第四章 ある日の放課後のひととき
☆王様ゲーム☆
「では始めよう」
『王様だーれだ!』
僕達5人は一斉に割り箸を引き抜く。
そう、僕達オカ研は王様ゲームを始めたのだ。
「まずは私が王様だ」
亀有さんは続いてボックスの中に手を入れ、お題を引き出した。
「2番の人が尻文字をして、3番の人が当てる。お題は王様が決める」
「え! えぇぇぇぇぇぇ!」
「……」
叫んだのは真希で、僕は目をぱちくりさせた。
「だ、誰がこれ書いたんですか! 出てきてください! 出てきてあたしにかじられてください!」
真希はぷんすかみんなを見渡す。
「俺だが?」
涼太はおずおずと挙手する。
「酷いです! 私、女の子なんですよ!?」
ポコポコと涼太の胸を拳で殴る。かじらないんだね。
「つべこべ言うんじゃない。ではお題は……」
亀有さんがそう言って真希に耳打ちする」
「え!? む、無理です! 恥ずかし過ぎます」
「王の言うことを聞けないのであれば、懲罰をするまでだが?」
亀有さんは目を細めて真希を上から見下ろす。その顔がこ、怖い……。
「ど、どんな懲罰ですか?」
真希は恐る恐る聞いた。
それに亀有さんはガチロリコン板橋みたいなキモイ顔をして、それどころかガチロリコン板橋の真似をして、
「そうデュフね。全裸で十字架に貼り付けるデュフ! デュフ! デュフフフフ!」
「そ、それは嫌です! 絶対に嫌です!」
「わがままを言うな。そんなことを言うならどっちもやらせるぞ?」
亀有さんは声を低くして言った。
「わ、分かりました! やればいいんですね!」
真希が薄い胸の前で拳を握って叫んだそのとき、Dの気配がした。それも一つではない。複数だ。そして一番前に一番強力なものがある。
「や、やばいぞ!」
亀有さんは立ち上がった。
「ど、どうすりゃいいんだよ!」
涼太もテーブルに拳を振り下ろした。
「な、何がどうしたんですか?」
「?」
真希と希望は首を傾げて訪ねてきた。
「アオ! 今すぐ出撃出来るか!?」
涼太がスマホを取り出してゲイーズ青戸に電話をかけ始めた。
「了解だ。今ゲイーズの応援を頼んだ」
涼太がスマホをポケットにしまうと、今度はOの気配が強くなり、その二つがオカ研の部室に近づいてきた。
Dの気配。またの名をデュフの気配はセカンドG・ガチロリコン板橋と、その傘下にある者達から放出される気配であり、どんな人でも分かる危険な匂いがする。今回は真希が羞恥行動をするのを嗅ぎつけて来たのだ。
そしてOの気配はオトコの気配と呼ばれ、ゲイーズ青戸とその傘下にある者達から放出される。
四天王は5人だけで、大食いやロリコン、ゲイはもっとたくさんいる(爺さんは目白さんだけだけど)。
そして、それぞれの四天王の傘下に入ることによって自らの身分を確保しようとしているのだ(特にロリコンやゲイは)。
『デュフ。デュフフフフ』
ドアの向こうで、ガチロリコン板橋の傘下がキモく笑った。
「はわわわわ!」
「ま、またあいつ?」
2人は揃って怯えた。
しかし、外でDの気配とOの気配が混ざりあって、やがてDの気配は鎮まっていった。
この学院の四天王には属性関係のようなものがある。
ロリコンはゲイに弱く、ゲイは爺さんに弱く、爺さんはロリコンに弱い。
それは先日の出来事を思い出してもらえればすぐに分かるだろう。
ガチロリコン板橋の襲撃はゲイーズ青戸によって抑えられ、あの頑固爺さん目白がゲイを認めるわけがなく、しかし爺さん目白の人の性別を判断する基準はガチロリコン板橋なのである。
学食の仙人と番人はこの三角関係には属していないが、互いに弱く、互いに強いのである。
さて、そして本日もゲイーズ青戸とその傘下によってオカ研に平和が訪れましたとさ。めでたしめでたし。
「よし、では続きだ。真希、やれ」
亀有さんは素早く切り替えて、不思議そうな顔をしてドアの奥の様子を推測していた真希にそう言った。
「ふぇ! もう今日は終わりじゃないんですか!?」
真希は意外そうな顔を亀有さんに向けた。
「よし、希望、脱がすの手伝ってくれ」
「おっけー」
亀有さんと希望は同時に真希の制服を脱がそうとした。
「ちょちょちょ待ってください! 分かりましたから! やりますから!」
真希はそう言って僕に小さなお尻を向けた。
スカートは短くて、ほっそりとした色白な太ももが露出している。それが非常に色っぽいし、可愛い。
「じゃあ、行きますよ」
真希はお尻をプリプリ動かして空中に文字を書いていく。
「あうぅ」
「……」
羞恥で顔を赤く染める真希は結構長い間お尻を動かし続ける。
「どうです? 分かりましたか?」
真希は僕の方に向き直った。軽く握った片手を口元に当てて、床を見下ろしながら僕に聞いた。
「ごめん。正直全然分からなかったんだよね。もう一回お願いしていい?」
「え〜! もう嫌ですー!」
「ふははは」
亀有さんはモジモジする真希を馬鹿にしたように笑った。
「ふふ」
「って希望まで!?」
「まあいい。ほら、さっさと再開しろ雌豚!」
突然の罵り! 僕と涼太ですらビックリだよ。
「雌豚!? ひ、酷いですよぉ!」
「どこがだァ! 愉快にケツ振って……誘ってんのか?」
うわうわ、ここでまた学園都市1位のモノマネかい! 引きずるねー。
「や、辞めてください! 今すぐやりますから!」
真希は泣きそうになりながら、いや泣いて大声で言った。きっと心は羞恥と恐怖がごちゃ混ぜ状態だね。
「違ーう!」
亀有さんはテーブルを両手でバンッと叩いた。ど、どうしちまったんだこの人。
「ちーがうーだろ! ちがうだろー!」
「な、何がですか!?」
真希は目をぱちくりさせて尋ねた。
「いや、言ってみたかっただけだ」
「なんなんですかー!」
「このハゲー!」
「は、ハゲ!?」
えぇえええ! まじでどしちゃった系女子過ぎる。
「これも言ってみたかっただけだ」
「もうやめてくださいよ〜」
真希は気を取り直して、再びちっちゃなお尻を向けた。
「次で絶対当てて下さい」
真希は空中に文字を書いていくのだが、ほんとに全く何にも分からない。一文字目から読解不可能だ。真希、君は尻文字下手過ぎる。やったことないのね。まあ、やらない方がいいよ君は。まじで破壊力ぱないから。きっとガチロリコンズなら謎の死を迎えると思うよ。
「亀有さん! これ漢字使われたりしないよね!?」
「もちろん使われているが……」
「それは難し過ぎるでしょ! せめて全部平仮名にして!」
「しゃーないな。真希君平仮名で書いてやってくれ」
「またですか……?」
真希は項垂れていたが、尻文字を続行する。
僕は真希の書いた文字を大体解読することが出来た。しかしそれは単語ではなく、文であり、その上普通ではない。いかにもこの学院の生徒が考えそうなやつ。
「どうした桜田。分かったならさっさと言え」
しかしこれはあくまでゲームであり、遊びだ。
「『お兄ちゃん、そんなに真希の裸が見たいの? ならしょうがないから見してあげる』でしょ?」
僕がそう言うと、一瞬再びDの気配が大きくなったが、すぐに消えた。小さくなったのではなく消えたのだ。もっと正確に言えば、ゲイーズ達に消されたのだ。ゲ、ゲイーズの皆さん強過ぎ……! そりゃあまあそうだよね。彼らは全員ボディービル部だもん。
僕は言葉を継ぐ。
「って! 何なのこのお題!」
「本当です! そもそもなんでこんなに長いんですか!? 私をはずかしめたいんですか!?」
僕に便乗して真希も亀有さんを非難する。
「ああ、そうだ。真希の恥じらう姿、滑稽でありながら可愛かったぞ」
「蘭は酷いです!」
真希は腕組みをして怒りを表現した。
確かに、真希は元々可愛らしい顔をしているので、恥じらう顔も必然的に可愛いのは分かる。
『王様だーれだ』
「あたしだ!」
次の王様は真希に決定した。
「くくく、絶対仕返ししてやる……」
さっきの恨みが込められてますねー。
真希はボックスからお題を引き出した。
「えーっと。王様と2番の人がじゃんけんをして、王様が三回連続で勝つまで続ける。王様は負ける度に1枚ずつ服を脱いでいく。……って! これあたしが不利じゃないですか!? 一方的に不利な野球挙じゃないんですか!?」
真希はそう言ってテーブルを叩き、立ち上がった。
一方的に不利な野球挙、それはもはや野球挙ではなく、ただのセクハラだ。
「フハハハハ!」
「マッキーはとことん運がないんだな」
亀有さんと涼太は真希を馬鹿にしたようにそう言った。
てかマッキーって! この学院は全体としてニックネームを付ける偏差値低めだな!
四天王に関しても、かっこよくしたいからって全部Gから始めることにしたらしいから、ガチロリコンとかいう謎なネーミングのやつあるし。
あと椿先生は僕のことキ君って呼ぶし。キー君とかなら、まあ悪くないけど、伸ばし棒なしってセンス悪すぎでしょ。
「それで、2番の人ってです?」
真希は尋ねた
「僕だよ」
僕は恐る恐る手を挙げた。
「また樹君ですか!? そろそろ羞恥の限界に達っしちゃうんですけど! それとこれ考えた人誰です!?」
「私だ」
「自分がこれをしたらとか考えなかったんですか!?」
「そんなことを考えていたらこの王様ゲームはつまらないだろ」
まあ、たしかにその通りだけど……。
「いいから、さっさとやれ!」
「いや、無理です! 私は女の子です……」
「真希、やりなさい」
希望が真希に言う。
「あぅううう」
真希は瞳を潤ませながら唸った。可愛い。
「さあ、始めるんだ!」
亀有さんは急かす。
真の男女平等主義者怖い。何事においても男女平等とか末恐ろしいよ。
「わ、分かりましたから! 心の準備ってのもさせてください!」
真希は深呼吸した後、小さく「よし!」と気合いを入れた。
「樹君、行きますよ!」
そして右の拳を強く握って僕に向けた。
「うん」
僕は唾を呑み込む。
『じゃーんけーん、ポン!』
僕はグー、真希はチョキを出した。
「まままま負けたー!」
真希の顔は絶望に満ちていて、口を金魚のようにパクパクさせていた。
「はわわわわ!」
「フハハハハ。さあ脱げ。脱ぐんだ!」
亀有さんはそう言って、手をワキワキさせて真希に近付いた。やばいよ亀有さん、ガチロリコンの傘下に入りかかってるよ! 気付いて! あのキモイヤツらと同等になりかけてるんだよ!
「や、辞めてください! 自分でちゃんと脱ぎますから!」
真希はそう言ってセーラー服のリボンを外した。
「これでいいですか?」
「何馬鹿を言ってるんだ。一枚脱げと言ってるんだぞ」
「そ、そんなぁ〜ですぅ。流石に無理です! だってこの下下着ですし、それに男の子もいます。あと板橋さん達がまたあたし達を狙って来ます」
真希はそう言って部屋の角に逃げた。
「ヴァカめ! 自意識過剰だ。ぷぷぷー」
「違うんです! 怖いだけです!」
「そうかそうか。まあどうでもいいんだが、まさかルールを忘れたとは言わせんぞ」
と亀有さんが真希に言った。
「分かりました。ですがあっちを向いててください!」
そう言われて僕達は真希から目を離す。
シュルシュルと衣擦れの音が聞こえてくる。
「い、いいですよ……」
そしてそこには頬を赤く染めて、上半身スポブラだけの真希が立っていた。
身長相応のちっちゃな胸だが、色白な素肌が美しい。はっきり言って凄く可愛い。
「じ、ジロジロ見ないで……ください」
『ポン!』
――シュルシュル
『ポン!』
――シュルシュル
『ポン!』
――シュルシュル
真希は遂に全裸になってしまっていたが、カーテンに包まってその体を隠していた。
「さあ、次負けたらそのカーテンからも出てきてもらうぞ。みんなに羞恥をさらすんだ!」
「そんなの死んでも無理です!」
「フッ! なら三連勝するんだな!」
亀有さんにいじめられた真希は割と本気で涙を流していた。あらあらー。
僕はそんな真希に近付いてカーテンに声をかける。
「真希、僕はずっとチョキを出すから……」
「……ほんとですか? 信じていいんですか?」
真希は真っ赤な顔だけを出してそう言った。
「うん」
てな理由(わけ)で僕と真希はじゃんけんを再開し、
「つ、次で最後ですね……」
「うん」
僕達はそう確認を取り合って、
『じゃーんけんーん……』
最後のジャンケンを開始した。
『ポン!』
もちろん結果は真希の勝ちである。おめでとー!
「や、やった〜! 遂に勝った! うははー! やーっと羞恥から解放される〜!」
『…………』
僕達4人は沈黙せざるを得なかった。
「あ、あのー。真希?」
僕は部屋中ではしゃぎまくっている真希に怖ず怖ずと話しかけた。
「どうしたですか、樹君?」
真希はクルクルと回って僕の元に寄ってきた。
そんな真希を見て亀有さんと涼太は、
「馬鹿だな」
「馬鹿だ」
と、完全一致した言葉を発した。
僕もそれには同感だ。
何故なら……、
「真希、まず、服着たらどうかな?」
今、真希は素っ裸だからだ。
真希は頭を下げて己の身体を目視。次に僕の顔に視線を向ける。
真希の顔は赤熱化していった。熱が僕だけでなく、亀有さんや涼太、希望にも伝わっている様だ。
「ぴにぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
『王様だーれだ!』
「うっしゃぁああ! 俺だーッ!」
真希は先程の事件があってから戦意喪失して、部屋の隅で僕達に背を向けて体育座りしていた。しかし亀有さんが無理やりテーブルに座らせて5人でゲームが再開される。
真希は目元を前髪で暗くしていて、すごく落ち込んでいる。そして人形みたいに固まっている。
「そいでボックスからお題を取りまして……。んーとなになに? 王様は4番の人の言うことを聞く……? なんじゃこりゃあぁ!? さてはランチーだな!?」
涼太はお題の紙をバンッと亀有さんの前に叩き置く。
「そうだが。それがどうした?」
亀有さんも4番の割り箸をテーブルに放り投げた。
「どうしたもこうしたもあるか! どうせパシリに使うんだろ!?」
「少し違う。奢れ」
「なんだよそれ!」
「ルールには従え」
亀有さんは涼太を見下ろす様に言った。
「ぐぬぬ! わーったよ! んで? 何を奢りゃーいいんだ?」
「なぁに。食堂の最高級商品に決まってるだろ」
「なん……だと……」
「ええ!」
涼太だけじゃなくて僕まで驚いてしまった。
それもそうだ。だって学食最高級商品というのはいわゆるブルジョワメニューと呼ばれているもののことだ。
「あ、あのひと皿5千円もするあれかよ!?」
「当然だろ。何故なら私は王なのだからな! フハハハハ!」
亀有さんは強気で言って鼻で笑う。
「この愚王め……! どうせ革命起こされて亡命するのがオチってもんだろ!」
「言ってろ」
『王様だーれだ!』
「私」
希望は僕に王様の割り箸を見せつけながら言った。そして続いてボックスからお題を取る。
「王様と5番の人は王様ゲームをする」
希望は淡々と起伏なく言う。
「おお! ここに来て定番登場か」
「やっとって感じだな」
亀有さんの発言に涼太は手を組みながら何度か頷く。
「ちなみに5番は誰?」
「私ではない」
「俺でもねー」
「僕も違うよ」
ってことはつまり……、
「じゃあ真希だね?」
未だにしゅんとしている真希だ。
「ふぃや?」
「私とポッキーゲーム」
「……? ふぇ〜!?」
一気に正気に戻って目を白黒させる。
「ほれ、ポッキーだ」
亀有さんは希望にポッキーを渡した。
「それを口に咥えるんだ」
亀有さんが説明すると希望はその指示に従ってチョコの方を咥えた。
「あたしもこっち側咥えるの?」
「そうだね」
真希はゴクリと唾を飲み込んでからゆっくりと希望とは逆端をちっちゃく咥えた。
「さあ、では2人とも近付いて行くんだ」
亀有さんがそう促すと、希望はポリポリと少しずつポッキーを折って食べていく。
真希は目をギュッと瞑ってちょびっとかじった。
2人の整った可愛らしい顔がどんどん近くなって行く。
希望は相変わらずの無表情だが、それに反して真希の顔は赤くなっている。女子同士でもこういうの恥ずかしいのかな? というか姉妹同士だけど。
そして遂に、2人のちっちゃな桜色の唇の距離がミリで測る程になった。
真希は今にも逃げ出したいオーラが漂っている。
――ポリッ
――チュッ
真希は目を見開いた。
おお! これは凄い! 可愛い2人が間近でキスしてる……。
さっきのもそうだけどガチロリコンズが見たら死にますね。はい。
「いい。映えるな」
「こんなのマンガとかアニメだけのものだと思っていた……」
亀有さんと涼太はそう言うが、しばらく2人の唇は接触していた。
「ぷはぁ! はぁ、はぁ、はぁ」
真希は息を荒くしていた。希望の方もいつもより深く呼吸している。
「あ、あたしのファーストキスが……」
「真希のくちびる、甘かったよ」
「希望のもおいしかった」
ちょいちょい! その発言ヤバいよ! ガチロリコンズが聞いたら悶死ものだよ! それにポッキーの味が美味しいんだと思うよ!
『ごちそうさまでした!』
亀有さんと涼太、そして僕は揃って椅子から立ち上がり、折り目正しく2人に礼をした。
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