第三章 四天王

 ☆セカンドG・ガチロリコン板橋☆



 オカルト人生ゲームをした日から数日たった日の放課後、僕達オカ研はトランプゲームを楽しんでいた。

 そんなとき、

 ――ドンドンドン!

「はーい」

 僕が代表してドアを開ける。

「ここここんにちわ、オカ研のみなさん!」

 鼻にかかったような声の持ち主で、頭にはバンダナが巻かれており、丸ぶち眼鏡を掛けた男がそこにはいた。

 彼を見て、愕然とする僕と涼太と亀有さん。その光景に首を左右に傾げる真希と希望。

「お、お前は……!」

『ガチロリコン板橋!』

 僕と涼太と亀有さんの声が重なった。

 それもそのはずだ。

「デュフフ! がわいいごばっげーん! デュフフフフ!」

 ガチロリコン板橋は手をわきわきさせて真希と希望に接近しだした。

「2人とも避けろ!」

「デュッフー!」

 亀有さんの声に、硬直していた2人は我に返り本能的に、飛びかかってきたガチロリコン板橋を避けた。

「な、何なんですかこの人!」

「き、きもい……」

 2人とも引いた目で板橋を見る。

「説明は後だ! 今は逃げるぞ!」

 亀有さんは2人の手を引いて部室から飛び出した。

 僕と涼太も後に続く。

「待てデュフー! ぐふぇ!」

「ナイス涼太!」

 涼太は勢いよくドアを閉めて板橋の行く手を塞いだ。それにより板橋はドアに激突し、逃げる絶好のチャンスを作り出したのだ。

 僕達は逃げる。逃げる。逃げる。そして逃げる。

 この学院には3つの棟がある。

 授業で使う教室棟。

 部活で使う部室棟。

 学院生全員の部屋がある寮棟(全部で6つあり、それぞれに500人いる)。

 この3つの棟は三角形の頂点の位置にあるので、どこからでもどの棟に行ける。

 なので僕達はまずは教室棟へ逃げ込む。

「待で待で待でデュフー! がわいいロリごだんだべだいデュフー!」

 来てる来てる! 徐々に距離詰められてる!

「クッ! 相変わらず気持ち悪い!」

 亀有さんは吐き捨てるように言った。

「ロリって誰のことなんですか?」

「??」

 2人は走りながらも尋ねた。

「お前らのことに決まってんだろー!」

 亀有さんは叫んだ。

「ななななんでですか!? あたしロリじゃないですよ!」

「16歳!」

「バカヤロー! 貴様ら鏡見たことないのか!? お前らのその見た目は全然ロリなんだよ!」

「ふわわわわ!」

「それって背が小さいから?」

 真希はあわあわして、希望は悲しそうに呟いた。

「背も小学生並だし、胸もぺったんこだし、お尻もちっちゃいし、スタイルも悪いし、顔も幼いし。もう全部だ!」

 亀有さんは2人にそう言って踊り場の壁に隠れた。僕達も隠れる。てか普通に馬鹿にしてる……。

「そんなことあたし達も分かってます! だけど他人に言われると無性に悲しくなるです!」

「です!」

 2人は揃って薄い胸の前で小さな両の拳を握り、ほっぺたをぷくーっと膨らませた。わぁ、可愛い。

 喧嘩をしている場合じゃない! これは真希と希望の生死に関わる重大な出来事だ。

「みーづげだー! デュフフいっだだっぎまーず!」

 ヤバイ! 追い付かれた!

「みんな逃げろー!」

 真希と希望を抱きしめようとした板橋を涼太が殴って止めた。

「涼太!」「赤羽!」

 僕と亀有さんは同時に叫んだ。

「先に行け! ここは任せろ!」

「でも!」

「ゲイーズ青戸の所に迎え。奴はお前らを救ってくれる」

「ゲイーズ青戸って、あのサードGのゲイーズ青戸!?」

「そうだ」

 すると亀有さんは涼太を心配して突っ立っている僕の腕を掴んで走り出した。

 そのときに見えた涼太の後ろ姿はこの前同様、戦士であった。



 ☆サードG・ゲイーズ青戸☆



 サードG・ゲイーズ青戸は四天王の一人であり、その質の悪さはセカンドG・ガチロリコン板橋に匹敵する程である。

 そして僕達はゲイーズ青戸の元を訪れた。

「失礼します!」

「あらーんま! 樹ちゃんじゃなぁあいぃ」

 オネエ喋りで迎えてくれたのはゴリマッチョで巨人な色黒の男。

「あら? どうして初等部の子が? それに男の子なのに髪の毛結んじゃって、ワタシ、好きかも。うふふーん」

 相変わらずキモイ。

「お、男の子!?」

「私達は女の子!」

 真希は青戸の言葉にショックを受けている。そりゃあそうだよな。いくら女の子っぽくなくても今のは傷つく。

 希望も床を蹴ってちっぱいを強調している。女の子だぞ! って表現してるんだ。

「貴様、相変わらずキモイな!」

 いやいや亀有さん、そこは心の中で言うところ! 僕もそうしたんだから!

「ッチ!」

 亀有さんの言葉を聞いて、青戸はあからさまに舌打ちをしてテーブルを拳で叩いて立ち上がり、

「あーんたみたいな女がなーんでいるのよぉおん! さっさと出ていって!」

「なんだとこのゲイ野郎!」

「女!」

「ちょっと待って!」

 こんなことしてる場合じゃない! 今はガチロリコン板橋から真希と希望を守らなければならないんだ!

「僕達は喧嘩しに来たんじゃないんだ!」

「そうなのぉおん?」

「うん、実はこの2人はこの前6組に転校してきた双子の女の子なんだ。それでガチロリコン板橋に追い回されているんだ」

 僕がそう説明していると、

 ――ガラガラガラン!

「デュフフ、デュフフフフ! みーづげだー! おいじぞうおいじぞう! いだだぎまーず!」

 やばい!

「「きゃーっ!」」

 2人は同時に叫んだ。大型の肉食獣に追い詰められている小動物みたいだ。

「あんらぁ! 慶介さんじゃないのぉおん!」

 青戸はそう言って真希と希望を襲おうとした板橋の手を握った。

「邪魔をずるな!」

 板橋はそう言って青戸の頬を殴った。

 しかし、

「あらあら、蚊でも止まってたのかしらん」

 青戸は全然びくともしていない。

「なッ!」

 それに板橋は目を見開いた。もう一度、今度は腹を殴った。

「まぁ、すばしっこい蚊がいるもの……ねぇッ!」

 青戸が言葉を強めた瞬間、板橋が目の前からいなくなった。いや、正確には目の端に板橋が瞬間的に移動したのだ。

 だがその板橋の体はぐったりと泥のように力が抜けていた。

「あらまあ、ワタシとしたことが……。ホホホホホ」

 そう、ゲイーズ青戸がガチロリコン板橋を殴り飛ばしたのだ。

 そして青戸は上品に笑おうとして気色悪く笑った。

 すると、

「よ、よぉ。2人は無事なようだな……」

 入ってきたのは顔面が腫れたり傷付いた涼太だった。

「ど、どうしたのその傷!」

 僕は駆け寄った。

「どうしたもこうしたも。板さんにやられたんだよ。だがお前らがアオのところにたどり着いて本当によかったぜ」

 板さんってのはガチロリコン板橋のことで、アオってのはゲイーズ青戸のことだね。

「ありがとうアオ」

 涼太はそう感謝の言葉を述べた。

「いいのよぉおん! この前の対決では、いいもの見せてもらったからねぇえん」

 そう言って青戸は涼太にベッタリとくっつく。ひぃー! キモイキモイ!

「にしてもその怪我大事ょぉおぶん?」

 青戸は救急セットを片手に持って、もう片方の手でソファをポンポン。

「だ、大丈夫だ! 俺が板さんに勝てなかったのは腹が減ってただけだから」

「何言ってるのぉおん! 傷があったら手当てする! じゃないとバイキンが入るでしょ!」

「お、お前がバイキンだー!」

 涼太は青戸の力で無理やりソファに座らせられて、そう叫んだ。

 いくら筋骨隆々の四字熟語が似合うとしても、身長2mのある現ボディービル部部長には勝てない。



 ☆フォースG・爺さん目白☆



「もう散々でしたよ!」

「プンプンだ!」

 被害の中心である真希と希望は少しお怒り気味。2人とも腕を組んで、またほっぺたをぷくーって膨らませている。

 涼太には身代わりになってもらて、僕達4人は部室に戻る道中にいた。

 そんなとき、

「ごーっらぁあああ!」

 突然の図太い声が僕達の横から聞こえた。

「はわー!」「わ!」「!!」「!?」

 僕達はみんな、声を出して驚いた。あまりにも突然だからしょうがない。

「あ、あなたは!」

『爺さん目白!』

 そこには艶のない白髪と髭を長く生やしたお爺さんがいた。

 爺さん目白。それはただの歳をとっているように見える学院生ではない。

 ガチで73歳のおじいちゃんである。3人の子どもと7人の孫がいるおじいちゃんである。この学院を退職した先生とかではなく、ただここの生徒だ。

「廊下は静粛にするものだぞぉおおお!」

「「す、すみません!」」

 僕と亀有さんは同時に謝罪した。

「決しからん! それに高等部に初等部の人を連れて来るでないだろ! それでもお前ら高等部なのかぁあああ!」

 めちゃくちゃ怒ってるけど、ちゃっかり2人を馬鹿にしてる……。

「あたし達は初等部じゃありません!」

「高等部!」

 2人は目白さんに言う。

「戯けー! 嘘をつくな!」

 そしてこの爺さん目白の特徴は『超』が付く程頑固もの。

 きっと自分の孫と同年代だから厳しくなっちゃうんだろうね。

「本当です!」

「エンブレム!」

 希望は胸の高等部のエンブレムを見せつけた。

「そんなものは簡単に取り付けられる。それになんだ! 何故男が女装してるんだ!」

 目白さんは希望の胸のエンブレムを忌々しそうにつついて言った。

「はわわわわ! 希望!」

「っ!」

 真希はあわあわしながらその光景を見つめる。老人が希望の胸を平然と触っている光景を!

「ふん! 女装するならもっと胸を大きせんとだめやろ!」

 目白さんは腕組みしてそう言った。

「ほ、ほんとなのに……」

「おじいちゃん酷い!」

 2人の目がキラキラしだして、目の端にまーるい雫が溜まっている。

「な、泣くでない! じいちゃんが悪かった!」

 いきなりの低姿勢。

「ふはははは!」

 亀有さんが急に笑い出した。そして実は僕も笑いを堪えていたんだよね。

 爺さん目白は2人の頭をヨシヨシなでなでしてる。

 やっぱり学院生とはいえ、7人の孫のおじいちゃんだ。きっと子どもの涙に滅法弱いんだろうね。



 ☆4G・四天王☆



 僕達は再び部室へ戻る帰路へ着こうとしていた。

「おーい、待ってくれー!」

 声で後ろを振り向くと、顔に大きな絆創膏が貼られた涼太が走ってきた。

「終わったのか?」

「なんとかな」

 涼太は頭を掻きながらそう言った。

「ちょっと涼ちゃーぁあん! 忘れ物よぉーおん!」

 このオネエ声、見ずとも誰かが分かる。

「ゲイーズ青戸!」

「げ! ゲイ野郎!」

「キモイ人だ」

「髭ボーボー」

 僕達は口々にそう言う。

「ちょ、何なのよ全く! こっちが涼ちゃんの忘れ物を持って来てあげたっていうのに!」

 青戸はそう言って、細長くて背の低い角柱を涼太に渡した。それは赤と黒の漆で塗られていて、金で模様を施している。凄く高級そう。

「すまんなアオ」

「それはなんだ?」

 亀有さんが涼太に尋ねた。

「これか? これは箸と箸ケースだ。この前の対決の副賞でもらったんだ。なんたって輪島の超逸品だそうだ」

 涼太が言うと、僕達もゲイーズ青戸と爺さん目白も揃って驚いた。

 そんなとき、

「デュフー! デュフフフフー! がわいごぢゃんばっげーん! ごんどごぞたべでやる!」

 ゲイーズ青戸の部屋から四足歩行でガチロリコン板橋が駆けてきた。

「ふわわわわ!」

「いや!」

 2人は僕の後ろに隠れた。

「ごらっー! 廊下を走るなー!」

 目白さんが板橋に叫んだ。あ、ちなみに目白はこの厳格な態度を風紀委員長に買われて風紀委員になったんだよね。

「デュフ。美味じぞうなロリっ子だ」

 無視した板橋だが、

「な! ま、まさかこやつらは女だったのか!?」

 目白さんが白髪頭を抱えて天を仰いだ。この学院の人って頭抱える人多いよね。

 そう、ガチロリコン板橋はただのロリコンではない。彼はロリを愛するがショタは忌避するが故に、女か男か際どい人をどちらか見分ける能力を得ているのだ。

 従って彼が真希と希望をロリと言ったのだからロリなのだ。

「そ、そんなッ……。わしとしたことが……ッ!」

 つまり、目白さんはずっと2人を男の子だと思っていたので、自分のしたことがヤバイことに気付き、悶え始めた。

「わしとしたことが……。孫と同い歳の子のお、おっぱいを……」

 そんな目白さんを心配に思ってか、真希と希望は近寄った。

「あ、あのー。あたし達もう気にしてませんから」

「反省してるなら、よし」

 2人ともすげー優しいな。

「ま、まことかッ!?」

「はい」

「ん」

「ワタシは認めないわよ」

 突然青戸は言い張った。

「この2人は女装した男の子よ!」

 いやいや、認める認めないじゃないから。普通に女の子だよ? 2人とも。

「何を言っている青戸の坊主! 板橋の坊主がそう言ってるのだぞ!」

「こんな可愛い女の子なんていないわよ! 可愛いのはみんな男の子なのよぉおん!」

 やっぱり質がわりぃな。

 おじいちゃんとオネエさんが互いに睨み合った。

 そしてそれを見守る僕、亀有さん、真希と希望に犯罪者予備軍(常に真希と希望の方を向いていて、ヨダレを垂らしている)とフードファイターと肉ダルマ――、

「肉ダルマ!?」

 僕はいつの間に隣に来ていた巨大質量に驚かざるを得なかった。

 僕のその声にみんなも彼に気付いた。

『番人!』

「なんか楽しそうだったから来てみたよ」

 相変わらず気道が肉で塞がっている感じの声だ。

 そしてここにて素晴らしいことが起こった。

 四天王が勢揃いしたのだ。



 記念といってはなんだけど、僕と亀有さんはあまりの珍しさに、みんなで写真を撮ってもらった。

 いやー、にしてもこんなことあるんだなぁ。



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