28.明日への勇者達
ハーヴェイはヘリウスの提案を黙って聞きいた。
彼が言うには、魔王は神聖存在を脅かす程のどえらい事を企んでおり、それを阻むためにハーヴェイの協力を欲していた。
「だったら自分でやればいいだろう?」頭に思いついた感想を滑らかに口にする。
ヘリウス曰く、それは出来ないと語った。
彼ら監視者は天空、海原、そして冥界と3人おり、皆はそこから人類を見守っていた。
その大昔、余りにも人類が神を必要としていた為、試しに地上に降り立った事があった。それが『人と神の戦い』の引き金となり、この戦争以降、彼ら神聖存在は地上へは立たないと心に誓った。時折、監視者の存在を知り、弟子入りする者が現れた。そういった者達を地上へと遣わす事がある。
そこまでヘリウスは語り、改めてハーヴェイの協力を求めた。
「何故、俺なんだ?」
「預言者の石板を破壊しただろう?」
「あぁ……」
実は、石板の正しい使い方とは『破壊する事』であった。
石板は卵と同じであり、破壊しなければ力を取り出す事は出来なかった。その為、魔王よりも先に破壊する必要があったのであった。
ハーヴェイはそれを知っており、焦れた魔王がこれに気付かないか冷や冷やしていた。
「預言の力は今、君の中にある。どうだろう? 僕らの為に魔王の野望を阻んでくれれば、その力は君に預けるよ。ただ、ここでしばらく修行して貰うけどね」
「……そうか……」ハーヴェイは考える様に唸り、しばらく黙り込んだ。
このまま冥界で一生を終えるも、転生するも悪くないと思っていた。
だが、アリシアや他の仲間の顔がチラつき、ふっと笑みを漏らす。
「いいだろう。ただ、ひとつ言っていいか?」
「なに?」ヘリウスはつぶらな瞳を向ける。
「お前、あんまり冥界の王っぽくないよな……」
「だからそう言う呼び名はやめてってば!」
星輝く真夜中の黒勇隊4番隊キャンプ地。
「これからどうするつもりだ?」ゼルヴァルトはナイアに物資を渡しながら問うた。
「教えない」意地悪そうな表情を覗かせながら遠慮なく鞄に詰め、肩から下げる。
「その方がいいな」
「貴方こそ、これからどうするの?」
「……私はこのまま、魔王の傀儡だろう。戦い方がまだわからない。だが、ただの操り人形ではない。君を助けたのが、その証拠だ」
「ワザと泳がせているの、かも」ナイアは試すような口ぶりを見せ、ゼルヴァルトのマスクの隙間から覗く瞳を覗く。「……ふふ、あの魔王に顔面パンチをくれてやったからね。そんな余裕はないわね」
「それはさぞ、爽快だったんだろうな」
「全然……むしろ悔しかったよ。今のあたしらには、あれしか出来ない。でも、じきにあれ以上のカウンターパンチをくれてやる!」
「その時が来たら……」ゼルヴァルトは拳を握りしめ、彼女の決意に満ちた目を見た。
「……お礼に良い知らせと悪い知らせを……トラウド国の貴方の家族、奥さんのアイリーンは元気にしているわよ。ヴィントスや王様のお世話になっているみたい」
「…………もう13年か……」
「貴方の事は死んだと、そしてそれは信じていないみたい。で、ここから悪い知らせなんだけど……」
「なんだ?」
「息子さんのエルが、魔王軍に志願したわ」
「なっ……」ゼルヴァルトは言葉を失い、一気に身体から力が抜ける。
「ただの一兵卒らしいけど……実力は中々みたいよ。黒勇隊に入るって、張り切っているそうよ」ナイアは自分の知りうる情報を口にし、彼の様子を伺いため息を吐いた。
「……エル……」最後に別れた時は2歳だった。彼の成長した姿を一目みたいといつも想っていた。
「じゃ、あたしはもう行くから……」ナイアは彼から目を背け、先に広がる闇へ目を向ける。
「……それでも、私は君と行くよ。その先の闇の向こうへ……」ゼルヴァルトは彼女の背に向かって口にし、身体に力を入れ直した。
「期待してるよ、ウェイズ」ナイアは振り向かずに手だけで別れの挨拶をし、光と共に消える。
同じ空の下、時同じくして……。
「アリシア、本気か? 魔王討伐ってさぁ……たった2人で」ヴレイズは寒空を見上げながら苦そうに口にした。
すると、彼女は足元の小石を投げ、フンと鼻息を鳴らした。
「本気に決まっているじゃん!! あたしの村を燃やして、家族同然の仲間を……1人でもやるに決まってるじゃん!! それに……」
「それに……なんだよ……」
「魔王に立ち向かっている人は、きっと沢山いるよ! あたし達だけじゃない! それに、これから仲間を増やせばいいよ!」
「魔王討伐、かぁ……勇者の時代はもうとっくに終わっているんだぜ? そんな奇特な奴、都合よく見つかるのかよぉ?」ヴレイズは呆れた様に笑いながら口にする。
すると、今度はその開いた口の中に小石が投げ込まれる。
「ぺっぺっ!! なんだよ!!」
「ネガティブな事ばかり言わないの! さ、もう寝るよ! 目指せ魔王討伐!!」
ゴッドレス・ワールズ・ファンタジア 外伝 黒勇隊と勇者の時代 眞三 @SHINZA
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