第11話 ピンク編 その11

 せっかく「くぱぁ」してもらっているので、最重要地点が、最初になってしまう。

 事前の注意のために、おっかなびっくり触る。

「おいおい、ミレー。実は童貞だとか」

「んなわけ、あるか。娘、いるのに」

 どうも調子が乗らない。

 いったん中止して、他の、無難な部分から検査することにする。どっちにせよ、何かを隠せるような穴は、あと二箇所しかない。口の中にペンライトを当てる。舌が邪魔で、はかどらない。

「胸とか、調べなくても、いいのかよ」

「お前の胸のどこに、モノを隠せるようなところがあるんだよ。谷間のタの字もないような、ぺったんこのくせして」

「うわ。失敬な。下品なだけでなく、無礼だな、ミレー」

「真実を語っただけだよ、貧乳ちゃん」

 結局、胸、その他全身もくまなくまさぐる……もとい、調査することになった。

「シール、パッチ、その他皮膚に貼り付け可能なアイテムだってあるぞ。表面は火傷治療用の再生医療で培養した本物の皮膚。ある程度汗ばまないと、存在さえ分からないっていう、スパイ御用達の隠しアイテムだ」

「ご親切に、忠告どうも」

「それに、手袋をしてちゃ、感触が掴めないと思うけどな」

 検査対象に、検査手順のいちいちを教えてもらうとは、実にヘンな気分だ。どこかだまされていないか、頭の中で彼女の言葉を反芻しながら、さわる。

「継ぎ目のないような部分に、パッチを隠すのは難しいんだよ。稼動部分、間接もしょっちゅう動くから、すぐに糊がくたびれて、ダメになってしまう。ありうるとしたら、皮膚の起伏が微妙に変わるところ」

 言われて、背中と腕は、ひととおり撫でまわすだけにする。

 胴体部分は、アバラのぶんだけ慎重に。そして、胸は念入りに、だ。

「バストの下のほうの切り替わりとか、怪しいと思わないか、ミレー」

「なんだかもう、検査しているのがお前で、検査されているのがオレっていう気分になってくるな」

 言われたとおり、ゆっくりと下から持ち上げて探ると、「あふん」という声をあげて、彼女は身をよじった。

「すけべな声をあげるな。まじめにやれ」

「あげさせたのは、誰だよ。お前こそ、まじめにやれ」

「なんだか、コントでもやってる気分になるな」

「じゃあ、私が何も隠していない、もうやめようって言ったら、やめるのか、ミレー?」

「やめてほしいのか?」

「ここで中止になったら、私のほうは文句なしに嬉しいよ。でも、それではあなたは兵士失格だ。情にほだされて、部隊に武装解除確認をしないまま、危険分子を受け入れることになる。違うか?」

「違わないな」

「だったら、続けろ」

 彼女に命令されるまま、乳首を指で転がす。下チチのとき以上にエロい反応が……じゃなく、ひどい反応が返ってくる。

「すまん、ミレー。ものすごく気持ち良くなってきた」

「さわってるんだから、分かるって。お前の乳首、もうコリコリに立ってるぞ」

「言うな、バカ」

 下の穴の検査を再開することにする。胸をいじりすぎた……もとい、念入りに検査しすぎたせいで、再検査は容易になっていた。

「ワセリンは、いらない」

「言われなくとも、見りゃ分かる。トロトロだ」

 彼女の体内から湧き出る、天然の潤滑油のお陰だ。

「……我慢できない。イカせてくれ」

「ああ。それも分かってる」

 後ろの穴の検査の段になると、今まで鉄面皮を決めていた彼女も、さすがに恥じ入った。

「こちらは、ワセリンがいるな」

「当たり前だ」

「痛いか? 痛くはないようだな」

「どうして分かる」

「もう検査済みの穴のほうから、また潤滑油がトロトロあふれてきてるぞ」

「そういうこと、言うな。女に何度も恥をかかすなよ」

「悪い」

「もう、いい。娘さんに、お仕置きされろ」

「は?」

 なぜか、カツラが戸口に控え、私とピンクブーツ姉のやり取りを見ていた。

「いつから、いたの?」

「最初から」

「……カツラ。大人には、大人の事情ってものが、あってだな……」

「パパ、嫌い。大、大、だいきらいっ」

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