第五章 オカルトゲーム②

 ☆オカルト人狼ゲーム☆



「処刑されたプレイヤーは……な、何だと!?」

 僕達オカ研はオカルト人狼ゲームをしていた。を付けないと亀有さんにおこられますよ。もちろん普通の人狼ゲームではない。

 亀有さんは仰天していた。それもそのはずだ。

「ひひひ! どうしたランチー? なに驚いてるんだ!?」

 涼太は高笑いした。

「クッ! 貴様、まさか……」

「な、何!? 何が起こったの!?」

 亀有さんはスマホを驚愕の目で見つめ、真希と希望は涼太と亀有さんを交互に視線を向けていた。

「そうだ。そのまさかだランチー! 俺は――」

「貴様は――」

「「――TKG!」」

 TKGそれはこのオカルト人狼ゲームで最大の権力を握る存在である。

「卵かけご飯ですか?」

「おいしい?」

 2人は首を傾げているが、そんな可愛らしいものではない。もっと恐ろしき存在である。

「トランスキラージーニアス・入神状態殺人天才だよ」

 読んで字のごとく、TKGは神技的殺人を可能とした天才である。つまりは人狼よりも強力な、最も恐ろしい存在だ。

 TKGは市民に処刑された時に復讐者(アヴェンジャー)として、市民チームでも人狼チームでもない特別なチームに所属することになる。

「涼太さんは山奥の屋敷に移動します」



 TKG討伐部隊隊長である真希は騎士20人程を連れて山に出発した。

「来た! ビックマ!」

 希望は剣を大きいクマ・ビックマに向けて注意喚起をした。

 TKGの住まう屋敷に向かう道中で敵にでくわしたのだ。

 少数精鋭の希望隊に掛かればこの程度は造作でもない。

「バーバ馬場、パリピポ、脚を!」

「了解した!」

「任せてください!」

 希望がそう言うと、バーバ馬場とパリピポはビックマに走っていって、剣でアキレス腱を切った。

 ビックマが前方に倒れたのを見ると、希望は大ジャンプし、落下のエネルギーを利用して剣でビックマを一刀両断した。

 大量の血が吹き出て希望の白いツインテールを染めてく。

 そして希望はポケットから布を取り出して剣についた血を拭き取っていく。

「隊長! お怪我はございませんか?」

 バーバ馬場は心配そうに希望に駆け寄った。

 希望は冷淡に、

「心配は無用。さっさと進む」

 そう言って鞘に剣を収めた。



 その頃、市内では市長の僕と魔法使いの真希、の亀有さんが会議をしていた。

 魔法使いである真希が占いをしたところ、亀有さんが人狼であることが分かった。

 普通ならば処刑をするのだが、僕達はそうしなかった。いや、むしろする必要がなかったのだ。

 何故なら亀有さんは人狼になることができないからである。

 二日目の夜、人狼は市民達を殺そうとしたが、魔法使いである真希とのバトルに敗れ、人狼の権限を封印されたのだ。

 そして敵はTKG・トランスキラージーニアスの涼太だけになった。

「希望隊の方はどうなっている?」

「今朝の伝書鳩ではあと3日で屋敷まで着くみたいだよ」

 亀有さんの問いかけに僕はそう答える。

「でもたったあの人数で何とかなるんですか?」

 真希は首を傾げて聞いてきた。

「彼らはこの国最強の部隊なんだよ。君も知っているでしょ? あのヤマタノオロチが襲撃してきたとき、撃退したのは彼らで、しかも死者は0人だった」

「そう言えばそうでしたね」

 このネタは前回(真希と希望が来る前)やったときのものを継承している。

 そのとき椿先生率いるTKG討伐部隊がTKGだった番人をひねり潰していた。

 今は椿先生が希望に変わっているだけで、他のメンバーは変わらないし、希望も椿先生に負けず劣らぬ実力者なので、なんの心配もない。

「当初は隣国からの騎士ということで、国内は不安に満ちていたけど、今ではもう頼みの綱だよ」

 僕は言葉を継ぐ。

「とりあえず、今回の作戦も無事に成功するさ」



「番人! お前のかたきは絶対に取ってやる!」

 涼太は先代TKGである番人の遺影に牛丼を手向(たむ)けながらそう言った。

「涼太様。召喚の準備ができました」

 手下の1人の言葉に、涼太は遺影に背を向けて、

「これで奴が呼び出せるというのか……」



 屋敷到着まで残り2日。

「ハーッ!」

 希望は返り血を拭かないので、白い髪の毛がどんどん赤黒く染まっていく。

 副隊長であるバーバ馬場や戦闘力では希望の次につくパリピポですら、希望の冷淡かつ戦闘以外には無関心な態度に近づき難く感じていた。

 なのだが、

「キャッ!」

 希望は小石に躓いてすってんころりん。

「い、痛い……」

 鎧は着ているが、転んだ衝撃で身体を強く打った。

「大丈夫ですか?」

「少し休憩を……」

 バーバ馬場とパリピポは希望を起き上がらせた。

「いや、進む」

 しかし、希望は先を急いだ。



「今日も市内は平和だなー」

 僕は窓から市内を一望する。

「みんな笑顔ですね」

「フハハハハ。つい先日私が襲撃してきたことなんぞ忘れたかのようだな」

 たしかに人類は非常に順応性が高い。というかむしろ過去のことをすぐに綺麗さっぱり忘れてしまう。

 きっとヤマタノオロチのことを覚えている人の方が少ないであろう。でも逆にそこが美点なのかもしれないんだけどね。



「あなたが私のマスターか?」

 召喚獣サーヴァントが涼太にそう尋ねた。

「そうだとも。俺がお前のマスターだ」

 涼太は右手の令呪をサーヴァントに見せつけた。

「マスターよ。我にエネルギーを寄越せ」

「分かった。おい、あれを持ってこい」

 涼太が部下に指示すると、すぐに部下は涼太にブツを渡す。

「ほら」

「デュフ。デュフフフフ。マズダーわがっでいるでばないが。デュフフ。ぞうだごれだよごれ。だべだいだべだい。ロリはだべもの。おいじい。べろべろじだい。デュフフフフ!」

 そう、彼は英霊・ガチロリコン板橋である。クラスはもちろんバーサーカー。

「そうか。気に入って貰えたら嬉しい。来たる戦いに向けて備えておいてくれ。それと、敵の長はロリだ。お前が他こ騎士を殺して、ロリ騎士を拘束できれば、この俺がそのロリ騎士と結婚することを許してやろう」

「ぞ、ぞればぼんどうが!? デュフ。デュフフ」

「本当だ。だが油断はするなよ。なんつってもあそこの二代目隊長だからな。先代TKGを殺したあの隊長にも匹敵する実力だそうだぞ」

「ご心配なさらず」

 サーヴァント・ガチロリコン板橋はにやりと笑った。



 希望率いるTKG討伐部隊は遂に屋敷に到着した。

「これより侵入を開始する」

 希望に続いて彼らは屋敷に侵入する。

 涼太のいる大広間に行くまでの間、様々なトラップやモンスターが現れたが、彼らにかかればザコ敵だ。

 一瞬のうちにTKG討伐部隊は大広間に辿り着いた。

「涼太! 出て来い!」

 希望は叫んだ。

「やあ、よく来た希望! だがすぐに天国へ行ってもらおう!」

 涼太が指をパチンと鳴らすと、

「デュフフ。デュフフフフ」

 部屋の奥から忌わしき声が聞こえてきた。

 希望は首を傾げているが、すぐにその正体に気付いて絶句した。

「デュフフ。久じぶりだね。あいがわらずおいじぞうだ。まずだー、だべでいい?」

「キ、キモち悪い……」 

 希望は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「デュホホ! ぞのがおもがわいいね!」

「バーバ馬場! パリピポ! やっちゃって!」

「了解!」

「おまかせあれ!」

 2人は飛び出して行った。

「無駄無駄無駄無駄! おでのまえにロリがいるがぎりおではまげない! じんじゃえ!」

 それにガチロリコン板橋は床を思い切り蹴った。

 すると地面から細長い円錐が現れ、2人を攻撃する。2人は持ち前の反射神経でそれを次々と避ける。

「よげるな! ばやぐじんじまえ!」

 そう言ってよりたくさんの円錐を出現させ、2人の剣を弾き飛ばした。

「バーバ馬場! パリピポ!」

 希望は2人を心配して叫んだ。

「隊長後ろ!」

 希望は振り返ったが時既に遅し。

「キャッ! な、何!? ニュルニュルで気持ち悪い……!」

「デュフフフフ! どうだおでのざいぎょうのじょぐじゅば! デュッフリ……」

 地面から触手が出現して希望を拘束してしたのだ。

「ヌメヌメしてて、ドロっとしてて気持ち悪い……。それになんか張り付いてくるし……くしゃい」

 希望は触手に捕えられて全く動くことができない。

「いやん! ちょっと変なところしゃわりゃないでぇー!」

「デュフデュフデュフデュフデュフデュフデュッフー!」

 ガチロリコン板橋は手をワキワキさせて希望に近付いていく。

「こ、来ないで!」

『隊長!』

 すると別の隊員達がガチロリコン板橋に攻撃を開始した。

 剣による斬撃、ボウガンによる射撃、ハンマーによる打撃をするものの、ガチロリコン板橋はびくともしない。頭に命中しても一切怯まない。

 そう、これはバーサーカー・ガチロリコン板橋の第一宝具・ロリパワーEXである。

 これは目の前にロリがいると不死身になり、あらゆる攻撃を無効化。更には自身の攻撃力を格段に上昇させるのだ。つまり今の板橋は最強。

 対処方法としては目の前から一番の戦力である希望を取り除くこと。しかし、それはTKG討伐部隊にとっては不可能なのだ。

 絶対絶命……。

 そんなとき、

「私の可愛い獲物を奪うんじゃねーよォ! くそやろォー!」

 図太い声が屋敷内に響いた。

「お、お前! 何故市民側に付いているんだ!」

 涼太はその声の主に叫んだ。

「んなの知るかよ。とりあえずガチロリコン板橋! 希望を離せ!」

「でぎるが! ぜっがぐづがまえだのだ! ごればぼぐのものだ! ぼぐががえっでゆっぐりだべるんだ!」

 板橋は声の主の下から円錐を幾つも出現させる。

 しかしはヒラリヒラリと踊るように躱していく。

「貴様! 人狼の力は封印されたはずだぞ!」

 涼太は聞いた。

「人狼の力なんぞ使っておらん」

「なんだと!?」

 涼太は愕然として数歩後ずさった。

「もう一度問う、キモス、さっさと希望を離せ!」

「デュハハハハ! ばなざない! ぜっだいばなざない! だべる! ぜっだいにだべる!」

「そうか。分かった」

 亀有さんは呆れたように言い、

「では殺す!」

 地面を蹴って板橋に近づき、その頭を思い切り蹴った。

 それにより板橋の頭を半回転。

「ロリ見えない! どごロリ! ああ、ああああああああ!」

 板橋は発狂したが、すぐに自分の頭が後ろを見ていることに気付くと、両手で頭を持って、グルン! 頭を元の位置に戻した。

「クッ! やはり人狼の力がなくてはここまでか……」

 亀有さんは歯噛みして希望を襲おうとする板橋を睨んだ。

 触手の数はどんどん増えていき、希望の姿が見えなくなってしまった。

「あいつらはまだなのかッ!」

「ランチー、君はまさか応援でも呼んだのかい? 愚かだ。愚か過ぎて笑えてくるよ……。やっちゃえ! バーサーカー!」

 板橋は触手を伸ばして希望を自分の元に近付けた。

「やめろー!」

 板橋は触手に包まれた希望を剥き出して、クンカクンカ。

「ああ! いい匂い! スーハースーハー。ヨダレがででぎだ!」

 そしてそのヨダレは意識を失っている希望の顔にべっちゃり。

 亀有さんは窓の向こうの月を眺めた。しかし、月は雲の向こうだ。

「あと五分間、私達のだけで耐え抜いてやる!」

 亀有さんはそう決意し、触手に攻撃を開始する。



 ロリパワーEXの効果は非常に強く、効いている気配すら感じられない。

 しかし、板橋は亀有さんの攻撃に対処するために希望から気を散らす。なんとか足止めにはなっているようだ。

 5分間という短いようで長い攻防の後、亀有さんは攻撃を中止し、窓の向こうのを仰ぎ見た。

「フハハハハ!」

「しまった!」

 亀有さんの目が一瞬で赤色に変わり、身体には血管が浮き出たように赤い筋が何本も現れた。

「グハハハハ!」

 亀有さんが声高に大笑いし、ガチロリコン板橋の触手を再度攻撃。

 すると触手は次々と千切れていく。

「だ、だにッ!」

「ど、どうしてだ! バーサーカーの宝具・ロリパワーEXはただの人間に――」

「ただの人間じゃねェーんだよなそれが……。人狼なんだよなァ!」

「何故だ! お前の力はもう消えたはず!」

「何故だと聞きたいのはこっちだ……。どうしてお前が私と同等に戦えると思っているんだ。たかが能力が、人狼をなめてんじゃねェーぞ!」

 亀有さんがそう言うと、

 ――バリン!

 窓が割れて火球が飛んできて、亀有さんの後ろに迫っていた円錐の形をした触手に激突。それにより触手は怯む。

「蘭! お待たせです!」

「亀有さん、怪我はない!?」

 真希と僕は窓から屋敷に侵入して尋ねた。

「遅かったな」

「はぁ〜ぁあい!」

 その声に板橋と涼太は愕然とした。

「こ、この声は……。嘘だ! 貴様は以前の戦いのときに死んだはず!」

「いやーぁあねぇえ! この男の子に直してもらったのよ!」

「あたしは女です!」

 真希は隣に佇む色黒ゴリマッチョ男を睨みながら薄い胸を張った。

「またまたー、冗談がきついわ。とりあえず、やっつけちゃいましょ!」

 ゲイーズ青戸は肩に抱えていた僕と真希を下ろし、指と首をポキポキ鳴らして板橋と涼太に近付く。

「その戦い、オレも混ぜてくれ」

「せ、先代!?」

「やあ仙人」

 そしてこの空間にまた一つ、巨大質量が現れた。

 初代トランスキラージーニアスの学食の番人である。

「生きていたのか!?」

「仙人、お前が毎日欠かさず、俺の大好物だった牛丼をお供えしてくれたからだよ。食べ物の力がオレを蘇らせたのさ」

 突然の番人の登場に家来達も驚きを隠し切れないようだが、更に驚くべきが……、

「やっほ! みんな!」

『つ、椿先生!?』

 元TKG討伐部隊隊長・現防衛大臣の馬込クリスティーヌ椿が現れたのだ。

「どうしてここに!?」

 僕は尋ねた。

「いやー、たまたま通りすがったんだよ! それでなんか騒がしいことになっていたから来たの。そしたら案の定楽しいことしていたから寄ってみたってことよ!」

 椿先生は楽しげにそう言って腰の鞘から細身の剣を取り出した。



 何故僕達がTKGの屋敷にいるか。

 それは昨日涼太がガチロリコン板橋を召喚したのを、魔法使いの真希が察知したからだ。

 しかしここは市内から徒歩で4日かかる。

 だが、その道中にはゲイの部族・ゲイーズがいる。彼らの長であるゲイーズ青戸の走力は地上で最強。4日かかる道を1日で駆け抜けてきたのだ。ちなみに亀有さんは他の人狼仲間の手助けを得て、僕達より少し早く到着したみたいだ。

「ハーッ!」

 ゲイーズ青戸が一度その拳を振るえばその度に触手は多大なダメージを受けて動かなくなる。さすが国内のボディービル大会優勝者だ。

 ガチロリコン板橋の宝具・ロリパワーを完全に無効化できる効果を持っているのはゲイーズ青戸のみなので、ここは任せよう。

 元最強騎士の椿先生は因縁の相手である番人と半年ぶりの対決をしている。

 人狼の力を一時的に取り戻した亀有さんはトランスキラージーニアスの涼太を相手取る。

 こちら側の軍勢に回復魔法を掛けて援護している真希も一生懸命頑張っている。

 何もしていないのは僕だけ。

 たかが市長の僕は結局何もできない。どうせ役立たずなんだ……。みんな頑張ってるのにただ見守るだけなんて情けなさ過ぎる。何か出来ることを探そう。

 そう思ったとき、隣で真希が巨大な火球を作っていた。

「真希! そんな大きいのは君に負担が掛かってしまうよ!」

「いいんです! 妹を守るためだったら、あたしの命なんて惜しくないです! 万物燃やせし地獄の業火トリニティーコロナ!」

 僕の静止も聞かず、真希はその火球を触手に放った。

 触手は超高温に耐えられず、力を緩めて希望を離した。

 ゲイーズ青戸は落下する希望をキャッチして、超ジャンプで僕達の元にやって来て、

「アンタやるわねぇえ! 見直したわ!」

 そう言って僕に、なんか臭くて白濁の粘液がべっとり付着した希望を渡してきた。

「これで心置きなく戦えるわね。ちょっと暴れてきてもいいかしら? イツキ君」

 ゲイーズ青戸は胸の前で拳と拳を叩き合わせて言った。わぁ! 今空気が震えた!

「うん、任せたよ」

「じゃあ、その男の娘達を頼んだわよ!」

 青戸は地面を蹴って板橋に接近し、その頬を思いっきり殴った。

 目の前にロリがいない板橋は、宝具・ロリパワーEXを使えないので、ただのロリコンに過ぎない。それに青戸の攻撃力もより一層強くなっているので、板橋は絶大なダメージを負っていく。

全筋肉使用威力増強鉄拳ロリコンスマッシュ!」

 青戸は体制を地面に付くぐらい低くして、それから起き上がる力を利用して板橋の腹にアッパーを決める。

「ぐふぉあ!」

 板橋は吐血し、10mほど向こうにぶっ飛んでいった。

 つ、強い……これがゲイーズ青戸の力なのか……?

「お、おではまだまげでない!!」

 しかし、板橋はヨロヨロと立ち上がって、

「第二宝具! 我が親愛なる友グレイテストテンタクルス!」

 天を仰いで叫んだ。

 すると板橋の目の前の床から無数の触手が出てきて青戸に一直線。

 見ていた僕と真希は目を伏せた。

 しかし、

「ハァーッ!」

 ――ダンッ!

「甘いわねぇえ!」

 青戸は平然と屹立していた。

 そう、床に全筋肉使用威力増強鉄拳ロリコンスマッシュをして目の前地面を隆起させてあの攻撃を防いだのだ。

 な、なんていう馬鹿力なんだ。熊とかゴリラとかにも勝てるんじゃないか。

 ゲイーズ青戸の人間離れした力に、口をポッカリ開けていたが、すぐに目も見開かれることとなる。

 青戸は自ら隆起させた地面の壁を発勁はっけい一つでぶち壊し、怯える板橋に瞬間移動的に接近し、その胸座を掴んだ。

「や、やめろぉおおお!」

「少し大人しくなりなさい……」

 青戸は小さな声でそう言って、ガチロリコン板橋の額に軽くデコピンをした。まあ青戸の軽くだから常人の何倍も強いけど。この前エアーデコピンしてもらったらソニックブームが聞こえたよ。

 板橋は気を失って泥のように倒れた。

 それと同時に希望は僕の腕の中で目を覚ました。

「い、樹君……。わ、わたし、触手に……」

 僕が希望を床に下ろしてあげると、

「希望!」

 真希は叫んで希望に抱きついた。

「真希……」

 希望も真希をギュッ。

「怖かった……。臭かった……。キモかった……」

「ごめんね一人にしちゃって!」

 2人の感動の再開だね。

 でもそんな感慨に浸っている場合ではない。

「希望! すぐに戦える?」

「うん、何とか……」

 希望はそう言って鞘から剣を抜き出した。

「蘭、遅れた」

「いいっての」

 希望は剣を番人に向けて亀有さんの隣に立った。

「雑魚騎士が2人になったところで、所詮雑魚は雑魚だ」

 TKG涼太はそう言って2人に人差し指を向ける。

 すると指先から光線が発射された。

 2人は何とか避けるが、光線が着地した部分が爆発したので、爆風に巻き込まれて宙を舞った。

 しかし、2人は何とか体制を立て直した。

「希望は右から! 私は左から行くから!」

「はい!」

 亀有さんと希望は二手に分かれて涼太に接近する。

 涼太は両手の人差し指で2人を狙ったが、亀有さんの方には光線を放たなかった。希望は体制を低くして光線を避けた。

 すると亀有さんは狼に変身して超速で近付いて、涼太の首筋に噛み付こうとする。

 しかし、

体重制限グラビティーリミット!」

「何ッ!」

 涼太の呪文により、目の前にバリアーが張られ、亀有さんはそこ以上先に進めなくなった。

 涼太の体重制限グラビティーリミットは体重100kg以下の敵を寄せ付けないものなので、ここにいる味方では誰も近づけない。

 絶対絶命だ! だが考えることを放棄したら負けてしまう。考えろ、考えるんだ僕!

 涼太が亀有さんに光線を撃たなかったのは、きっと何かのヒントだ。

 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……。

 僕は亀有さんの方を向く。そしてハッとした。

 ――鏡だ!

 巨大な鏡がそこにはあったのだ。

 あの光線はあくまでも光。だから反射するものに向かっては撃てないのだ。もし自分や番人に当たれば自滅になるから。

 そしてこの状況を打開できる唯一の方法は反射した光線を涼太に当てることだ。

 そしたらまた体重制限グラビティーリミットの効果を受けるのではないかと思われるが、光には重さがない(光速度不変の原理より)。つまりその効果を一切受けないのだ。

 希望の剣は非常に鏡のように輝いている。だから放たれた光線を剣に当てて涼太に跳ね返せば勝てる!

 だがこのことをどう伝えればいいのだろうか。今も亀有さんと希望は懸命に光線を避けている。

「希望! 今度は左に避けて、次は上! 下!」

「何をしてるの?」

 ブツブツ呟いている真希に僕は尋ねた。

「希望に指示を出しています。もう一回下!」

 僕はピンときた。

「真希!」

「何ですか! 今忙しいです!」

「勝てる方法が見つかったんだ」

「え!?」

「細かく説明している時間がない。単刀直入に言うね。希望にこう伝えて欲しい。光線を剣で反射させて涼太に当てろ、って」

「わ、分かりました!」

 真希はまたブツブツと呟いて、暫くすると、希望は剣を縦に構えて光線を受けた。

 すると案の定光線は一直線に涼太の心臓を射抜いた。

「な、なん……だと?」

 希望の行動に亀有さんとゲイーズ青戸は驚いた。

「この俺が、負けただと?」

「赤羽、貴様は馬鹿が故に負けたんだ」

 人間の姿に戻った亀有さんは涼太にそう言った。いや、でもまあ光速度不変の原理知ってる人ってあんまりいないと思うけど。

 涼太は心臓を抑えたままバタリと倒れた。

「キャッ!」

 突然そんな声が聞こえたと思えば、椿先生が飛んで来ていた。

 僕と真希は驚いて叫んだ。

「「先生!」」

 元世界最強の騎士である椿先生が、番人の力ある一撃を食らったのだ。

 それをゲイーズ青戸がキャッチしてくれたので、僕達も椿先生も怪我はなかった。

「大丈夫?」

「怪我はないか?」

 希望と亀有さんは駆け寄ってきて尋ねた。

「ええ、心配してくれてありがとう。でもただ飛ばされただけだわ」

 とだけ答える。

「そんなことより。アオちゃん、燕を!」

「オンナの言うことを聞くのは不本意だけど、今回だけは特別よぉお!」

 青戸は椿先生を片手で槍のように持って、番人へ思いっきり投げつけた。

 椿先生は風を切って進んでいき、握った剣を番人に向ける。

不可越の脂肪壁ゲートウォール!」

ウィズダムスピアー!」

 2人の必殺技が衝突する。凄まじい衝撃がこちらまで伝わってきた。

「なかなかやるね!」

「二度も同じ手で負けない!」

 2人は剣とお腹の肉で鍔迫り合い(?)をしながら短い間話す。

 椿先生は一旦番人から距離を置く。

「第三宝具、天地揺るがす脂肪の鐘アブソリュートバーストクエイク!」

 番人は自らのお腹を右手で叩いた。

 すると、そのお腹からビームが放たれた。

『ッ!』

 そのビームは僕達に向かって飛んできたが、

精霊絶対加護スピリチュアルガーディアン!」

「真希!?」

 僕は真希の名を呼んだ。

「みなさん! 今のうちに逃げてください!」

 真希は、番人の天地揺るがす脂肪の鐘アブソリュートバーストクエイクを防御魔法の最上級魔法である精霊絶対加護スピリチュアルガーディアンで受けながら叫んだ。

「早く! あたしのことはいいから!」

 そんな真希に、

「駄目! せっかく再会できたのに……わたしも手伝う!」

 希望は涙ながらに言った。

「ううん。いいの。ここで死ぬのはあたしだけで十分」

「真希がいないなら私は生きてる意味ない! だから死ぬなら私も……」

「希望!」

 真希は希望を叱るように叫んで、

「あなたが生きていることでこの世界は救われるの。だから死んだら駄目」

「でも……」

 希望は涙目で俯いた。

「でもじゃない! 希望はいっつもそう言ってばかりで全然成長してない!」

「……」

「天国のお母様とお父様にそんな報告できない。だからせめてしゃんとして!」

 真希が言うと、希望は涙を拭って前を向く。

 最後に真希は笑顔で、

「希望、それじゃあね――」

「――そうはさせんぞ!」

 ――ヒュン! シャキン!

 あまりに一瞬のこと過ぎて、誰もが今起こったことを理解できなかった。

「お遊びはここまでだ」

 僕達が番人の天地揺るがす脂肪の鐘・《アブソリュートバーストクエイク》をキャンセルさせた者を目で捉えることができたのは、その声が聞こえてからだった。

「剣聖でございますか!?」

 椿先生は敬意を込めて尋ねた。

「そんな名は知らぬ」

 白い髪の毛と髭を長く生やした老人は刀を鞘に収めながら言った。

「わしには目白幸隆ゆきたかっつー名がある」

 そう、彼は今年で73歳を迎える爺さん目白であったのだ。

「大丈夫か小童こわっぱ

 真希は目を白黒させていた。

「あ、あたし生きているですか!?」

「真希!」

 希望はトテトテ走っていって真希に抱きついた。

「剣聖! 真希を助けてくれてありがとうございます!」

 騎士界の頂点に君臨する希望ですら、剣聖である異邦人の目白さんには到底及ばない。そのためこのように敬意を示す。

「礼には及ばぬ」

 剣聖目白は遥か遠く、極東のジパングからやって来た武士であるそうだ。というのも僕が物心ついたときから目白さんは剣聖だった。

「おのれェ! どうしてここでお前が現れるのだ!」

 番人は叫んだ。

「後は任せておけ。下がっていろ小童ども」

 亀有さんも真希も希望もゲイーズ青戸も椿先生も、もはや番人に勝つ戦力が残っていない。

 ここは剣聖目白に任せよう。

「第四宝具! 無限の肪製アンリミテッドフードワークス!」

「居合斬り!」

 番人は両手を天に掲げ、目白さんは柄に手を置いた。

「ふッ」

「……」

 番人は鼻で笑い、剣聖目白は無言で刀を鞘に

「さすが剣聖だ。オレには手も足も出ない」

「……」

 番人は笑顔でそう言うと、その巨大質量が一気に床に落下した。



「いやー、今回も面白かったね」

 僕は背伸びをしながら言った。

「前回よりも登場人物が多かったしな」

「そうだな」

「すっごく楽しかったです!」

「またやりたいな」

 亀有さん、涼太、真希、希望も満足そうに笑っている。

「ほんとよねぇえ! ワタシ、前回よりも役立ててよかったわ!」

「オレも牛丼食べたくなってきたよ」

「お、おでもだのじがっだ。ゲームのながだっだけどロリじょくじゅだのじめだ! デュフフ」

「先生も楽しかったわ! みんなと協力して戦うってやっぱり楽しいわね!」

「はッ! テレビゲームよりはマシだな」

 そして途中参加したメンバーも口々に感想を吐露する。

 このオカルト人狼ゲームはこのようにたくさんの役職があって、バージョンも様々だ。今回は前回の続き(前回内容を知らなくても分かる)のTKG(トランスキラージーニアス)編(全2部構造)。他にも、トレジャーハンティング編(全3部構造)とか、巨龍討伐編(全4部構造)などがある。制作はパソコン部と協力しました。

 次回はトレジャーハンティング編をプレイしたいね。



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