モールス信号か! それは思いつかなかった!」
「おおー! すげーな」
「希望凄〜い!」
亀有さん、涼太、真希、そして僕は揃って驚いた。
真希は希望の肩に手を置いてピョンピョン跳ねている。うさぎみたいだね。
亀有さんはスマホを取り出して、モールス信号について検索した。
「ええっと、これは……『お』で、これが『く』。これは『し』で〇〇は濁点だから『じ』。『よ』で最後は『う』だ。つまり――」
『屋上!』
僕達はエレベーターで屋上に移動する。
屋上は立ち入っては行けないという規則はないので自由に出入りすることができる。普段も何人かの生徒が屋上に来たりしている。
ソーラー発電機や風力発電機がたくさん並んでいるのは、この学園の電力の1割を自家発電で
全面が芝生な上に木が生えていて、割と立派な屋上庭園となっている。
そんな屋上からは野球部、サッカー部、ソフト部、陸上部などの外部活がそれぞれのグラウンドで練習に行っている様子が見える。ヒントになりそうなものは特にはないかな?
しかし、
「ん? なんだこのへこみ」
涼太が何かを発見したみたいだ。
「どうした赤羽」
亀有さんは涼太の目線の先にある壁に目をやった。
「何これ」
僕も見てみたが、壁には目測縦横8センチ、奥行4センチくらいのへこみがあった。
そしてそこには出っ張っているところがいくつかあった。
「何なんでしょうか、これ」
「なんか切れ込みもある」
真希は首を傾げて、希望はその周りにある円形の切れ込みをなぞっている。
『うーん』
僕達は一斉に唸る。
すると、
「あれー? 高等部のお兄さん方なの〜」
どこからともなくそんな間延びした声が聞こえてきた。
僕達はキョロキョロと辺りを見渡す。
すると、緑が生い茂る木の下のベンチに座るっている小さな女の子がいた。薄黄色のウェーブが掛かった髪の毛はツーサイドアップにまとめられている。可愛い。
制服のエンブレムは初等部のものだから初等部生だね。
初等部生が高等部の敷地に入ってきちゃいけないとか、そういう規則はないからなんの問題もないけど。
「どうしてそこにいるのかな?」
僕は優しく声を掛けてあげる。
「おさんぽなの〜」
少女はにこやかな言った。
「おさんぽかー。今日は天気もいいしね」
学園の生徒は敷地外に出なくても、敷地は非常に広いので運動はそこでこと足りる。
「でも、高等部にはおっかないお兄さんとかがいるから、危ないよ?」
僕達は少女に近寄る。
「そんなことないの〜。お兄さんお姉さんはみんな優しいの〜」
言葉に詰まってしまった。たしかにみんなすっごく優しいけど、中にはガチロリコン板橋とかいうヤバイやつもいらっしゃるからなぁ。
「そ、そっかぁ」
「ななねぇ、おかけん入りたいの〜! 初等部にはないから」
少女のその発言に僕達オカ研は『え!?』と声を揃えた。
「初等部におかけんのポスターがあるの。それで興味持ったの〜」
少女は立ち上がって僕達のところに駆け寄って来た。少女は真希と希望よりも更に小さい。中学年くらいだろうか。
「初等部のやつって高等部の部活に入れるのか?」
「駄目という決まりはない。まあ多分そういうやつはいないだろうけど」
涼太の呟くような問いかけに亀有さんはそう答える。
「だめなの?」
少女は僕達の中に入ってきて、つぶらな瞳で見上げてきた。
ヤバイ超可愛い!
「あたしはいいと思いますよ!」
「わたしも賛成」
「いいんじゃねーか?」
「うん。人数が多い方がきっと楽しくなるよ!」
僕達の意見を聞いて部長である亀有さんはノータイムで、
「では決定だな。君は今日からオカ研の一員だ」
「やったーなの〜! 嬉しい! ふひひ」
少女は無邪気に笑った。まったく、小学生は最高だぜ!! と、すばるんのネタを借りつつも。
「とりあえず、このイベントが終わったら椿先生のところに行って許可をとろう」
きっと椿先生なら「もっちろんよ!」って言って許可してくれる。
すると亀有さんは、
「ところで名前を教えてくれないか?」
「
さて、僕達も七海ちゃんに名前を教えて、それから宝探しを再開する。
さっきのへこみをオカ研6人で囲んで謎に頭を悩ませる。
「これ、ルービックキューブ入るかもなの〜」
七海ちゃんはそう言ってあのルービックキューブを持って穴にはめ込もうとした。
「入らないの〜」
身長が足りないからではない。単純に内部の突起に引っ掛かって入らないのだ。
「ちょっと貸してみてください」
真希はそう言って少女からルービックキューブを受け取り、キューブを移動させていく。希望も協力してやってるね。
そしてしばらくして、
「できました」
真希はそれを七海ちゃんに渡す。
七海ちゃんは受け取って再びルービックキューブをへこみにはめる。
そして右側に90度回転させた。
――ガチャ
どこかで鍵があいた音がした。
「あいたの〜」
七海ちゃんは嬉しそうだ。それを姉のように見守る真希と希望も笑顔だ。みんな可愛いっ!
しかし、壁に取り付けられた部分がドアではないようだ。
「どこかで鍵があいたみたいだな」
涼太はそう言い辺りを見渡した。
「みんなで手分けして探そう」
亀有さんの言葉で僕達は屋上の散策を開始した。
「なんかあるかも、取ってなの〜」
木の上に引っかかった何かしらを指さして七海ちゃんは僕にそう言った。
今は手分けてして屋上を捜索しているのだ。
しかし、僕が背伸びしても届かない位置にそれあった。
「しょうがない。七海ちゃん。肩車するから取ってくれる?」
「おっけーなの〜」
僕はしゃがみ、僕の肩の上に七海ちゃんが乗っかる。
羽みたいに軽くて、持っている感じがしない。
てか、それどころじゃない! 七海ちゃん! 最初見たときから思ってたけど、スカート短い過ぎませんかね!? 肩車したら超ミニスカートが全部めくれ上がって、左右を見ればそこにほっそりとした可愛らしい太ももがある状態ですよ!?
「もっと右なの〜。行き過ぎなの、左なの。前なの」
木に引っかかっているものは案外小さいらしいけど、指示に従うのが結構難しい。
「きゃっ!」
「あいててて」
細かな指示に従おうとした僕は、足を木の根に引っ掛けてバランスを崩し、倒れてしまった。
「お腹がスースーするの〜」
七海ちゃんの言葉がよく分からなかった。
だけど、
「ッ!」
「つっきー。そろそろ離れてなの〜」
一言で言ってヤバイ状況だ。
傍から見れば男子高校生が女子小学生の制服を脱がそうとしているようにしか見えないだろう。何故なら、僕のミギーが七海ちゃんの制服をずり上がらせて、ちっちゃな丘が見える寸前になっているからだ。
「ご、ごめん! 怪我ない!?」
僕はカエルやうさぎみたいに跳ね上がって七海ちゃんから離れる。
七海ちゃんは制服を整えて立ち上がって、
「ないの〜。つっきーこそ大丈夫?」
つぶらな碧眼で見上げてきた。
「うん、僕は全然大丈夫なんだ。それより七海ちゃん、痛いところとかない?」
「つっきー心配し過ぎなの。ななはもう中学年なんだから平気なの〜」
「そっか、でも、ごめんね」
すると木の上からさっき七海ちゃんが取ろうとしていたものが落ちてきた。
ひらりひらりと木の葉のように落ちてくるそれだが、色は白い。
「なんだろこれ」
僕は落ちてきた紙をキャッチして、呟いた。
「『開かずの間が開いた』?」
僕達は僕が色々あったけどなんとかてにいれた『開かずの間が開いた』と書かれた紙を手がかりに校舎の中に戻る。他のメンバーは何もヒントを得ることができなかったみたいだ。
七海ちゃんは初めて訪れる高等部の校舎に興味津々。そして高等部の生徒達は初等部の七海ちゃんに興味津々。
僕達は『開かずの間』を探して校舎内の捜索を開始する。
とりあえずガチロリコン板橋にだけは見つからないようにしないとな。
って言ってるそばからDの気配を近くで感じた。それほど強くないからセカンドGの傘下のやつだね。
「桜田、赤羽。感じるな?」
「うん」
「ああ」
亀有さんと僕と涼太は頷き合ってロリっ子3人を見えないようにして探索をする。
「コォーラァーッ!」
突然の怒号に僕達は弾かれた。
『爺さん目白!』
七海ちゃん以外の5人は声を揃えて叫んだ。七海ちゃん目白さんを怯えたように見つめている。
「初等部の生徒を連れてくるなと言っただろうォッ!」
今度こそはガチものの初等部生だ。エンブレムも初等部のものだし、誤魔化し切れない。
「ヒック、ヒック」
激昴中の爺さん目白を
きっともう中学年(さっき4年生だって教えてもらった)だからってので大人っぽくなりたがっているんだろうね。僕もそうだった気がするよ。
「デュフ、デュフフフフ」
そんな声が聞こえたときには時既に遅し。僕達はガチロリコンズに囲まれていた!
どうやらまだ板橋はいないようだが、目測で10人程度。これはかなりヤバイ。危機的状況。
「クッ! 囲まれたか……」
亀有さんは歯噛みして言い、言葉を継ぐ。
「赤羽、ゲイーズは!」
「駄目だ! 今日はボディービルの大会があるんだ!」
ガチロリコンズはデュフデュフ言って距離を詰めてくるし、目白さんはこのことには無関心で、周りの生徒は続々とこの場を後にしていくので、非常に困る。
それにうちのボディービル部は強豪だから、誰一人学園に残っていない。絶望的だ!
真希と希望はガチロリコンズを見てビクビクと震えて、僕、亀有さん、涼太のトリニティーウォールの後ろに隠れる。七海ちゃんはほぇ? って顔して周りを見渡していたから、亀有さんが壁の中にささっと隠した。
「赤羽! 属性を変化させろ!」
亀有さんが思いついたように涼太に提案した。
「は? 何言ってんだよ?」
「お前はファーストG・学食の仙人ということだ大食い属性だが、今はゲイ属性になるんだ! そうしたらこいつらに打ち勝てる!」
「馬鹿言ってんじゃねー! んなのするかよ!」
「じゃあどうするって言うんだ! こいつらは板橋程ではないがロリパワーを持っている。私達の攻撃は効かないんだぞ!」
「無理なものは無理だ! 属性転換なんてやり方知らねーし!」
涼太は大声で言った。
「えーい! 爺さん目白! 私達に協力してくれ!」
亀有さんは目を閉じて佇む老人に助けを求めた。
しかし、
「風紀を乱すものに口なしァーし!」
カッ! と、目を開けて叫んだ。
別にこんなんで風紀は乱れないんじゃないんでしょうか? いやでも、僕達高等部生が初等部生を連れ回していると思われても仕方ないよね。
「赤羽! 指からビームは出せないのか!?」
「それはオカルト人狼ゲームの設定だッ!」
珍しくボケとツッコミが逆転していることに感嘆している暇などないね。
「お前こそ出せよ! 戦闘力53万なんだろ!?」
「デスビームか? よかろう。80パーセントのオレを見せてやろう」
なんか色々混ざってるよ!?
「って出せるかボケ!」
「コントやってる場合じゃないって!」
僕は2人に叱るように言う。
すると、亀有さんは、
「あ、そこに幼女が!」
と、叫んだ。
それと同時にガチロリコンズ達が亀有さんが指さした方向を見る。
「逃げるぞ!」
その間に僕達は全力ダッシュでこの場から逃げる。
後ろを振り向いたらガチロリコンズ達が懸命に手足を振って追いかけてきていた。
なんとか逃げ切った僕達は階段の踊り場の陰で息を整えていた。
「……何か変」
希望はそう言って四つん這いになって絨毯を見つめている。
ッ! その姿勢はアカンって!
希望の、その……太ももがッ! 結構広い範囲見えてるよッ! スカートが短いんだよッ!
なんで女子ってスカート短くするんだろう。七海ちゃんもそうだったし、希望も真希も、亀有さんもみーんな短過ぎッ! これこそ風紀を乱しているんじゃないかな?
「どうした?」
亀有さんは尋ねた。
「ここだけ絨毯の色が微妙に違う」
言われてみないと気づかないくらいだが、たしかに微妙に色が違っていた。
「不思議ですね」
「なんだこれ」
「??」
真希も涼太も七海ちゃんも頭上にクエスチョンマークを浮かべている。
僕は壁にもたれ掛かって立ち上が――
「――えッ!」
今までみんなが写っていた僕の目に、何故か天井が写った。
一瞬何ごとかと思ったけど、すぐに何が起こったか理解できた。
壁かと思っていたが、扉だったんだ。
「大丈夫か?」
「ですか?」
「じょうぶ?」
亀有さん、真希、希望は心配してくれた。
「なんか機械がいっぱいなの〜」
七海ちゃんはそう言って薄暗い部屋の奥の方を指さした。
「電気室……」
涼太がその部屋の標札を読み上げた。
そう、ここはこの学園の高等部全体の電力の中央制御室だったのだ。
「しかし何故ドアが空いていたんだ。こんな大事な部屋なら施錠しているのが当然だが……」
亀有さんは顎に手を当てていたが、すぐに、
「ああ、屋上のアレが鍵だったんだな。きっとそうだ」
亀有さんはそう言いながら中へ入って行った。
すると、その中に一つだけ異質な機械が置いてあった。
それが何なのかは分からないが、何かの装置であることは間違いない。
亀有さんはその機械のノブを握って扉を開こうとするが、
「鍵が掛かっているな」
だが、ポケットからヘッドにコーナーキューブが取り付けられた鍵を取り出し、鍵穴に差し込んで回した。
解錠音が聞こえると、亀有さんは扉を開いた。
そしてそこには小さな正方形が16✕16の形で並んでいた。また、それの一部はへこんでいる。
「これって10組のタイルに関係あるんじゃないでしょうか?」
僕も真希と同感だ。
「そうだな。これは押せばいいのか?」
亀有さんはその一つのボタンを押すと、その部分はへこみ、しかし違うところが浮き上がってきた。
「なるほど」
亀有さんは一つそう言って黙々とボタンを押し続ける。
そして5分が経つか経たないかしたとき、
「できたぞ。これで10組に何か変化が起きているはずだ」
そう言って僕達に清々しい顔を向けてきた。
一体何をしたのかよく分からなけど。とにかくすごい!
2年10組教室にやって来た。
一見何も変わりはないようだが、
「へこんでいるタイルがない」
「いや、正確には全てへこんだんだ」
亀有さんは僕の間違った認識を正してくれた。
それから、全員で10組内を探索を開始した。
しばらくして、
「あれ〜? なんかあるの〜」
そんな七海ちゃんの高い声が聞こえてきた。
僕達は七海ちゃんのいるサイド黒板の元に集まる。
なんとそこには、壁と床境目ギリギリのところに光るものがあった。
七海ちゃんはそれを手に取って僕達に見せてきた。それは小さな小さな鍵だった。床が低くなったことで見つけられたんだ。
「でかしたぞ七海! えらいえらい」
亀有さんはそう言って七海ちゃんの頭を撫でてあげている。七海ちゃんはすっごく嬉しそうな顔をしている。やっぱりまだ子供なんだね。可愛い。
ひとつ言うとしたら、スカートもっと長くして欲しいな。色々とそーゆー格好危ないからね。
僕達は衝撃を受けていた。
「まさか学校にこんなところがあるとは……」
そう、
『地下室!?』
この学園に通って約一年。僕はこのことを知らなかった。
僕達は10組で鍵を見つけたあと、電気室の近くの希望が見つけたあの色の違う絨毯のところに訪れた。そしてその絨毯をめくったところ、金属製の蓋があったのだ。そこで鍵を使うと、地下に降りるための梯子があった。梯子の下は明るいみたいで、光が漏れ出している。
「きっとこの下に宝が隠されているはずだ」
亀有さんはそう言っていち早く梯子を降りて行った。それに僕達も続く。
「って、ヤッベ!」
僕は高所恐怖症なので下は向けないから、上を向いていたのだが、そしたら七海ちゃんの可愛い可愛いクマちゃんパンツが見えちゃった!
だからと言って下を向けばきっと死ぬから、僕は渋々上を向き続ける。
クマといえは番人。そうだ、あのクマは番人なんだ!
とか思って気を紛らわせようとしたけど、それだったらあのクマちゃんとそのパンツを履いている七海ちゃんに失礼過ぎるので、横を向くことにした。最初からそうしてろよ! ってね。
全員が再び床を踏んだのは1分程降りた頃だった。
「な、なんだここは!?」
そこにはここが学園の地下であることを忘れさせるような広大な空間が広がっていた。
キョロキョロする僕達に、
「こんにちはオカ研皆さん」
突然そんな声が聞こえてきた。
声の主を探すが、なかなか見当たらなかったが、更に声は続いた。
「ようこそ、決戦のフィールドへ!」
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